第2話 自己紹介
銅鑼の音が鳴り響くと同時に俺は足元に向かって拳を突き立てる。俺の立ち位置は闘技場のほぼど真ん中であったため、開場全域の地面がひび割れていく。俺はもう一度、拳を突き立てる。1回目よりもさらに深くに腕が埋まる。地面の中で拳を開き思いっきり腕を引く。すると地面は液体のように波打ち、波が過ぎた場所は岩の刃のように鋭い形を保ったまま固まる。
参加者は100人近くいたと思われるが、周りを見渡すと立っているものはほとんどいない。そこにはいつかのチンピラの顔もある。
「こ、これは何がおこっているだ!?」
審判の男が実況を始める。だが、そんなに長引かせるつもりはない。岩陰から4人ほどがこちらの様子を伺っているのがわかる。おそらく俺の範囲攻撃から逃れたやつらだろう。
「いいからかかって来いよ」
俺は人がいるであろう方向に視線と微笑みを向ける。
「バケモンかよ!」
叫びながら武闘家と思われる竜人族が殴り掛かってくる。それをきっかけに隠れていたほかの3人も攻撃態勢に入る。俺は初めに武闘家を殴り飛ばす。残りの3人は魔法で遠距離攻撃をしようとするもの、剣で切りかかってくるもの、おそらく投擲物で攻撃しようとしてくるもの、瞬時に状況を判断する。俺は剣士を蹴り飛ばし、飛んできたナイフ3本を指の間でとらえて魔法使いの方に投げ飛ばす。
「こんな玩具でダンジョンなんて攻略できるかよ」
「いつの間に!?」
ナイフを投げてきたやつを手刀で気絶させる。魔法使いは腕にナイフが刺さり魔法の発動が中断されている。その間に距離を一気に詰める。魔法使いの女は俺を見上げると体を震わせながら気絶してしまった。
「えー、えっと。。。そこまで!勝者はアレク=リガード!」
会場は静まり返っている。観客たちは唖然としている。勝利のコールから10秒ほど経ってからちらほらと拍手が聞こえてくる。
俺は誘導に従って闘技場の奥へと進んでいく。誘導してくれているのはさっきまで受付をしていた女性である。相変わらず無表情であるが少し何かに怯えるかのように肩を震わせている。言葉の端々にも震えを感じる。
「アレク様はとてもお強いのですね」
「普通じゃないですかね?てかまだ足りないくらいだと思いますよ。だってラストダンジョンに挑むんですから」
「そう、ですね。ではここでお待ちください。ほかの挑戦者の方々が決まりましたらまたお迎えに上がります。」
俺はソファがとテーブルが置かれた部屋へと通され待つように言われる。女性は深いお辞儀をして部屋を出ていく。
また、待つのかと思いつつテーブルの上に置いてあるフルーツの盛り合わせを漁る。
半日ほどが過ぎただろうか扉をたたく音がする。
「失礼します。アレク様、出発のお時間です」
お馴染みの女性が扉を開け入ってくる。俺は案内されるまま馬車に乗る。どうやら行き先はこの都市の中心にあるお城のようだ。
馬車から降り、門番に一礼して王宮の敷地へと足を踏み入れる。門番はなんだか居心地が悪そうだ。
森の中で暮らしてきた俺はこんな建物は初めてで辺りをきょろきょろと見まわしながら女性の後を追う。
「あの、アレク様。着きました」
「あ、うん。ありがとう」
女性の珍獣でも見るかのような顔に少し恥ずかしくなる。
「もう皆さんお揃いみたいです」
女性が扉を開けて入るように促してくる。部屋の中では4人が好き勝手に過ごしていた。
「これで5人揃いました。この後は王に謁見してもらいます。それまでしばしご歓談ください」
「また、待つのかよ」
女性は俺の発言を無視して続ける。
「皆さんはラストダンジョンに共に挑まれるパーティメンバーなのですから。自己紹介でもしていればよいと思います。それでは、失礼いたします」
バタン!と大きな音をたてて扉が閉まる。するとソファにうつ伏せでブドウをつまんでいた銀髪の少女が笑いながら聞いてくる。
「ねえ、あの子怒ってなかった?君、なんかしたの?」
「なんもしてないと思うぞ」
「ほんとに?」
部屋の隅の椅子に座っていた翼人族の男が丸眼鏡を指で押し上げながら言う。
「貴様が来てからこの部屋が狭く感じる。おそらくそのせいだろう」
「なに言ってんだ?確かに俺の大剣はでかいがそんな邪魔になるようなものじゃないだろ。それに今はなんであの子が怒ってたのかを聞いているんじゃないのか?」
「彼女は怒っていたのではなく、恐怖から解放されたのだろう」
「どうゆうことだ?」
「わざとではないのか?なら問おう。貴様はずっとそのプレッシャーを放ちながら来たのか?」
「何のことだ?」
「無意識下でこれほどのプレッシャーとはな、何者だ貴様は」
「俺はアレク=リガードだ。赤竜のダンジョンを攻略してここにいる。あ、そうか」
俺はここで翼人族の男が言っていることを理解した。
「悪い。森の中で生活してきた癖でずっと縄張り状態だった」
「なになに、縄張り状態って?」
「俺が勝手にそう呼んでるだけだが、森にすむ魔獣とかに襲われないように威圧してる状態だな。息するのと同じ感じだから無意識に発動しちまうのが難点だな」
「はははははは、面白いね君」
銀髪の少女が腹を抱えて笑っている。
「じゃあ、次は僕が自己紹介するね」
「もう始まっていたのか」
「僕は極東の島国【ヤマト】から来たんだ。妖狐族だから見た目と年齢は必ずしも一緒ではないんだ」
「だから、尻尾とそんな耳がついてるのか。てか名前は?」
「もうせっかちだな。ユキノ=シズクっていうよ。シズクって呼んでね」
シズクは銀色の耳と尻尾を強調するかのようにまわって見せた。そのまま翼人族の男に向き指をさす。
「次は君だよ、天使君」
「そのふざけた呼び方を改めないと今ここで消すことになるぞ」
「わあ、怖い」
男は本を閉じ立ち上がる。
「我はジール=ハウリーだ。翼人族の国【スカイ】から来た。以上だ」
「聖職者か何かなの?そんな白いコートなんて羽織っちゃってさ」
「これは翼人族の戦闘服だ。貴様のような獣には理解できまい」
「はあ?」
一瞬で場の空気が凍り付く。
「はーい、2人ともそこまでよ。そうゆう喧嘩はお姉さん見過ごせないかな」
ベッドの上でゆっくりと体を起こし、ねっとりと優しい声で女性が言う。
「アタシはアルシャ=レチェリーよ。魔族の国【ディアデル王国】から来ました。種族はサキュバスだけど仲間の精気は吸うつもりないから安心して頂戴。もしも、ダンジョンの中でアタシが必要になったら遠慮なく言ってね♡特にアレクはすごくおいしそうだし」
舌なめずりをしながら俺を見てくる。固唾をのみ少し想像してしまう。俺は目を瞑り一番近くにあった椅子に腰を掛ける。
「そうゆう貴様の服装は何なんだ。そんなほとんど肌の装備でダンジョンに潜るつもりか」
ジールは目を少し逸らしながらアルシャに問う。
確かにアルシャの服装はかなり扇情的である。上半身は胸以外はほとんど隠れておらず、下半身も見えそうで見えないミニスカートである。また腰の付け根からは先端がハート形の尻尾が生えている。だが視線をあげて頭を見ると立派な角が生えている。よし、アルシャと話すときは頭を見よう。
「あら、もしかして意外とうぶなの?これはあなた風に言うとサキュバスの戦闘服よ」
「アルシャはインランってやつだな」
「あら、シズク。サキュバスだからってエッチなわけじゃないわよ。体つきはエッチかもだけど」
「なんで貴様らまで喧嘩を始めようとしてるんだ」
「僕はそんなつもりないよ。じゃあ最後は君だね。不思議君!」
シズクは角で床に座り目を瞑っていたエルフのオトコに会話のボールを投げる。
「めんどくさ。オレはカイル=エンヴァル、【グリーンウッド王国】から来た」
「グリーンウッドって言ったらずっとダークエルフの国と戦争してるところよね」
「そうだが、悪いか?」
カイルはアルシャを睨みつける。
「悪くはないけど、選定祭で選ばれるような人を国の外に出すんだなと思っただけよ」
「オレは国が嫌いだからな。ひとつ言っておく、お前らオレの足引っ張ったら許さないからな」
部屋にいた全員が頭に来たようで、さっきとは比べ物にならないくらい空気が重くなる。今度の沈黙を破ったのは意外な人物であった。扉が開きあの女性が入ってくる。
「もうやだーー!」
女性は急に泣き出してしまった。
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