第2話 なんで私なの?

佐倉くんは、それきり何も言わずに窓の外をぼーっと見ていた。


沈黙。

でも、なんだろう。さっきよりも心臓の音がうるさいのに、不思議とこの時間が嫌じゃなかった。


「……ほんとに、なんで私の隣?」


私がぼそっとつぶやくと、佐倉くんはゆっくりこっちを見た。


「なんでって、前から気になってたから」


「えっ……?」


「おまえ、いつも静かにしてるけど、たまに笑うとめっちゃ楽しそうに笑うじゃん。あれ、見てて……いいなって思った」


また、心臓が跳ねた。

耳の奥が熱くなって、ノートの文字がぼやける。


「……そんなの、気のせいじゃない?」


「違う。だって、俺、いつも見てたもん」


——今、なんて言った?


「見てたって……私のこと?」

「うん」


こっちの鼓動なんて気にせず、佐倉くんはあっさりうなずく。

そのくせ、ちょっとだけ耳が赤いのが、またずるい。


「……そういうの、ほんとやめて。びっくりするから」

「なんで? 嫌だった?」

「……嫌じゃないけど」


「じゃあ、いいじゃん」


そう言って、彼は立ち上がった。

そして、ドアの前でくるっと振り返る。


「明日も、隣座っていい?」


「……勝手にすれば」


本当は、ちょっとだけ——いや、すごく嬉しかったけど。

それを言葉にする勇気なんて、まだなかった。

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