第45話 辛いです……ハラキリトルシニアが好きだから
「辛いです……ハラキリトルシニアが好きだから」
「どうした、急に」
巨神カップは準決勝で敗れ、ハラキリトルシニアは新体制に移行。先輩方はもちろん練習に来るけどこれは高校に向けての練習だ。エース先輩や渡辺先輩みたいに巨神カップでも活躍した人たちは結構いい学校からの推薦の声掛けもあったらしく、今年度のハラキリトルシニアの卒業生は凡そ満足のいく結果を残して上に行くことになる。
なーんて口では言ってるけど嘘だ。負けたんだから満足なんていくわけがない。口ではそう言ってても、付き合いが長いとやっぱり分かってくる。無念だと。あと二つ勝てればって思いが滲んでくるんだ。空気にね。
僕個人としてはね。先輩方にお世話になったって思ってるし個人の成績を伸ばすって意味でも今大会は割と本気で戦ってたんだ。野手としてだからやっぱり投手権藤あまねの時よりも本気度に差は出るかもしれないけど、バッターとしては頑張ったつもりである。
それで、負けた。あと一歩のところで押し切れなかった。
そりゃあ悔しいよ。でも、僕よりもきっと先輩たちの方が悔しい。だから、僕らに出来ることは来年、この借りを返す事くらいだ。
「という訳で僕はね。もっと頑張って野球に専念したいんだけど」
「おう、そうだな。じゃあいつも通りぐわっとお前の魔球が来て俺がばぁーっとそれを受け止めるからあとは流れで」
「サイン合わせじゃなくてブックの読み合わせじゃないそれ???」
もしかしたらブーさんはプロレスと野球を間違ってるのかな。確かに何試合かに一回くらいブーさん「ぐわああああ!」とか言いながらきりもみ回転して上空にぶっ飛んでるもんなぁ。勘違いしてもおかしくはないかもしれない。
最近、女神様もコツをつかんだのか。見た目派手だけど実はそんなでもないって魔球がガチャのラインナップに並ぶようになったから、魔球を受けた後もブーさんは割と平気で立ち上がったりしてる。これを見て世間様では「魔球は合成映像」派と「ブーもおかしい」派が勢いを増してきてるのだとか。まぁでも最大派閥は「あまちゃんは可愛い」派だからね。どんぐりの背比べだよふんすふんす。
そもそも国際野球機構が「次回大会までに研究機関の力で魔球再現を目指す」って発言してるんだから合成映像もなにもないんだけどねぇ。
さて。大きな大会が終わったから軸足を北埼玉デッドボールに移して、魔球チケットのためにもガンガン魔球を投げまくるターンの始まりだ。前回大会では1試合に二度の魔球チケットという勿体ない使い方をしちゃったけど、いっちゃ悪いけどたかだか中1のアンジー相手に2回も使っちゃったからね。これから先、レベルが上がってくればまた同じように二度、もしくは三度チケットを使わなければいけない場面もあるかもしれない。
女子世界大会での活躍があるとはいえ、巨神カップでは相変わらず魔球禁止令が出てたからねぇ。中学3年間の公式戦で投手が出来るか自体が怪しくなってるんだけども。
「その辺どう思います、金ちゃん監督」
「僕に聞かれてもねぇ。君はどうしたいの?」
「投げられるなら投げたい!」
「だよねー」
そりゃあ問題ないなら投手やりたいよ。そのために人生2周目なんてやってるんだし。ただ、まぁ。テレビとかで自分がブーさんに投げてる球を見ると、これを中学生に打たせるのはなぁって考えもあるんだよね。甲子園はどうなのかって? 甲子園目指すような球児なら覚悟を持ってるでしょ。僕だって自分で打つのは嫌だけど甲子園に出るためならもちろん打席に立てるよ?
「その甲子園だけど、高野連がなんだか大変そうだね」
「大変そうですねぇ」
「君のせいだけどね???」
甲子園大会は無事終了。選手権3連覇を目指していた怪童率いる北海道試練大付属をハレンチ王子率いる西東京大付属が延長再試合の末に破るという劇的な結末で幕を閉じた。僕もこの夏の主人公の一人だって自覚はあったんだけど、日本国内の話題って意味だとちょっとこの二人のバトルには負けちゃってるかもね。
あ、ハレンチ王子ってあだ名は汗を拭く姿が余りにハレンチって新聞の見出しが話題になったうえでの名前だから、本人がハレンチしたってわけじゃないからね。
「その西東京大付属からもお誘い受けてるんだっけ? まだ中1なのに早いねぇ」
「そうなんですよねぇ。地元の強豪校だから僕としても第一候補なんですけど」
まぁ超有力選手は中1中2くらいから唾つけられることが多いし、なんならリトルの頃から高校まで決まってる人もいるっぽいからね。この1年の実績を考えれば僕にそういう声掛けが来るのはまぁそこまでおかしくはなかったりする。
ただ、なんかトロ子ちゃんから高校に関してはまだ決めるなって結構口酸っぱく言われてるからちょっと高校選びは保留中なんだよね。別のリトルシニアに居るとはいえトロ子ちゃんは現状僕の魔球を取ってくれる唯一の女子選手だからトロ子ちゃんの言葉は無下にしたくないし、なにか考え合っての事みたいだから僕としては多少待つくらいなら全然許容範囲だ。
まぁ流石に2年の間に決まらない話であれば自分で道を決めちゃうつもりだけど、そんなにかからないとも言ってたし学年末くらいまでには詳しく話してくれるだろう。
さて、そういうわけで話は戻ってきて、現状の僕としては北埼玉デッドボールで魔球を投げる係に徹するかげいのーじんとして八面六臂の活躍をするか実家でメイド服着て家業に勤しむかの3択なんだけども、こういう順調な時にこそいろんな話が舞い込むわけでして。
僕が先発で投げる事を条件にぜひ試合がしたいって草野球チームが出てきたんだよね。草野球チーム相手だからチケットを使ってまでは……と僕は思ったんだけど、珍しく金ちゃん監督が「絶対に話題になるから受けるべき」って推してくるから承諾した。
何でも水鳥さんって野球漫画を描く漫画家さんのチームらしいんだけどね。僕、今生の漫画は読んだ事ないからどういう漫画家さんか分かんないんだけど凄い人なのかな?
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@tachibana-monakaさん、登呂月さん、モンガーさん、@kingthe100kgさん、@yimzakさんコメントありがとうございます!
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