第2話「ゲーマー少女の参戦」



やあやあ、諸君。突然だが質問だ。


君は『人狼ゲーム』というものを知っているか?


まあ、知っていても知らなくても構わない。どうせこれから詳しく説明することになるのだから。ただし、君たちが普段楽しんでいる人狼ゲームとは、根本的に違うということだけは覚えておいてくれ。


なぜなら、ここでは負けたら本当に死ぬのだから。


---


デスゲーム開始まで24時間。


僕はルナに案内された待機室で、他の参加者たちと初めて顔を合わせた。


総勢10人。


年齢はバラバラだが、なぜか全員が若い。一番年上でも20代前半といったところか。男女比は半々。


そして—なぜかみんな、どこか現実離れした美形ぞろいだった。


「あの、この世界に召喚される条件って何かあるんですか?」


僕がルナに尋ねると、彼女はにっこりと微笑んだ。


「秘密です♪」


なんて分かりやすい『答えたくない』のサインだろう。


参加者の中には、僕と同じように困惑している人もいれば、なぜか慣れた様子の人もいる。特に気になったのは—


「きゃー! ごめんなさい!」


青い髪の少女が、コップを床に落として派手に割った。慌てて拾おうとして、今度は机の角に頭をぶつける。


「いたたた...」


彼女の名前は雪村リコ。16歳。見た目は可愛らしいが、さっきから失敗続きで、典型的なドジっ子キャラという印象だった。


「大丈夫?」


僕が声をかけると、リコは顔を真っ赤にして振り返る。


「あ、ありがとうございます! 私、リコです。よろしくお願いします!」


元気よく頭を下げて—また机に頭をぶつけた。


「うう...」


なんというか、見ているこっちが心配になるレベルのドジっ子だった。


他の参加者たちも、リコを見て苦笑いを浮かべている。まあ、こんな状況でも和やかな空気になるのは、彼女の天然キャラのおかげかもしれない。


そして時は流れ—


「皆さん、お時間です」


ルナの声で、ついに第一回デスゲームの開始時刻が来た。


僕たちは巨大なコロシアムのような会場に案内される。観客席は空っぽだが、空中に浮かぶ巨大スクリーンには相変わらず視聴者数1000万人の文字が。


コメント欄には期待の声が溢れている。


『ついに始まるか』

『新人たちの実力は?』

『誰が最初に死ぬかな』

『美少女多くて嬉しい』


そして、会場中央に10個の椅子が円形に配置されている。


「第一回デスゲーム『人狼村の殺戮』を開始いたします」


ルナが宣言すると、スクリーンにルールが表示された。


**【人狼村の殺戮】**

**参加者:10人(村人6人、人狼3人、占い師1人)**

**ゲーム期間:3日間(昼・夜を繰り返す)**

**勝利条件:**

**・村人側:人狼を全員処刑する**

**・人狼側:村人を人狼と同数まで減らす**

**敗北時の処罰:即死**


「ちょっと待ってください」


参加者の一人、茶髪の男性が手を上げる。


「普通の人狼ゲームじゃ、負けても死にませんよね?」


「ええ、そうですね」


ルナが当然のように答える。


「でも、ここはデスゲームです。リアリティを追求しているんです」


リアリティって、そういう意味じゃないと思うんだけど。


「それでは、役職の配布を行います」


各自の席に、封筒が置かれている。中を開けると—


『村人』


よかった。とりあえず人狼じゃない。


周りを見回すと、みんな複雑な表情をしている。誰が人狼なのかは、もちろんわからない。


「それでは、1日目の昼から開始します。制限時間は1時間。その後、投票で処刑者を決定します」


ゲーム開始。


参加者たちが、恐る恐る話し始める。命がかかっているだけに、みんな必死だった。


「えーっと、とりあえず自己紹介からしましょうか」


「そうですね。怪しい人を見つけないと」


「でも初日から人狼を当てるのは難しいですよね」


そんな中、僕はリコを観察していた。


さっきまでのドジっ子っぷりが嘘のように、彼女は冷静にゲームの進行を見守っている。表情も、今までとは全然違う。


「リコちゃん、何か意見はある?」


参加者の一人が尋ねると、リコは—


「そうですね。初日は情報が少ないので、まずは各自の発言内容と行動パターンを観察すべきだと思います」


え?


さっきまで机に頭をぶつけていた彼女が、急に論理的な分析を始めた。


「人狼は仲間同士で連携する必要があるため、無意識に視線を合わせたり、似たような発言をする傾向があります。また、村人を疑わせるために過剰に積極的に発言することも多いです」


みんなが驚いている。僕も驚いた。


これは—完全に別人じゃないか。


その時、僕の『エモパス』が反応した。リコの感情が、まるで波のように流れ込んでくる。


『ゲームが始まった瞬間に、思考回路が完全に切り替わった』

『今まで見せていたドジっ子キャラは演技』

『本来の彼女は、ゲームに関して天才的な才能を持っている』


なるほど。これが彼女の本性か。


「あの、リコちゃん?」


「はい?」


声をかけられたリコが振り返ると—またドジっ子モードに戻っていた。


「あ、えーっと、何でしたっけ?」


え? 今度は本当に天然に戻ってる?


混乱する僕の『エモパス』が、さらに詳しい情報をキャッチした。


『彼女は二重人格ではない』

『ゲーム中だけ、脳の処理能力が異常に上がる特殊体質』

『自分でも制御できない「ゲームブレイン」という能力』


面白い。


そしてゲームは進行していく。


リコの推理は的確で、彼女の指摘によって怪しい参加者が何人か絞り込まれた。僕も『エモパス』を使って、参加者たちの感情を読み取りながら情報を集める。


そして—1日目の夜。


人狼による襲撃が行われ、参加者の一人が『死亡』した。本当に死んだ。血まみれで倒れている彼を見て、何人かの参加者が嘔吐する。


僕も気分が悪くなったが、なんとか持ちこたえた。


「これは...本当に死ぬんですね」


リコが青い顔で呟く。ゲーム中の冷静さは影を潜め、普通の女の子に戻っていた。


2日目。


さらに議論が白熱する。みんな、昨夜の死体を見て本気になっていた。


そして再びゲームが始まると、リコの『ゲームブレイン』が発動。


「昨日の発言を分析した結果、AさんとBさんの発言に矛盾があります。特にBさんは、人狼でなければ知り得ない情報を口にしています」


彼女の推理は完璧だった。結果として、指摘されたBさんが人狼だったことが判明。


処刑が実行され、またひとり死んだ。


3日目。


最終日。残りは7人。人狼はあと2人いるはずだ。


そして、この日の議論で僕は確信した。


リコは僕の能力に気づいている。


『この人、私の本性を見抜いてる』

『でも敵意はない』

『むしろ、興味を持ってくれている』


彼女の感情が、『エモパス』を通じて直接伝わってくる。


最終投票。


リコの推理と僕の『エモパス』による感情読取りを組み合わせて、残り2人の人狼を特定する。


「投票します。CさんとDさんです」


結果—的中。


村人側の勝利だった。


「やりましたね」


ゲーム終了と同時に、リコが僕に歩み寄ってくる。その瞬間、彼女の中で何かが切り替わったのを感じた。


ドジっ子でもなく、ゲーム中の冷徹な分析者でもない。第三の顔—本当の彼女が現れた。


「あなたって、面白い人ね」


リコが微笑む。その笑顔は、今まで見せたどの表情とも違っていた。


「私の正体に気づいてるでしょう?」


「まあ、なんとなく」


「嘘。確信してる」


彼女は僕の目をじっと見つめる。


「あなたも普通じゃない。人の感情が読めるのね」


ギクリ。


「今度は一緒に戦いましょう。お互い、この世界で生き残るために」


彼女が手を差し出す。僕は少し迷ってから、その手を握った。


スクリーンのコメント欄が大騒ぎになっている。


『美少女きたー!』

『ハーレム確定じゃん』

『リコちゃん可愛い』

『ハルトとコンビ組んだ』

『これは期待』

『ゲーマー美少女最高』


そして、ルナが結果発表をする。


「第一回デスゲーム、終了です。生存者7名は次のゲームに進むことができます」


やった。生き残った。


でも、これはまだ始まりに過ぎない。


「ハルトくん」


リコが僕の名前を呼ぶ。


「次のゲームも、よろしくね」


彼女の笑顔を見て、僕は思った。


この子は、味方になれば心強いが、敵に回したら恐ろしい相手になるだろうな、と。


でも今は、とりあえず仲間だ。


『エモパス』で読み取れる彼女の感情は、確かに僕への好意と信頼を示している。


ただし—


『この人を利用すれば、もっと簡単に生き残れそう』


という計算的な思考も、同時に感じ取ってしまったのだった。


まあ、それはお互い様かもしれない。僕だって、彼女の能力は魅力的だと思っているのだから。


---


こうして僕は、最初の仲間を得た。


ゲーマー少女リコ。普段はドジっ子だが、ゲームになると人が変わる二面性を持つ少女。


彼女と僕の『エモパス』能力の組み合わせは、確かに強力だった。


でも、この時の僕はまだ知らなかった。


次に現れる『ヤンデレお嬢様』アヤメが、僕とリコの関係をどれほど複雑にするかということを。


そして、『クール軍人』カレン、『二面性アイドル』みゆ、『未来予知』ナナという、さらに個性的な少女たちとの出会いが待っていることを。


でも、それはまた別の話。


次回、第3章「視聴者という名の悪魔」編。


僕は初めて、視聴者たちの本当の『悪意』と向き合うことになる。


果たして、僕の精神は耐えられるのか?


—答えは、君たちが見届けてくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る