第4話『初めての注文──農婦とスポーツブラ』

村の朝は、土の香りと鶏の鳴き声で始まる。


 裕太が教会の裏で麻布パンティの乾きを確認していたその時、声がかかった。


 「すまんが、ちょっと、相談があってな」


 そう言って現れたのは、たくましい腕と日焼けした肌を持つ農婦──ヨアナだった。

 年の頃は四十を過ぎているが、現役の働き手として村でも一目置かれている女性だ。


 「お前さん、昨日のパンティ……いや、“神具”とやらを広めた男だな?」


 「いちおう……“神具”は違うんですけど……下着職人、です」


 裕太が苦笑しながら返すと、ヨアナは真剣な目をした。


 「実はな……わしの胸、作業中によく揺れるんじゃ」


 その言葉に、裕太は一瞬だけ絶句した。

 だが、すぐに切り替える。職人として、胸部の悩みには慣れている。


 「動くたびにズレる、擦れる、重みで肩が凝る──全部、ブラの問題です」


 「……そうじゃ! まさにそれなんじゃ!」


 「なら、スポーツタイプを作ってみましょう」


 そう言って、裕太はプロボックスから専用ケースを取り出した。

 中には、立体裁断によるノンワイヤーのサンプルが数点並んでいる。


 「これは“動きながら支える”ための設計です。揺れを抑えつつ、締めつけすぎない」


 「これが……布じゃと……?」


 裕太はヨアナのサイズを計測し、最も近いサンプルを渡す。

 彼女は一言、「裏に行ってくる」とだけ言い、試着に向かった。


 数分後。


 「──ッ……!!」


 戻ってきたヨアナは、言葉にならない顔をしていた。

 そして、ゆっくりと胸元に手をあてる。


 「……走っても……跳ねない……!?」


 彼女は驚きのあまり、その場で軽く屈伸してみせた。

 ブラの支えに合わせて、身体が自然に動く。


 「すごい……これで、鍬を振っても、痛くない……肩も、楽……」


 その表情は、かつてないほど晴れやかだった。


 「裕太、お前……この布で、命を救えるかもしれんぞ」


 「……ちょっと大げさですよ」


 裕太は照れたように笑ったが、ヨアナの言葉は本気だった。


 「この村の女たちは、皆どこかに痛みを抱えて働いておる。だが、この下着は、わしらの身体を“支えて”くれるんじゃな……」


 その日から、“作業用ブラ”の注文が相次いだ。

 荷物を運ぶ女性、薪を割る娘、走り回る子持ちの母親たち。

 彼女たちは「揺れない」「痛くない」「呼吸が楽」と口々に言った。


 裕太の作業場は、一気に活気づいた。

 ティナとルーシェも手伝いに入り、採寸と簡単な縫製を繰り返す。


 村には今、新しい風が吹いていた。


 布一枚で、暮らしが変わる──


 裕太は、今日も静かに針を動かす。

 

 「これが俺の、職人としての“戦い”だ」


 異世界ランジェリー革命、着々と進行中。


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