第12話 介護士とスプレー②
「で、そのお爺さんの幽霊は誰か分からないんだね、メイ」
友坂家のいつものミーティングで、アランが訊いた。
「うん、どうやって亡くなったかも分からなかった」
「事件ならニュースになるだろうけど、そんなニュースは聞かないから、事故か自然死として処理されたんだろうな」
アランはタブレットで検索しているが、そのホームでの事件事故のニュースは出て来ないようだ。
「パパが繋いでくれないと、話が出来ないもんね」
「そうだな、その介護士にいつも憑いてるのなら、僕がそのホームに行くのが手っ取り早いが」
「アランと私で、見学に行く? 親を入れるとこ探してるとか言って」
「それはいいアイデアだよ。詩織はいつもいいアイデアを考えつくな」
そう言いながら、詩織の肩を抱くアラン。
「父ちゃんの親はフランスだし、母ちゃんの親は九州じゃんか!」
レイは口を尖らせた。
「そんなの言わないと分かんないじゃん。ホームに行くか、その介護士の家を探して行くしかないのなら、ホームに行く方が現実的じゃん」
メイも両親のホーム見学に賛成した。
「まぁ、そりゃそうだけどな。けど、どっちのじいちゃんばあちゃんもまだ若いし」
レイが食い下がる。確かに、フランスにいるアランの祖父母も、九州にいる詩織の祖父母も六十代前半で、若く見えるし健康である。まだまだ介護の必要は無さそうだ。
「見学に行くだけで、年齢なんか言わないと分からないから大丈夫だよ」
「父ちゃんも母ちゃんもすげえ若く見えるんだぞ、分かってんのか?」
レイの心配は、そこにあったようだ。
「あら、私たちが若く見られるから疑われるとか思ってるの? まだ先の事だけど何があるか分からないから念のためとか、言いようは色々あるわよ」
「そうだよ、レイ、僕たちが上手くやるから大丈夫。なぁ詩織?」
「そうよ、レイ」
「分かったよ。上手くやってよ。それと、イチャイチャすんなよ!」
レイの心配はそこにもあったようだ。
「見学の予約しておいた方がいいな。メイとレイも行かないといけないから、土曜日か日曜日だなぁ。その介護士が休みじゃないといいな」
★☆
土曜日の午前中、事前に予約しておいた見学の為、友坂家の四人は揃って陽だまりの里にいた。
最初に応対してくれたのは、ホームの所長である
「お二人ともまだお若いように見受けられますが、どちらの親御さんの入所を考えていらっしゃるのですか?」
アランと詩織は、三十歳そこそこに見られる事がある。その質問は想定済みだ。
「私の母です。今は九州にいるのですが、いずれこちらに呼び寄せようと考えています。まだ先の事になりますが、いろんな施設を今検討中ですの」
「なるほど。では今すぐと言う話ではないのですね」
「はい、そうですけど、そんな事情でも見学させてもらえますか?」
詩織は意外と演技派だった。しかも今日はまだアランとイチャイチャしてない。レイは、ホッとしていた。
「もちろんですよ。何しろ今すぐとおっしゃられても、空きがございませんので、ご希望に添えないと思いまして。先の話と聞いて、逆に安心致しました」
所長は丁寧な言葉遣いで、さりげなく入居者が多い事を自慢した。
「ところで、お父様のお名前はアラン様と読むのですか?」
入り口で書かされた訪問者の住所氏名などの個人情報の載った紙を見ながら所長が尋ねた。
「はい、父親がフランス人のハーフです」
「なるほど。で、こちらの施設を選んでいただいたのは、どうしてですか」
「この子たちが、見学に来させていただいて、介護士さんがとても親切で、入居者の方も幸せそうだと言うもんですから」
詩織がしれっと嘘を言った。
「ああ、先週から盛山中学の生徒さん達が見学に来ておりますよ。君たちもその中にいたんだね」
「「はい、そうです」」
二人がシンクロして答えた。双子あるあるである。
「では、係の者を呼びますので、しばらくお待ち下さい」
そう言うと、所長は応接室を後にした。
「詩織、上手く話せたね!流石だよ〜」
アランが詩織をハグしようとするが、途端に「おいっ」とレイの牽制が入る。
「そんなのは帰ってからやれよ!」
「ハグくらい良いじゃないか。詩織の演技があんまり上手いから、褒めたくなったんだよ〜」
「褒めるとか、子どもじゃねーんだから‥‥‥」
ガチャ
「失礼します」
ドアが開いて係の者と思われる男性が入って来た。
「おはようございます。見学者の方々ですね。あ、キミと、キミも!」
「「あ、あの時の!」」
メイとレイの声がまたシンクロした。
男性は、田崎という介護士だった。やはり、見学者の対応をする係なのだろう。アランほどではないが背が高く、ガッチリした体型だ。太い眉が印象的な彫りの深い顔をしていて、他の職員とお揃いのエプロンを着けている。
「見学に来た中学生だね!」
「はい、その節はお世話になりました」
メイが大人のような社交辞令を述べた。レイには出来ない芸当だ。悔しそうな顔をしている。
「いやいや、入居者さん達も喜んでいたよ。では友坂さん、こちらにどうぞ」
「宜しくお願いします」
詩織が田崎と並んで歩いた。
「幽霊が二人に増えた」
レイがアランの耳元で
「そうみたいだな」
アランも二つの霊の気配を感じているようだ。
「とりあえず、一人ずつ。メイ、いいか」
「うん」
詩織が田崎に話しかけて、気を逸らしている間に、アランは一人目の霊とメイを繋げた。
「パパ、二人とも連れて帰るでいいの?」
「いや、今日は車で来てるから、詩織とレイをここに残して、車の中で降ろそう。その方が手っ取り早い。一人ずつ話して二人とも車に誘導してくれ」
「分かった」
メイは、心の中で幽霊に呼びかけた。
『聞こえますか』
『え、アンタは?』
『友坂メイと言います、お爺さんは?』
『遠藤じゃが』
『遠藤さん、話を聞きたいので後で駐車場まで来てもらえますか』
『駐車場⁈ どういう事か分からんが』
『田崎さんに殺されたのでしょう。その話を聞きたいのです』
『何で知っているんだ⁈』
『詳しくは後で。場合によっては遠藤さんの力になれます』
『わ、分かった。どうすれば?』
『この後、もう一人の方と話します。その方はどなたですか』
『花田という男だ』
『ああ、間に合わなかったのですね。花田さんはいつ亡くなられたのですか?』
『昨夜じゃ。わ、わしのせいで』
『詳しくは駐車場で。花田さんと話してから、お二人を車まで案内します』
『分かった。宜しく頼みます』
詩織とレイはこの間、田崎に案内されて施設内の集会所、トレーニングルームを見学していた。二つの霊と交信してしていたメイとアランは少し遅れて合流したが、二人は用事があって一旦帰ると告げて外に出た。
アランとメイが車の中で霊を降ろしている間、レイと詩織は浴場、食堂、個人部屋、夫婦部屋、多目的広場などを見せてもらった。
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