第2話 祝・転生、即・追放

 どうやら私はゲームの中に転生したようだ。それもさっきまでプレイしていたアクションRPG『ウィザード・オブ・ロンテディア』の中だった。


 何故転生したのか理由はまったくわからないけど、これで忌むべき月曜日を回避できるのなら私にとっては好都合だった。もしかしたらこれはドラゴンの心臓が私の願いを叶えてくれた結果なのかもしれない……。


 刑が言い渡されたあと、私は追い払われるようにして玉座の間を出た。ふたりの衛兵に両脇を抱えられ、そのままどこかへ連れて行かれるようだ。その途中の廊下で私は彼らに疑問をぶつけた。


「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「何だ」


「どうして私が国外追放なの?」


 私の言葉に衛兵たちは信じられないといった顔をした。

 

「き、貴様、本気で聞いているのか……?」


「だってさっきこの世界に来たばかりだもん。知るわけないじゃん」


「何をたわけたことを……。追放のショックで気でも狂ったか。ならば教えてやろう。貴様が処分を受けた理由は、このロンテディア王国を護る重要な結界を貴様が破壊したからだ」


「結界?」


「そうだ。それは500年前、ある大魔法使いが我が国の安寧を願い、大きなクリスタルに封じ込めた結界魔法のことだ。貴様は番兵が止めるのも聞かずクリスタルに触れ、それを破壊したのだ」


「なるほど、それは大変だ」


「貴様はロンテディア王国のみならず、この平和の大地ロワルデ大陸をも危機にさらしたのだ。国外追放すら生ぬるいくらいだ。即刻処刑でもおかしくはない」


 話を聞くに国家転覆と断罪されても仕方がないことをしたようだ。私が転生する前の出来事とは言え、王女に成り代わった私にはこの状況を甘んじて受け入れるしかなかった。


「これが貴様の犯した罪だ。わかったか」


「うん。よくわかった。でもこれから冒険の旅に出るっていうなら、もうちょっとマシな設定にしてほしかったよ……」


 私は愚痴をこぼしていたけど、内心ではそれほど深刻には受け止めていなかった。何より私はゲームの世界に転生できたことがうれしかった。これで現実世界の月曜日を回避できるのだ。

 こうなればどんな状況だって楽しまなきゃ損。私は魔法使いになってこのファンタジーの世界で冒険するのだ。


 しばらくして衛兵に連れてこられたのは、とある部屋だった。そこには数人の侍女たちが私を待ち構えていた。


「ニーナ様、出発のお仕度でございます」


 早速準備がはじまって、私は着ていたドレスを脱がされた。代わりに用意されていたのは日常服で、いそいそと手際よくそれに着替えた。

 そのあとは腰まであった長い髪をバッサリと切り落とされた。私はもう王女ではないということなのだろうか。それでも鏡に映った自分の姿は見目麗しい美少女だった。


「おお、いい感じ。すごくかわいいじゃん!」


 最後にショート丈のローブを着せられ、私はすっかり魔法使いに変身した。きらびやかなドレスとは違い地味な雰囲気だけど、短くなった髪とよく似合っていて悪くなかった。


「一気に10歳は若返った感じ。やっぱりお姫様は違うなあ」


 一度に若さと美貌を手に入れて、私は舞い上がっていた。鏡の前でくるくると回ってうれしさを爆発させた。

 けど、そんな私と違い侍女たちの表情は一様に暗かった。その内のひとりが私に悲痛な面持ちで声をかけてきた。


「ニーナ様、わたくしは今回の処罰に深く心を痛めております。わたくしはニーナ様がクリスタルを壊したとは到底思えないのです。魔法に興味を持たれていたことは事実ですが……」


「誰?」


「ドリスでございます! ニーナ様がお生まれになって15年間、ずっとお側で仕えてきた侍従長ドリスでございます!!」


「ああ、ドリスね。わかってる、冗談だよ。あはは……」


 一瞬変な空気が流れて、私はあわててその場を取り繕った。今の私はあくまでこの王国の王女なのだ。


「わたくしはニーナ様に仕えることができて本当に幸せでした。お別れの場にふさわしい言葉ではないかもしれませんが、ニーナ様と接していて、わたくしにはまるで我が子のように思うこともありました。侍女として自覚が足らないと言われればそれまでかもしれませんが、どうかわたくしの非礼をお許しください……」


 ドリスは言葉を詰まらせながら深々と頭を下げた。その表情から王女と彼女の間に、私には窺い知れない深い絆があるように思えた。


「そんな風に思ってくれていたのなら、私はうれしいよ」


 私は転生前の王女の気持ちを汲んで応えた。


「ニーナ様にお渡ししたいものがございます。これはお守りだと思って身につけてください」


「ネックレス?」


「はい。これは位置探知の魔法をかけた傾慕けいぼのネックレスです。ニーナ様が今どこにいるのかを、わたくしめに知らせてくれる魔道具です。もしニーナ様に危険が及べば、すぐに馬を走らせ救助に駆けつけます」


 ドリスが背後に回って、私の首にそのネックレスをつけてくれた。鏡には赤い光を放つルベライトの石が映っていた。それはどこかしら温かみを感じる光だった。


「ニーナ様、どうかご無事で」


「ありがとうドリス」


 私が感謝を伝えると、彼女はやさしく私を抱きしめてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る