第13話 王城

 処刑まで後8日。

 朝、支度を終え、王城へ行く馬車の中。

 向かいの席には、兄のマイトが座ってる。


「おい、馬鹿妹。王子とロザンナ嬢に何かしたら、殴るからな」

「お兄様、ボケるのはまだ早過ぎますわよ。わたくしが魔導師だと言うことをお忘れでは。手を触れることさえできませんことよ」

「くっ、頼むから、大人しくな。父上と兄上と俺の立場を考えてくれ」

「無罪の家族を信じない人達の事情を考えろとおっしゃるのですわね。甘いのではなくて」


「ほんとうに悪辣になったな。癇癪を起していた昔がなつかしい。その方がまだ良かった。ごめん、無実だと信じなくて悪かった。理詰めで、来られるとどうにも出来ないな」


『許します。わたくしも迷惑を掛けたという思いはありますわ』

「謝罪を受け入れますわ。ですが、理不尽には断固抵抗致します」


 ツンデレーヌもああ言っているしな。


「頼むよ。罪を重ねて、連座とか勘弁してくれ」


 俺は別に婚約者のロザンナに対して思う所はない。

 だが、ヒューリー王子に対しては言いたいことがある。


 王城の門を潜ると、王子とロザンナが待っていた。


『ああ、ヒューリー様、今日も凛々しくて素敵ですわ。その横の女がいなければ、よろしかったのに』


「謝罪しても、判決は覆らないぞ」

「分かっておりますわ。報告書を読んではいらっしゃらないようですわね。王太子として、怠慢ではなっくて」

「何だと!」


『おっさん様、ヒューリー様を虐めないで下さいませ。わたくし、あなたを嫌いになりたくないですわ』


「馬鹿妹がすまん。友である俺の顔に免じて許してやってくれ」

「マイト、お前そんなに妹思いだったか?」

「子供の頃は、ヒューも可愛がっていただろ」

「あの頃はな」


『懐かしいですわね。うちの家の庭で3人で仲良く遊んだあの光景を思い出しますわ。涙が出そうですわ』


「昔話は結構ですわ。わたくし、無罪を証明するために参りましたの。早く、デスマーチを終わらせたいのですわ」

「変な物でも食ったのか?」

「ああ、賢者の石を食ったらしい」


「報告書は読んだ。信じられん。こんなことを信じるのは、騙され易い奴だけだ」

「ヒューリー様、魔導師になったかどうかは分かりませんが、少なくともかなり性格が変わったようです」

「ロザンナ、何を根拠にそんなことを?」

「表情です。ヒューリー様を好きだという、感情がありません。それに私への敵意も」


『このあばずれ! 何を悟ったようなことを! 泣き虫の癖して! 投げる物を寄越しなさい!』


「ロザンナがそう言うなら、そうなんだろう」

「立っていて、疲れましたわ。お茶を飲める場所に案内しなさい」

「こいつ、偉そうな。俺は王太子だぞ」

「言われなくても分かっておりますわ。魔導師ですから、そこらの人間とはおつむのできが違いましてよ」


「ヒュー、こんな調子なんだよ。前も手に負えなかったが、凄く酷くなった。俺は今でも9割9分は魔導師じゃないと思ってる。狂ってしまったと思ってる」

「誰だって信じられん」

「グズは嫌いですわ」


「ヒューリー様、お茶を飲みながら、話をしましょう」

「くそっ、むかつく」

「王族らしくないですわ。冷静さを失うと、負けますわよ」


 部屋で、4人がテーブルに着く。


「ヒュー、馬鹿妹が言うには、殺し屋を雇う金と手立てがないんだそうだ」

「報告書は読んだ。黒幕がいれば、それは説明できる」


「黒幕がいたとして、暗殺未遂事件でわたくしの役割は何ですの?」

「うんっ……。あー……。うーん……。殺し屋にお前が繋ぎを取るなんて、無理だな。金もないだろうし。くそっ、論破されたくない」

「ほほほ。では、無実だと仮定して協力頂けますわね?」


「魔導師と証明すれば、とりあえず協力してやる。個人空間を使っても、騙されないぞ。トリックがあるに決まってる。転移だ。転移魔法を使ってみろ」


 転移魔法か、空間を折り畳んで、ワープだな。

 4次元を経由する手もある。

 とりあえず、空間を畳んでみるか。

 持って来たスペルブックに転移魔法を作って書き込む。


 王城の中は魔法禁止なので、庭に出る。


「行きますわよ。【転移】ですわ」


 景色が、実家の中庭に切り替わった。


「幻影魔法だ。それに違いない」

「私、初めて転移しました」

「馬鹿妹が、化け物に進化した気分だ」


 王子は地面を触って、土を指で確かめた。

 草を千切り、匂いを嗅ぐ。


「くそっ、本物とは認めたくない。だが、幻影魔法でも、ここまで見事な魔法なら、宮廷魔法使いも務まる」

「では、戻りますわよ。【転移】ですわ」


 王城の庭に転移した。

 お茶を飲んでた部屋に戻る。


「要求を言え」

「ロザンナ様の日記から、暗殺未遂前の1週間前までの、事柄を写して下さいませ。プライバシーに関わることは結構ですわ」

「分かりました。しばらくお待ち下さい」


『こんな女、あばずれで良いですわ。様など付ける必要はありませんわ』


 ロザンナは自分の家のメイドに、日記を取りに行かせた。


「魔導師となった今、ツンデレーヌの処刑は延期せざるを得ないな。魔導師認定するには時間が掛かる」


 とりあえず、処刑までの時間が伸びるようだ。

 これだけでも来た意味がある。


「嬉しいような、悔しいような、複雑な気分だ。馬鹿妹の方が俺より身分が上になるかも知れないなんてな」

「俺もだ。魔導師なら国の重役に付けねばなるまい。重用しないと他国に持って行かれるからな。戦争で敵に魔導師がいるなんて、未来は考えたくない」


「魔法契約で縛っても無理なのか」

「ああ、魔導師なら解除できる。前例があるからな。魔導師は普通は国に仕えたりしない。仕えたとしても条件付きだ。条件は当然、魔導師側が出す」


 都市一つ分を壊滅だからな。

 核兵器並みの危険度だ。

 動く核兵器なら、そりゃ下手に出るよな。

 おまけに、小技もできると来てる。

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