追放王女に転生したゲーマー女子は、どうやらドラゴン使いが荒いようです。〜最強の仲間とゲーム知識で無双する冒険生活はじめました〜

乃代ユータ

第1章 運命の扉

第1話 月曜日なんていらない

 スピーカーから荘厳な音楽が響く中、モニターにゆっくりとエンドロールが流れはじめた。格闘すること約50時間。私は金曜日の夕方からはじめたお気に入りのゲーム、『ウィザード・オブ・ロンテディア』をやっとの思いでクリアしたのだ。


 明かりを消した真っ暗な部屋で、私はひとりうっとりとした表情で余韻に浸っていた。


「これ神ゲーだわ……」


『ウィザード・オブ・ロンテディア』は4つの大陸と島々を舞台にした広大なオープンワールド・アクション・RPGだ。世界を旅しながらさまざまなクエストをこなし、魔法を駆使してモンスターと戦う王道の冒険ファンタジーゲーム。


 この世界を支配する4体のドラゴンを倒せば、どんな願いも叶うと言われるドラゴンの心臓が手に入る。私はその最後のドラゴン、異境を束ねし無辺の王ヴォルフを、今まさに討ち倒したのだ。


「ついに手に入れたぞ、ドラゴンの心臓を!」


 私はコントローラーを振り上げて勝利を喜んだ。本当にドラゴンの心臓を手に入れた気分になるほど、私はこのゲームの世界にどっぷりとのめり込んでいた。


 こんなにハマったゲームは初めてだった。今でも興奮は冷めやらない。魔法攻撃時のド派手なエフェクトは爽快で、細部まで作り込まれたグラフィックは感動ものだ。

 それに加えストーリーや演出も凝っていて、この世界観はまさに神ゲーと言っていい出来栄えだった。


 私の名前は皐月仁衣菜さつきにいな。社会人2年目のごく普通の会社員で、世間で言われるところのゲーマー女子という人種だった。

 その気質の通り私はゲームをこよなく愛し、ゲームが私にとっての生きがいになっていた。自分の人生に何の希望も見出せず、ただその日その日を生きている私にとって、ゲームがくれる体験は生命線だった。


 だから私は時間の許す限りゲームに興じていた。仕事の悩みや、煩わしい人間関係も全部忘れてコントローラを握っていた。

 こんな私を見て家族は呆れているようだけど、そんなの知らない。ゲームはすでに私の体の一部になっているのだ。私からゲームを切り離すことなんて絶対にできないのだ。


 時刻はすでに午後11時59分。もうすぐ日曜日が終わろうとしていた。


「ああ……、もうこのままずっとゲームの世界にいたいよ。月曜日なんて来なければいいのに……」


 襲いかかる現実にため息をつきながら、私はコントローラーを操作した。メイン画面に移るとそこで思わぬものを見つけた。


「あっ、キャラクターが増えてる」


 キャラクターの選択画面には、見知った顔がずらりと並んでいた。彼らは旅の途中で出会ったモブキャラたちだ。宿屋の主人や行商人、それから貴族や王様まで、魔法とは縁のなさそうなキャラクターが集まっていた。そしてその中に、ひときわ異彩を放つ存在が。


「王女様だ。かわいいなあ〜」


 王女はこのゲームの中で一番の美少女キャラだった。その姿は若々しくどことなく幼さを感じるけど、彼女の瞳は澄んでいて凛とした趣もあった。

 腰まで伸ばしたブロンドの髪は細く艶やかで、きらびやかなドレスを身にまとっていたけど、嫌味を感じさせないのは彼女の透き通るような清潔感のおかげだろう。


 やさしく微笑みかける王女様に私はメロメロだったけど、彼女のステータスを見て眉を顰めた。


「初期武器は無属性魔法のスローイング・ダガーか……。地味なんだよねえ、この魔法」


 それは手のひらからダガーを実体化させ投げつける魔法だった。攻撃力は低く、エフェクトも地味で、私は正直言って魅力を感じなかった。

 それに加え、彼女のステータスは体力も攻撃力も防御力も何もかも無いに等しく、攻撃を一発もらえば果ててしまうくらい弱かった。さらには魔法に使うMPもちびちびで、魔法を3回も撃てば空っぽになると予想がついた。


 おまけに獲得経験値もすこぶる悪いときていて、王女様はこのゲームでは最弱のキャラクターになっていた。あえて良いところを挙げるとすれば、ゴールドとジェムの回収率が高いことくらい……。


「これはいくらなんでも無理ゲーでしょ。新しい属性魔法を覚えるまで、これで耐えろっていうのはちょっと……」


 だけど、概要欄に目を移すと興味深いことが書いてあった。


『—— ゲーム開始時にレジェンダリーアイテムをランダムに一つ付与 ——』


「へえ、面白いじゃん。しょっぱなレジェンダリーアイテムもらえるんだ」


 レジェンダリーアイテムはレアアイテムのさらに上の希少アイテムだった。これがあればゲーム進行に有利に働くのは言うまでもない。だけどレジェンダリーアイテムのドロップ確率は0.04%と低く、私の初回プレイではひとつも手に入れることができなかった。


 そんな貴重なアイテムがゲーム開始とともに付与されるなんて……。私は一気にゲーム2周目の誘惑にかられた。


「ちょっとだけ試してみようかな」


 いったいどんなアイテムが出てくるのか、私はそんな軽い気持ちでコントローラーを構えた。そして王女様のキャラクターを選択して決定ボタンを押した。すると突然モニターの画面からまばゆい光が放たれた。


「な、何これ! ちょっと! うわあぁああああっ……!!」


 訳がわからないまま強烈な光に包まれたかと思うと、次の瞬間、私は自分の部屋とはまったく違う場所に立っていた。目が慣れて辺りを見回すと、そこはゲームで見たロンデティア城の玉座の間だった。


「我が娘、ニーナよ。私は失望したぞ」


 威厳のある声がして私が向き直ると、視線の先に私をいかめしく睨みつける国王が立っていた。


「我が娘って、私のこと? 失望って? へえ?」


 私はまったく事態が飲み込めず、その場でポカンと立ち尽くしていた。ただわかっているのは綺麗なドレスを身にまとい、長い髪をなびかせて、王女のキャラになっているということだけ……。そんな私に国王はとんでもないことを口にした。


「ロンデティア王国憲章第13条に基づき、王女ニーナ・メイ・オルテフラーナを国家転覆の罪で国外追放の刑に処す!」


 私は目を剥いて叫んだ。


「いきなりそれはないでしょうが!!!!」

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