第15話 1本余った日傘

 リストをひとつずつ検証。


「まずはお茶会からですわね。様子を説明して下さいませ」

「はい、参加者は私を含めて6人です。話題は、ファッション、化粧品、社交界の噂、それに学園の話です」

「思い出せる限りの内容を書いて下さいな」

「はい」


 書いてる間に推理だな。

 ファッションと化粧品は問題なさそう。

 あるとすれば、社交界の噂と学園の話。


 このふたつが可能性が高い。

 もちろん、ファッションと化粧品の話の内容もチェックはするけど。


『ツンデレーヌからは何かない?』

『わたくしの話は出なかったのですの?』

『エゴサみたいなのはやめろ。俺の知識があるから、エゴサは分かるだろ』

『だって、気になるのですわ』


『自分を強く持て。他人の陰口や批判なんて、考えるな。面と向かって言われるアドバイスや真摯なお叱りは聞け。聞いて鵜呑みにするのではなくて、良く考えろ』

『まるで、お祖父様みたいですわね』


『癇癪や、物に当たるのは、ツンデレーヌが弱い証拠だ。言葉では強いことを言ってるが、あれは心が弱いって言っているようなものだ』

『わたくしが弱いですって! 聞き捨てなりませんわ!』


『自分でも分かっているんだろ』

『ふんっ、あなたなど嫌いですわ』


『同居人だから、家族だ。こんなことを言ってくれるのは家族だけだぞ』

『認めませんわ!』


『まあ、ゆっくり考えろ。体が動かせないんだから、考える時間はあるだろ』

『ずけずけと、嫌な男ですわ』


 ツンデレーヌを矯正してやりたい。

 野良猫を可愛がるという優しい一面もある。

 今まで、色々な死骸を持って来られて、一度も猫を叱ったことがない。

 それに、物に当たっても、怪我をさせたメイドはひとりだけ。

 言葉以外に、嫌がらせをしたこともない。


 まだ、やり直せるはず。

 若いんだから。

 俺みたいに死んでるわけじゃない。


 おっ、できたみたいだな。

 ファッションと化粧品は、どこの製品が良いとか、そういう話ばっかりだ。

 社交界の話は、素敵な殿方の話と、誰と誰が恋仲だとかという話が多い。

 学園の話は、楽しかったという話だな。

 ほとんどが思い出話だ。


 これと言って、引っ掛かる内容はない。


「現地に転移いたしましょう。さあ、行きますわよ」


 お茶会の屋敷はツンデレーヌが行ったことがある。

 だから、転移は問題ない。


 着くと、門番は驚いた。


「お、おっ、王子様! し、知らせて来ます! お、お待ち下さい!」


 先触れを出すのが常識だからな。

 しばらくして、当主とたくさんの使用人が現れた。


「これは、これは、王太子様。むさくるしい所にようこそ。さあ、なにをぼやぼやしてる。部屋を用意して、中でくつろいで頂きなさい」

「すまん、迷惑を掛ける」


 中に案内されて、ロザンナがお茶会を主催した令嬢を呼んだ。


「みなさま、ごきげんよう。ようこそ、おいでになりました。我が家だと思っておくつろぎ下さい」

「世話を掛ける。ほら、ツンデレーヌ、出番だぞ。悪知恵を出せ。もっとも、無罪が証明できなくても、俺は困らないがな」


「お久しぶりですわね」

「ええ、処刑されると聞いてました。謹慎が解かれたのですね」

「賢者の石を飲んで、魔導師になりましたのよ。誰よりも賢いので、こうやって無罪を証明するために、話を聞いて回っておりますわ」

「信じられませんね」


「ツンデレーヌが魔導師になったという話は秘密だ。他国に嗅ぎつかれると、騒動を招く」

「はい、漏らしません」


「お茶会で何か不思議ことがございませんでしたの?」

「そう言えば、日傘の忘れ物が1本。不思議なことに、参加者は全員が日傘を差して帰ったそうです。お茶会の前に、傘置きが空だったのは確認してます」

「魔導師なら、容易いことですわ。全員というのは、誰が確認しまして?」

「使用人です」


 うん、カウンターバグだな。

 プログラムのバグで初歩だ。


「原因は判明しましてよ」

「ツンデレーヌ、本当に分かったのか?」


 ヒューリー王子はまだ俺の賢さを疑っているらしい。


「ロザンナ様に書いてもらった話の内容にヒントがありましてよ」

「もったいぶらずに言え」


「意中の殿方とあいあい傘をするのは夢ですという話題がありましたわ。それと、同じ学園を出た後輩と先輩がお茶会に参加してましたわよね」

「ええ、まさか」

「女同士ですけど、あいあい傘で帰ったのに違いありませんわ。見送った使用人に確認してごらんなさいな」


 確認の結果。

 推理は当たってた。

 領地にいて普段会えない憧れの先輩と、あいあい傘を後輩がしたかった。

 それだけだ。

 会話の内容にそのような記述がある。

 後輩が日傘を忘れたと言ってた。


 忘れたのに全員が日傘を差して帰れるはずがない。

 傘を忘れたというのは嘘をついたに違いない。


「プロジェクトクローズですわ」

「ほんとうに魔導師なのですね。秘密が重いです。こんな社交界に激震が走るような話題を喋れないなんて」


「恐ろしいな。魔導師は何でもお見通しか」

「もはや馬鹿妹とは呼べないな。怪物妹だ」

「完全に変わったのですね。別人のようです」


 ロザンナは鋭いな。

 俺は別人だよ。


『ふん、誇らしいですわ。あの顔は愉快です』

『ツンデレーヌの推理じゃないけどな』

『わたくしにも今回は分かりましてよ』

『なら、言えば良かったのに』

『ネタばらしは美しくありませんわ』


 まあ、今回の推理は間違ってた可能性もある。

 日傘を忘れた令嬢が使用人に取りに行かせた場合だ。

 ただ、それだと、日傘が余った謎は解けない。

 余った日傘が、誰かの悪戯ってのは除外した。


 それは流石に分からないからだ。

 悪戯ではなくて、説明できるのがこれだけだった。


 カウンターバグは1ずつ進むカウンターが、バグでいくつも進んでしまったりする。

 今回はあいあい傘だと思った。

 見事当たった。

 外れてもまあ問題はない。

 命が懸かってるわけじゃない。

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