第2話『村の朝、レースにざわつく』
異世界に来て、二度目の朝が訪れた。
服部裕太が泊めてもらっている村の教会宿舎は、質素ながらも温かい。麻布の寝具と藁のベッド、木製の洗面台。彼はまだ違和感だらけの生活に慣れずにいた。
とはいえ、昨晩は予想以上に村人に受け入れられた。「神具」と誤解されはしたが、布に込めた彼の情熱は、確かに誰かに届いたのだ。
朝、目覚めて教会の扉を開けた裕太は、異様な光景に固まった。
──村の広場に、人が集まっている。しかも、全員が女性だった。
少女から中年、老婆まで、二十人はくだらない。
彼女たちの視線の先には、一人の少女が立っていた。
「あれ……ルーシェ?」
昨日、最初に下着を「神具」と騒いで持ち帰った少女だった。
彼女は小さな台に立ち、震えながらも声を張り上げていた。
「わ、私、着てみました……! あの“布”を……っ!」
広場にざわめきが走る。
「ど、どうだったんだい!?」「祟りは!?」「お尻は……無事かい!?」「いや、問題はそっちじゃないだろ!」
ルーシェはぐっと拳を握って言った。
「……これは……まさか……履いてるのに……履いてない……!?」
沈黙。
そして爆発的などよめきが広場を包んだ。
「なんだって!?」「履いてない!?」「それ、逆に大丈夫なのか!?」
「ち、違うの!」
ルーシェは慌てて手を振る。
「履いてるの! でも、履いてるって感覚がしないの! なのに、ちゃんと支えてくれてて……お尻が包まれてて……でも、重くないし、苦しくないし……! むしろ……なんか、安心するの!」
少女の頬は真っ赤だったが、目は真剣だった。
「しかも……なんか、背筋が伸びるし、歩いてるだけで……“女の子でよかった”って、思えるの……」
その場の空気が変わった。
村の女性たちが一斉に前のめりになり、次々に声を上げる。
「私も……試したい!」
「どんな気持ちなんだろう、そんな下着……」
「わしももう何十年も下着は布を巻くだけだったが……その、なんだ……気分が良くなるなら……」
老女までが前に出てくる始末だった。
そこに現れたのが、裕太だった。
「えーと、おはようございます?」
その声に、一斉に女性たちの視線が向けられる。
彼はすぐに察した。状況を。
──これは、試着会だ。
「あ、あの、私……お願いできますか?」
「わたしも、お願いしたいのです!」
「サイズ……測ってもらえるんですか……?」
怒涛のリクエスト。
裕太は、ゆっくりとポケットからメジャーを取り出し、苦笑する。
「……じゃあ、順番に測らせてもらいます」
大歓声。
かくして、“異世界フィッティング会”が開催された。
まずはルーシェの友人、細身で胸の小さな少女・ティナ。
「こういう体型の子には、ノンワイヤーで……」と考えながら、彼女にフィットするブラを探す。
「うわっ、なにこれ……!? 胸が……上がってる……!」
「そりゃ、ちゃんと設計してるからな」
裕太の職人魂が唸る。
次は腰痛持ちの中年女性。彼女には骨盤サポートつきのショーツを選ぶ。
「ほほぅ……これは……なんと、腰が軽い……!」
「これで畑仕事も楽になりますよ」
「ああ……神よ……」
また一人、布に祈る者が増えた。
日が昇る頃には、村中の女性たちが列をなしていた。
裕太はメジャー片手に、ひとりひとりに合わせて採寸、選定、説明。
途中、汗を拭いながら心の中でぼやく。
(……なんで俺、異世界で下着屋やってんだ?)
だが、同時にこうも思った。
(でも、喜んでもらえるのは、悪くない)
──異世界ランジェリー革命、広がり始めた。
この日を境に、「村の女性は神具を纏っている」という噂が、遠く隣町へと伝わっていくのだった。
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