第5話「壊れる前に」
ふたりの関係がさらに危うくなり、限界を迎えつつある日常。その先に待つものは…。
翌週の水曜日。
崇は会社のデスクに向かいながら、湊のことを考えていた。今まで何度も会ってきたが、ふたりの間には次第に重くのしかかるものが増えていった。
不倫関係の行き着く先が、もう見え始めていることを感じていた。だが、それでも止めることができなかった。
今日も、湊とはやり取りをした。仕事を装ってお互いの近況を確かめ合い、次に会う約束を取り付ける。
それでも、すれ違う時間の長さに不安を抱きながら。
ふと、携帯に通知が入る。湊からのメッセージだ。
『夜、うちに行ってもいいですか?』
崇はそのメッセージをじっと見つめ、深く息をつく。すでに、湊の家には何度も行ったが、それがもはや日常のようになってきていた。
返信を打つ手が震える。だが、崇はすぐにメッセージを返した。
『待ってる』
それだけで十分だ。湊が来る、ただそれだけのことを待っている自分に気づく。いまや、湊のことを無意識に求めているのだ。
夜、崇が湊の家の玄関に立った時、すでに月明かりが部屋を柔らかく照らしていた。
湊がドアを開けると、いつもの笑顔で迎えてくれた。
「お疲れさま」
「お疲れ」
すれ違うようにして部屋に入ると、湊は崇の背中にそっと腕を回す。少し強引に引き寄せられた崇は、顔を上げると、湊の唇がすぐ近くにあった。
「……今日も、抱いていいですか?」
その一言が、崇の胸を激しく打つ。
「……もう、待てない」
お互いの距離が、どんどん縮まる。沈黙が重く、二人の間の空気が交わり始める。湊が崇の背中に手を回し、シャツを引き裂くように引き抜く。
崇は、湊を引き寄せてキスを交わした。胸が熱く、舌が絡む度に心が打ち震える。
「湊……」
「課長、俺、もうこのままで……」
湊がうつむき、崇の目を避ける。けれど、崇はその顔を無理に上げさせ、再び唇を重ねた。
深く、熱く、唇が吸い込まれる。湊は少しも逃げようとしない。ふたりの間に、ただ欲望だけが満たされていく。
やがて、湊は崇の手を取ってベッドに引き倒す。
「今日は、俺から」
湊が言った言葉が、崇の心を引き裂くように響く。その強さ、欲望の先を求める眼差しに、崇の理性が揺らいだ。
そのまま、湊は崇の身体を押さえつけ、ゆっくりと自分を重ねていく。
「……はぁ、くっ、ん……」
自分の中に湊が入る度に、崇は思わず声を上げてしまう。その快感に包まれることが、もはやどれほどの時間でも続けられるような気がしていた。
「……こんなに、求められると、やっぱり逃げられない」
「逃げろなんて思ってない。お前が好きだ、湊」
その言葉が、湊の身体に震えを走らせた。
「……課長……俺も、好きです」
その言葉に、ふたりの中で交わりはより深くなった。肌が擦れ合い、呼吸が乱れ、名前を呼ぶ声が部屋の中に響く。
「……やばい……もう、イきそう……」
「俺も……お前と一緒に、イきたい」
すべてが一瞬で、ひとつになった。ふたりはその瞬間を全身で感じ合い、絶頂を迎えた。
その後、ふたりはベッドに横たわり、静かな時間を過ごしていた。湊の手が、崇の胸元に触れながら、かすかな震えを感じていた。
「……もう、戻れないかもしれないね」
「うん」
互いの顔を見つめながら、沈黙の中で言葉を交わす。そのままの状態で、ふたりは眠りにつく。
だが、翌朝、ふたりの関係を壊しかねない一つの事実が、崇に突きつけられる。
会社のメールボックスに、無情にも届いたのは、湊の妻からのメッセージだった。
『今日、旦那の様子がおかしい。何か知ってる?』
次回予告
第6話「暴かれた秘密」
――ふたりの関係が、ついに誰かに気づかれる時が来る。
突如として現れる危機。湊の妻が気づいたそのとき、崇と湊の関係は壊れ始める。
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