放課後、君にだけ聞こえる

ゆずの しずく

第1話

春の風が、教室のカーテンをふわりと揺らした。

放課後の教室。みんなが部活や帰り支度でざわつく中、私はひとり、窓際の席でノートにシャーペンを走らせていた。


「……おまえ、また残ってるの?」


不意に聞こえた声。顔を上げると、そこには佐倉くんが立っていた。


背が高くて、ちょっとだけ前髪が目にかかってて。

いつも無愛想だけど、クラスの女子にやたらモテるのは、そういうところなんだと思う。


「……うん、ノートまとめてたの」

「ふーん」


それだけ言って、佐倉くんは私の隣の席に座った。

え、え?なんで……?


「ちょっと、そこ、私の席——」

「知ってる。でも、ここがいい」


「……なんで?」


「……おまえの隣って、落ち着くから」


——えっ。


その言葉が、風よりも軽く、でも心にはやたら重く響いて。

どくん、って心臓が跳ねたのが、自分でもわかる。


「……そ、そういうの、急に言わないでよ」

「なんで? 本当のこと言っただけなのに」


彼はそう言って、ふっと笑った。

普段は見せない、ほんのちょっと照れたような笑顔。


……ずるい。

そんな顔、見せられたら、好きになっちゃうじゃん。

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