第34話「魔導国連合の租税協定」

亡税制度の崩壊から数日後。ベルフェイン共和国の“対魔導国連合租税交渉室”には、各国の代表が集まり、次なる国際課題が持ち上がっていた。


 その名も、「多国間魔導税協定案(M-MTA)」――。


 これは、異なる国家間での魔法技術・魔道具・錬金資源の取引に関する租税ルールを統一し、域内での脱税・搾取・呪詛的取引を防ぐという一大条約である。


 だがその裏には、“魔導国連合”と呼ばれる強大な超国家組織による、帝国的支配と金銭流通の支配意図が隠されていた。


 「また胡散臭い税が動き出してるな……」


 クロウは、租税協定案の草案に目を通して顔をしかめた。

 「魔導知識課税」「錬金収益調整税」「無形呪術使用料」など、曖昧かつ解釈次第でいくらでも搾り取れる税目が並び、しかも“魔導国の査察官”による“他国への立入権”まで明記されていた。


 「これは……実質、魔導国の植民地化条約ですね」


 ティアが呆れたように言う。

 クロウもうなずく。「奴らは、“知識”と“魔力”という形なき富を、国際課税という名目で奪おうとしてる」


 魔導国連合――その中でも最大勢力の“ジルファル魔導王国”は、かつてクロウが滅税活動の初期段階で対立した敵国の一つだった。


 そこでは、“魔導師ランク”が資産価値として税評価されており、呪文を一つ唱えるごとに税金が発生するような狂気のシステムが存在していた。


 クロウはその制度を崩した過去を持つが、彼の行動は、ジルファル王国の政治的怒りを買っていた。


 「クロウさん、この協定案、すでにジルファル・エストリア・マーヴィスの三国で批准済みです。ベルフェインも参加しなければ“関税壁”を構築され、魔導輸出が完全に止まります」


 リュークが報告を寄せた。


 「これはつまり、加盟するか、干されるかの二択ってことか」


 クロウは考え込んだ――。


 だがそのとき、部屋の扉が開き、報告官が駆け込んできた。


 「クロウ殿、至急です! ジルファル魔導王国が“術税徴収使”をベルフェインに派遣しました!」


 「なんだと……!?」


 “術税徴収使”――魔導国が独自に育成した“国家外魔法課税官”。

 彼らは外交特権を持ち、他国の魔法産業に対して直接課税と査察を行うことが可能とされている。言い換えれば――“呪文を撃つ徴税官”だ。


 「こちらの魔法研究所やアカデミーに立ち入り、発動された魔術の“理論価値”に応じて課税するとのことです!」


 「狂ってる……!」


 ティアが言う。


 「実戦だな」とクロウは言い、席を立った。「今回は魔術と税の両面戦。税理士と魔法使いのダブルバトルだ」


 ベルフェインの魔術学術都市ミル=クラスタに、彼らは現れた。


 灰色のローブを纏い、目元までフードで覆った6名の術税徴収使。その背後には、「魔導国連合術税庁」の旗が翻っている。


 彼らは無言で施設の一つ一つに入り込み、杖の先に装着された“税式解析水晶”を光らせながら、呪文詠唱・魔導具の起動・錬金釜の火入れまでを逐一記録していく。


 「なぜ《魔術理論演習》が“収益性ある呪詛準備行為”として課税対象になるんだ!」


 学生の叫びも虚しく、水晶は光を放ち、その場で“納税印”が魔法書に刻まれる。


 「呪文ひとつに税金をつけて……子供たちから未来を奪う気か!」


 クロウは、ついにその術税徴収使のリーダーの前に立ちはだかった。


 「クロウ・レヴィナント。滅税国家の元凶。我が国の財務失墜の責任者」


 術税徴収使は、魔法的に生成された仮面の内側から冷たい声を漏らす。


 「汝の存在こそが、魔法の価値を無に帰す。ゆえに、租税の秩序のもとに、再び法の下へ収めよう」


 「おい、魔法ってのはな……」


 クロウは、自らの魔術印章――《監査印章<インスペクト・グリフ>》を発動する。


 「支配するための道具じゃない。“自由の証”なんだよ!」


 刹那、魔法がぶつかり合う。


 徴収使の“術課税陣”がクロウに襲いかかる。空中に金色の計算式が展開し、クロウの魔力収支を強制的に監査しようとするが――。


 「お前らの税式、どこに基づいてるか解析済みだ!」


 クロウが空間に展開したのは、《魔導監査帳》。

 彼が独自に開発した帳簿型魔導具で、課税ロジックを逆算・無力化する力を持つ。


 「第27式“課税根拠不在による反課法”――発動!」


 瞬間、徴収使たちの税式魔法が弾かれ、空間が逆流する。


 「これが、“自由課税圏”ベルフェインの答えだ!」


 ティアとリュークも加勢し、激戦が始まった。術税徴収使たちは、各国から集められたエリートではあったが、クロウの“帳簿魔導”と“税式解体”の前に次々と敗れていく。


 最終的に、徴収使は撤退を宣言し、魔導国に戻っていった。


 だが、これは序章に過ぎなかった。


 その夜、ベルフェイン政府に一通の通知が届く。


 『魔導国連合は、ベルフェイン共和国に対し、税制統一協定未締結を理由とした、魔導禁輸処置を発動する』


 「来たか。次は、税で首を締めてくるわけだな」


 クロウは静かに立ち上がった。


 「だったら、こちらも動くしかない。“禁輸”されるなら、自前で“作れる”体制を整えるまでだ」


 クロウの目が鋭く光る。


 「滅税国家は、もう“受け身”じゃない。次は、俺たちが攻める番だ」


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