2−5
凛、鈴華、花梨華は再び旅に出た。その三人を見送った銀狼は、野暮用のために一人、街の中へと溶け込んでいく。
目当ての人影を見つけると、その男の真後ろを取った。
「なんだ。着いてきたのか」
男は振り返ることなく銀狼の気配を察し取ると、余裕の表情で振り返る。
「なぜ……、あなた様のような方がこんなところにおられるのですか!」
銀狼には似合わない敬語は、あの時、茶店で凛にちょっかいをかけてきた男に向けられている。
銀狼に対峙するその男は、銀狼の気迫に動じることなく彼を見据えた。
その男は、確かに先ほど凛に向かって『瑳希』だと名乗っていた。
が、銀狼は気がついている。
それが、この男の本当の名ではないことを。
この男の、真の正体を。
「オレがどうしようと、オレの勝手だ。違うか?」
瑳希は有無を言わせぬ口調で銀狼に告げる。
「あなた様にこのような口ぶりを働くことを、先に謝罪いたします。ですが、姫さんは俺の大切な
「なぁに。オレは、
「それで、あなた様の見解は?」
銀狼は息を呑む。次に続く彼の言葉は、この国の未来を決定するものになる得るからだ。そして銀狼は、それが凛が望む未来でないことを知っている。
「興味はある。誰かに、いや何かに、興味を持ったのは初めてなんでな……まぁ、まだよくわからん」
瑳希の瞳には、何も映っていないようで。それが、銀狼をひどく不安にさせた。
「それは──」
「心配するな、悪いようにはしない」
そして瑳希は踵を返し、馬へと跨った。
「だけどな、用心棒。お前、慧花の姫にオレの正体だけは言うなよ」
瑳希は銀狼に釘を刺すと、馬を走らせ去っていった。
銀狼は、「はぁぁぁぁぁぁ」と特大のため息を吐き捨てながら、どさりとその場に座り込んだ。
「姫さん、あんた、やっべー奴に好かれちまいましたぜ? どうすんでさぁ……」
瑳希の馬はもう見えないところまで走っていったようだ。あれほどまでに早く走れる馬を調達できるのも、彼の素性を考えれば納得がいく。
銀狼は、考えるのを放棄した。
「あぁ〜あ。めんどくせ。俺が考えても、どうにもなんねぇ相手だ。ま、いっか。俺は、女遊びにでもいくとするか」
こうして、また、夜が深けていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます