第11話 ギルドの冒険者達
「それで、これからどうしますか?」
「うーん、そうだなあ……」
ギルドマスターのアリスから冒険者の再認定をもらった後。
俺とシェリルは冒険者ギルドの一階にある、冒険者の待機所を兼ねた大食堂に来ていた。
片隅にある四人掛けのテーブルに陣取り、今後の予定について考える。
「資金の確保と同時に、住居をどうにかしないとな。いつまでも宿屋暮らしってわけにもいかないし」
「そうですね」
俺が今現在利用している宿屋は、割と宿泊費が安めで快適だ。
とは言え、やはりちゃんとした住居は必要だ。仮の宿じゃ心の底から落ち着けないし。
ワイバーン討伐の報酬金が余っているので、資金にはいくらか余裕がある。王都のどこかに住居を確保できないかな。
「王都はかなり広いので、中心から離れた区域なら、割と安価な住居はあると思いますよ」
「なるほど。探してみるか」
シェリルから王都の住宅情報についてあれこれ教えてもらう。さすがは王都の冒険者ギルドに所属するSランクの冒険者、色々な情報を持っているようだ。
ギルドの調査班や情報屋なんかにも顔が利くらしいし、シェリルは頼りになりそうだな。
俺とシェリルが住居についての情報を吟味していると、声を掛けてくる者がいた。
「よう、おい。見ない顔だな。新入りか?」
「?」
そいつは背が高く、厳つい顔付きで筋肉ムキムキ、胴長短足で脂肪が詰まった腹が突き出ていて、頭はツルツルのスキンヘッドという、あまり柄のよくない男だった。
目付きの悪い、いかにも小悪党と言った感じの、数人の仲間を引きつれている。
「『白銀の閃光剣』が、新入りのオッサンとなにを話してるんだ? 俺らにも聞かせろよ」
男がニヤニヤしながら呟くと、シェリルは眉根を寄せた。
「どこの誰だか知らないけど、いきなり話し掛けてこないでくれる? 失礼でしょう」
「いや、俺だよ、Bランクのボイドだよ! 何度も顔を合わせてるから知ってるだろ! 初対面みたいな言い方するなよな!」
「?」
柄の悪いスキンヘッドの筋肉ムキムキ肥満体男は額に青筋立てて怒っていた。
対するシェリルは、男の顔に本当に見覚えがないのか、不思議そうに首をかしげている。
しかし、Bランクか。かなり上のランクだよな。
こんなチンピラみたいなヤツでも、そこそこ強いわけか。ランクなしの俺よりも冒険者としては優秀なのかもしれないな。
「おい、オッサン。なに見てんだコラ」
「えっ?」
ボイドとかいうのが俺に目を向けてきて、ドスの利いた低い声で言う。
うわ、怖いな。俺よりかなり年下だと思うが、それでもこれだけ強面だと普通に怖い。二、三人ぐらい人を殺していそうな顔だ。
「なんか文句あるのか? ナメてんじゃねーぞ、コラ!」
「……」
うーむ、困ったな。山奥での一人暮らしが長かったせいで、見知らぬ他人とのやり取りってヤツがどうにも苦手だ。
普通に話すぐらいならいいが、敵意を向けてきた相手に対して、どう接すればいいのか……。
「え、えーとその……君がなにを言っているのか、よく分からないんだが……」
「ああ?」
「別に文句なんかないし、ナメてもいない。と言うか、見られるのが嫌なら、公共の場で目立つ真似をしなければいいんじゃないかな」
「!?」
ボイドとやらは目を丸くして、顔を真っ赤にしていた。
すごい顔で俺をにらみ、怒りをあらわにして叫ぶ。
「てめえ、ナメてんのか! ふざけやがって、ぶっ殺すぞ!」
「……!」
ボイドが腰に手をやり、ベルトに差した大振りの短剣を抜こうとする。
刹那、俺は傍らに立てかけていた愛用の長剣を手に取り、警告した。
「やめろ。武器を抜けば、斬るぞ」
「!?」
ボイドの動きが止まり、あたりの空気が張り詰める。
ああ、やってしまった。そんなつもりじゃなかったんだが……。
だがまあ、年長者として、一応警告しておくか。
「……殺す、などと口で言うだけならいいが、行動に移すのは感心しないな。寿命を縮める事になるぞ」
「うっ、ううっ……!」
ボイドは大量の汗を垂れ流しながらブルブルと震え、腰に差した短剣からゆっくりと手を離した。
彼が戦意を喪失したのを見て取り、俺は剣を握り締めたまま、安堵の息をついた。
「それでいい。意外と利口だな」
「……あ、あんた、何者だ? ただの新入りじゃないだろ」
ボイドから問い掛けられ、どう答えたものかと迷っていると。
俺の代わりに、シェリルが答えてくれた。
「この方は……グランドさんは、私の師匠よ。失礼のないようにして」
「は、『白銀の閃光剣』の師匠だと? 嘘だろ……」
「さらに言うと、ギルドマスターの古い知り合いで、ランクの制限なし。一般の冒険者とは格が違う存在よ」
「あのギルマスの知人でランクの制限なしだと!? マジかよ……」
ボイドは目を丸くして驚き、異形の怪物でも見るような目で俺を見ていた。
いや、ちょっと言いすぎなんじゃ……シェリルは俺を何者にしたいんだよ?
「す、すまねえ、俺が悪かった。あの恐ろしいギルマスの知人だなんて思わなくて……頼むから殺さないでくれ……」
「あ、ああ、うん。大丈夫だよ」
ボイドとその仲間達は真っ青になり、何度も頭を下げながら去っていった。
いや、ギルマスのアリスよ、どんだけ恐れられてるんだ? さては相当派手に暴れてきたんだな。
シェリルもかなり恐れられてるみたいだな。俺の事を師匠とか言っていたが……。
「すみません。冒険者にはああいう無礼な連中もいて……どうか、許してあげてください」
「ああ、別に気にしてないよ。俺みたいなオッサンとシェリルみたいな美人が親しげに話してたら変に思われても仕方ないだろうし。悪いのは俺の方なんだろうな」
「グ、グランドさんは悪くありません! お気になさらないでください」
シェリルに否定され、苦笑する。
しかし、彼女は気になる事を言っていたな。俺の事を「私の師匠」と……。
俺の事を庇うための虚言とも取れるが……そうではないとしたら?
もしかすると、シェリルは……俺が過去に指導した事のある人物だったりするのか?
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