第6話「暴かれた秘密」

暴かれた秘密、そして訪れる衝撃の瞬間。ふたりの運命が大きく動き出す。




 朝、崇がスマートフォンを手に取ると、画面に浮かぶのは湊の妻からのメッセージだった。


『今日、旦那の様子がおかしい。何か知ってる?』


 崇はそのメッセージをしばらく見つめ、心臓がわずかに跳ねるのを感じた。湊の妻が疑い始めたということか。もしくは、もう何かを知ってしまったのだろうか。


 彼はすぐに返信を打ち始める。


『何も知りません。最近、仕事が忙しいみたいですが。』


 すぐに送信し、深いため息をつく。目の前の現実に、冷たい汗がじわじわと浮かび上がってきた。


 すでに崇と湊の関係は、深いところまで進んでいる。日常の中でお互いを求め合い、何度も体を重ねてきた。その全てが、もう他人に知られたら終わりだ。


 だが、崇は知っていた。これは必然だった。どんなに隠していても、いつかはばれてしまう運命だった。




 午後、会社で湊と顔を合わせた時、その表情には明らかに緊張が走っていた。


「……湊?」


「……課長、ちょっと、話があるんです」


 湊は声を低くして、崇を会議室の隅に誘導する。ふたりきりになった途端、湊はしばらく沈黙を保った後、ようやく口を開いた。


「……昨日、家に帰った時、妻が変なことを言ったんです」


「変なこと?」


「俺が帰ると、なんか目が泳いでいて……」

 湊は少し顔をしかめ、言葉を選ぶようにして続けた。「それで、『最近、あなたが変だ』って言われたんです。……それに、課長の名前がちょっと出たんです。」


 崇はその言葉を聞いて、胸の奥が冷たくなるのを感じた。湊の妻が何かに気づき始めたのは、明らかだった。


「どうして、俺の名前が出た?」


「分からない……でも、何かに気づいている気がするんです。俺が……仕事のことで言い訳を繰り返してるから、何か不自然に思ってるんじゃないかって」


 湊の目が真剣だ。崇は思わず肩の力を抜く。


「湊……もしバレたら、どうする?」


 湊は一瞬黙り込むと、深いため息をついた。


「もう、逃げられないと思うんです。」


 その言葉は、崇にとって冷たい現実を突きつけるものだった。どんなに欲し合って、求め合っても、現実は無情だった。


「……どうして、俺たちこんなことをしてしまったんだろうな」


 崇は自嘲気味に笑うと、湊をじっと見つめた。


「でも、今さら後には引けないだろ」


 湊は少しだけ顔を上げ、静かに頷いた。


「……そうですね。引き返せるなら、引き返してるはずです」


 その言葉に、崇は再び思わず吐息を漏らした。その瞬間、湊の携帯が震えた。湊はすぐに画面を確認し、顔色が急に変わった。


「……妻からだ」


 湊はそのメッセージを見て、目を見開いた。


『あなた、何か隠してるでしょ? さっき、誰かと一緒にいるところを見たよ。』


 崇はそのメッセージを見て、心臓が止まりそうになった。


「……見られた」


 湊は呆然とした顔でスマートフォンを見つめ、しばらくその場に立ち尽くしていた。


「どうするんだ」


 崇が声をかけると、湊は顔を上げた。


「もう、終わりにするしかないんですかね……」


「終わりにしたくないだろ」


 崇は湊の肩を掴み、目を見つめる。


「お前が好きだ……でも、もしこれが終わるなら、俺はお前と一緒にいたい」


 湊はその言葉に胸が締め付けられるような感覚を覚えた。もう、戻れないところまで来ている。


「俺も、同じです。……でも、これ以上、妻を傷つけたくない」


 その時、湊の携帯が再び鳴った。今度は着信だった。


 震える手で画面を確認する湊の目に映ったのは、妻からの着信だった。


「……出ろ」


 崇は湊に言った。湊はその言葉に従い、携帯を手に取った。


「もしもし」


 受話器の向こうから、妻の冷たい声が響く。


「……あなた、何か隠してるんじゃないの?」


 湊はその言葉に、胸が痛んだ。だが、今さら嘘をつくことができない。


「……うん、隠してる」


 その一言が、すべてを明かす瞬間だった。




次回予告

第7話「すべてを曝け出して」

――崩れ始める家族と仕事のバランス。

ふたりはすべてを曝け出し、すべてを失う覚悟を決める。次の一歩が、運命を大きく変える。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る