第3話 Sランクの冒険者
冒険者ギルドの受付にて。
シェリルという美少女から見つめられ、俺は困惑するばかりだった。
「え、えーと、君は……どちら様かな……?」
「……シェリル・ゼルブレードといいます。お見知りおきを」
「あ、ああ、どうも。俺は、グランド・リーク。ド田舎から王都に出てきたばかりの剣士だ」
するとシェリルは、俺にススッと身を寄せると、小声で囁いてきた。
「そういう事は言わない方がいいですよ。詐欺のカモにしようとする輩がいますので」
「えっ、マジで? 怖いな、都会……」
さすがは王国の中心にある大都会、王都。俺みたいな田舎者には理解できない危険な要素がてんこ盛りみたいだな。
シェリルという少女は俺をジッと見つめ、なぜか苦笑していた。
いい歳をして、田舎者で世間知らず丸出しのオッサンが珍しいのかもな。ちょっと恥ずかしいぜ。
「グランドさんは、田舎から出てこられたのですか。王都にはどのようなご用件で?」
シェリルに問い掛けられ、どう答えたものかと悩む。
うーん、正直に答えてもいいものかどうか。そもそも信じてもらえるかな?
田舎の家に、でっかい黒い竜が襲撃してきて、どうにか撃退したが、家を燃やされてしまった。
宿なしになってしまったので、仕方なく王都に来て住居と生活費をどうにかしようとしている、なんて……嘘みたいな話だよな。
だが、ここで嘘をついても意味はないか。そう思い、俺はできるだけ正確に、事情を説明してみた。
するとシェリルは黙って俺の話を聞き、うなずいていた。
「黒い、巨大な竜、ですか。それはまさか……」
「あいつの事を知っているのか?」
「いえ。噂を聞いた事がある程度で……後で調べてみましょう」
黒い竜に心当たりでもあるのか、シェリルは難しい顔をしてうなっていた。
かなり凶悪なヤツだったからな。ギルドに討伐の依頼が来ているのかもしれない。
「それで王都に出てこられたわけですか。大変でしたね」
「ははは、まあね……当面の生活費を稼ごうと思ってギルドに来てみたんだけど、昔とは色々と違ってて参ったよ」
「そう言えば、なにか揉めていたようですね。どうかされたのですか?」
俺と受付のミリアンという女性が事情を話すと、シェリルは眉根を寄せていた。
「Fランクで登録ですって? どういう事なの、ミリアン」
「そ、それが、計測器の故障みたいで仕方なく……ステータスが不明ではFランクで登録するしか……」
シェリルににらまれ、ミリアンはオロオロしていた。
俺の年齢で最低ランクはさすがにないって思われたのかな?
「まあまあ。俺は数年ぶりに来たわけだし、初心者みたいなもんだよ。一番下のランクでも仕方ないさ」
「ですが……失礼ながら、あなたほどの年齢の方でFランクというのは……」
やっぱり年齢的な事が引っ掛かったのか。なんだかなあ。
「俺ってそんなに老けて見える? 実年齢よりは若く見えるつもりだったんだけど」
「い、いえ、そんな事は……すごくお若いと思いますよ」
おいおい、それって年寄りに言う台詞だぞ?
自分じゃ年齢よりも若く見えるつもりでいたんだけど、若い子から見るとそうでもないのか?
中年のおじさんなのは自覚しているつもりだったが、改めて言われるとちょっとショックだな……。
「……ま、まあ、その、ともかく計測器は壊れているらしいし、Fランクでも文句はないよ。実際、冒険者としては初心者なんだしさ」
「本当によろしいのですか? Fランクですと、受ける事ができる依頼はかなり限られますよ。報酬の方も低いものになるかと」
「えっ、そうなのか?」
シェリルとミリアンの二人が同時にコクンとうなずき、俺は顔を引きつらせた。
現在の冒険者ギルドにおけるランクは、通常はA、B、C、D、E、Fの六つのランクに振り分けられるらしい。
Aがトップで、Fが最低ランク。ほとんどの冒険者はCからFのランクらしいが、Fランクは初心者ばかりで、まともな冒険者ならEランク以上になっているのが普通だという。
Fランクの冒険者は初心者扱いなので、受けられる依頼は少なく、報酬も低いという話だ。
まあ確かに、低いランクの冒険者に難しい依頼や高い報酬の仕事が回ってくるわけないよな。
宿代や生活費、新しい住居を購入するための資金が必要な俺にとって、かなり厳しい話だ。
こうなったら低報酬の依頼をガンガンこなしていくしかないか? こなした依頼の数が多ければ、ランクアップするのかもしれないし。
「シェリルさんだっけ。ちなみに君のランクはどのぐらいなんだい?」
「シェリルで結構です。私はその……一応、Sランクです……」
シェリルはどこか恥ずかしそうに頬を赤らめ、目を泳がせながら答えた。
いや、Sランクって普通にすごくないか? Aランクよりも上って事だよな?
「シェリルさんは、うちのギルドでもトップクラスの実力者ですよ! Sランクの冒険者なんて、どこのギルドでも数人しかいませんから!」
「おお、そうなんだ。すごい人なんだな」
「めちゃめちゃすごいですよ! 『白銀の閃光剣』と呼ばれているぐらいで……たぶん、冒険者以外も含めて、この王都でも最強クラスの剣士ですよ!」
まだ若いのにすごいな。おじさんは尊敬しちゃうぞ。
俺が見つめると、シェリルはさらに赤くなって、目をそらしていた。
「あ、あの、そんなに見ないで……恥ずかしいです……」
「おっと、ごめん。つい……」
受付嬢のミリアンは「いつもクールなシェリルさんが照れるなんて! どうしちゃったんですか?」とか言って驚いていた。
いくらクールな美少女でも、初対面の、知らないオッサンに見つめられたら恥ずかしいんだろう。
ちょっとかわいいな。
「えーと、それじゃFランク冒険者で登録してもらうという事で……それで一応、依頼は受けられるんだよな?」
「は、はい。それでは登録証をお渡ししておきますね」
手のひらサイズのカードを受け取っておく。紙製のカードに俺の顔写真と名前、職業、冒険者ランクが記載されていた。
蝋かなにかで紙のカードを保護してあって、いかにも特別なカードという感じだ。
へえ、こんなのをもらえるんだ。ちょっと格好いいな。
顔写真なんか撮った覚えはないが、なぜか記載されているな。魔法的な技術で取り込んだのか?
「ふっ、これで俺も、正式に冒険者の仲間入りか……!」
「Fランクですので、受けられる依頼はかなり限られてしまいますけど、がんばってくださいね!」
「お、おう。がんばるよ」
励ましてくれているつもりなんだろうけど、低ランクで低報酬しか得られないってのは、結構厳しいよな。
まあ、がんばるしかないか。そのうちランクも上がって、高報酬の依頼も受けられるようになるかもしれないし。
そこでシェリルが、なにかを思い付いたように、ニコッと笑って呟いた。
「大丈夫ですよ。実は、低いランクでも高報酬の依頼を受ける事ができる方法があって……」
「えっ?」
「シェ、シェリルさん! そういう事は言わないでください!」
シェリルの呟きを聞き、ミリアンは顔色を変えていた。
なんだ? なにか、裏技的な方法でもあるのか。
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