シクラメンが枯れる頃に

くさかみみ

シクラメンが枯れる頃に

春の陽射しが教室の窓から差し込み、桜の花びらが風に舞っている。高校三年生の最後の春だった。


俺、田中翔太は、いつものように教室の後ろの席から、前から三番目の席に座る彼女を見つめていた。小学校からずっと同じクラスで、家も隣同士の幼馴染、佐藤美咲。彼女の黒い髪が窓からの光でキラキラと輝いて見える。


「おはよう、翔太」


振り返った美咲が笑顔で手を振る。その笑顔を見るたびに、胸の奥が締め付けられるような感覚になる。好きになったのはいつからだろう。中学生の頃からだと思うが、はっきりとした記憶はない。気づいた時には、もう彼女のことで頭がいっぱいだった。


「おはよう、美咲」


俺も手を振り返す。たったそれだけの交流なのに、一日の始まりが輝いて見えた。


美咲は学年でも人気の女子だった。成績も良く、運動もそこそこできて、何より人当たりが良い。男子からの人気も高く、これまでに何度も告白されているのを見てきた。そのたびに、俺の心は針で刺されるような痛みを感じていた。


でも、美咲は今まで誰とも付き合ったことがない。それが俺にとって唯一の希望だった。まだチャンスはある、まだ間に合う、そう自分に言い聞かせて過ごしてきた三年間。


しかし、もう高校三年生の春。卒業まであと一年しかない。



放課後、俺と美咲は一緒に下校していた。家が隣同士なので、これは小学生の頃からの習慣だった。


「最近、大学の話とかよく出るよね」美咲が空を見上げながら呟いた。


「そうだな。もう進路決めなきゃいけない時期だもんな」


俺は第一志望を東京の大学にしていた。美咲の志望校は聞いたことがないが、きっと彼女なら東京の有名私立大学にも合格できるだろう。同じ大学に行けたらいいな、と思いながらも、それを口に出すことはできなかった。


「翔太は東京に行くんでしょ?すごいなあ」


「美咲だって頭いいんだから、東京の大学余裕でしょ。どこ受けるの?」


「うーん、まだ迷ってるんだ。地元の大学もいいかなって思ってて」


地元、という言葉に俺の心は揺れた。もし美咲が地元に残るなら、俺も地元の大学を受け直そうか。そんなことまで考えてしまう。


家の前まで来ると、美咲は振り返って微笑んだ。


「また明日ね、翔太」


「うん、また明日」


美咲が玄関のドアを閉めるまで見送ってから、俺は自分の家に入った。部屋に入ると、ベッドに倒れ込んで天井を見つめた。


いつになったら言えるんだろう。好きだって、ずっと前から好きだったって。でも、もし断られたら、この関係すら失ってしまうかもしれない。それが怖くて、結局何も言えないまま時間だけが過ぎていく。



五月に入り、中間テストが近づいてきた。美咲と一緒に図書館で勉強することになった。


「数学、全然分からない」美咲が頭を抱えている。


「どこが分からない?」


俺は席を美咲の隣に移した。彼女の髪からほのかに香るシャンプーの匂いに、心臓の鼓動が早くなる。


「ここの問題なんだけど...」


美咲が指差した問題を見ながら、俺は解き方を説明した。説明している間、美咲は真剣な表情で俺の顔を見つめている。その距離の近さに、思わず声が震えそうになった。


「なるほど!翔太って教えるの上手だね」


「そ、そうかな」


褒められて嬉しいのと、恥ずかしいのとで、顔が赤くなっているのが自分でも分かった。


「翔太って、もしかして顔赤い?」美咲がクスクスと笑った。


「暑いからだよ」


「そうかな?可愛い」


可愛い、という言葉に俺の心は跳ね上がった。でも、きっと冗談で言っているだけだろう。美咲はいつもこうやって、自然に人を褒めるのが上手い。


図書館での勉強は三時間ほど続いた。途中、美咲が疲れて俺の肩にもたれかかってきた時があった。その重みと温もりに、俺は動けなくなった。このまま時間が止まればいいのに、と心の底から思った。


「ありがとう、翔太。今日のおかげで数学がちょっと分かるようになった」


帰り道、美咲は嬉しそうに言った。


「また分からないことがあったら聞いて」


「本当?じゃあ、また一緒に勉強しよう」


また一緒に、という言葉が嬉しくて、俺は大きく頷いた。



中間テストが終わり、結果が返ってきた。美咲は数学で90点を取っていた。


「翔太のおかげ!ありがとう」


彼女は俺に抱きついてきた。突然のことで俺は固まってしまったが、美咲の温もりと匂いに包まれて、幸せな気持ちでいっぱいになった。


「おめでとう」俺は精一杯の笑顔を作った。


「お礼に何かおごらせて。今度の日曜日、映画でも見に行かない?」


映画。二人きりで。それはまるでデートのようだった。俺の心は躍った。


「いいの?」


「もちろん!楽しみにしてる」


美咲の笑顔を見ていると、もしかして俺のことを...という淡い期待が心の奥で芽生えた。でも、すぐにその考えを打ち消した。きっと友達としてのお礼なんだ。深く考えすぎてはいけない。



日曜日、俺と美咲は映画館で待ち合わせた。美咲は薄いピンクのワンピースを着ていて、いつもよりも大人っぽく見えた。


「お疲れさま。何見る?」


「翔太が選んで。私は何でもいいよ」


俺は恋愛映画を選ぼうかと思ったが、それは露骨すぎる気がして、結局アクション映画を選んだ。


映画の最中、美咲が怖いシーンで俺の腕を掴んできた。その手の温もりに、俺は映画の内容が全く頭に入らなくなった。


「ごめん、怖くて」美咲が小声で謝った。


「大丈夫」俺も小声で答えた。


映画が終わった後、二人でカフェに入った。


「面白かったね」美咲がコーヒーを飲みながら言った。


「うん。美咲と一緒だと、何でも楽しい」


その言葉が口から出た瞬間、俺は後悔した。重すぎたかもしれない。


でも、美咲は嬉しそうに微笑んだ。


「私も翔太と一緒にいると楽しいよ。小さい頃からずっと一緒だったもんね」


「そうだね」


俺は美咲の言葉に安心すると同時に、少しだけ寂しさを感じた。やっぱり俺は、美咲にとって幼馴染みの友達でしかないのだろう。


「大学生になっても、こうやって会えるといいな」美咲が窓の外を見ながら呟いた。


「きっと会えるよ」


俺はそう答えたが、本当はとても不安だった。大学が違えば、きっと新しい友達ができて、新しい世界が広がって、俺のことなんて忘れてしまうかもしれない。


カフェを出た後、駅まで一緒に歩いた。夕日が二人の影を長く伸ばしている。


「今日はありがとう。すごく楽しかった」美咲が立ち止まって俺を見つめた。


今だ。今しかない。俺の心は叫んでいた。ここで告白すれば、きっと...


「俺も楽しかった」


結局、その言葉しか出てこなかった。美咲は微笑んで手を振り、電車に乗って行った。


俺は一人でホームに立ち尽くした。情けなかった。なぜ言えないんだろう。なぜこんなにも臆病なんだろう。



六月になり、文化祭の準備が始まった。俺たちのクラスは演劇をすることになり、美咲は主役に選ばれた。相手役は、同じクラスの山田という男子だった。


山田は俺とは正反対のタイプだった。背が高く、スポーツ万能で、明るい性格。女子からの人気も高く、これまでに何人かの女子と付き合った経験もある。


演劇の練習が始まると、美咲と山田が一緒にいる時間が増えた。二人がセリフの練習をしているのを見ていると、胸が苦しくなった。


「いいね、その調子」山田が美咲を褒めている。


「ありがとう。山田くんも上手だよ」美咲が嬉しそうに笑っている。


俺は裏方の仕事をしながら、二人のやり取りを見ていた。山田は堂々としていて、美咲との距離感も自然だった。俺にはない魅力があった。


「翔太、照明の準備お疲れさま」美咲が俺のところにやってきた。


「お疲れさま。練習、順調そうだね」


「うん。山田くんがリードしてくれるから、やりやすいよ」


美咲の顔が少し赤らんでいるのに気づいて、俺の心は沈んだ。まさか、美咲が山田のことを...


「翔太、大丈夫?顔色悪いよ」


「大丈夫。ちょっと疲れただけ」


俺は無理に笑顔を作った。美咲は心配そうに俺を見つめたが、すぐに山田に呼ばれて行ってしまった。


その夜、俺は眠れなかった。美咲の笑顔が頭から離れなかった。でも、その笑顔は俺に向けられたものではなく、山田に向けられたものだった。



文化祭まであと一週間となった日、俺は偶然、美咲と山田が屋上で話しているのを見てしまった。


「本当にありがとう。山田くんのおかげで、演劇が楽しくなったよ」


「俺も美咲と一緒に演劇ができて嬉しい。美咲は本当に演技が上手だから、俺も頑張れる」


二人の距離が近い。とても親しそうに話している。俺は急いでその場を離れた。


教室に戻ると、友達の田村が声をかけてきた。


「翔太、最近元気ないな。どうした?」


「別に何でもない」


「美咲ちゃんのことだろ?お前、昔から美咲ちゃんのこと好きだったもんな」


田村の言葉に俺は驚いた。そんなに分かりやすかったのだろうか。


「でも、最近美咲ちゃんと山田、いい感じじゃね?」


田村の言葉が胸に刺さった。やっぱり他の人から見ても、そう見えるのだろう。


「そうかな」


「お前も頑張れよ。まだ間に合うかもしれないぞ」


田村は俺の肩を叩いて去って行った。


まだ間に合う。その言葉が心に響いた。文化祭が終わったら、俺も勇気を出して告白しよう。そう決意した。



文化祭当日、俺たちのクラスの演劇は大成功だった。美咲の演技は本当に素晴らしく、会場からは大きな拍手が起こった。


「美咲、本当にお疲れさま。すごく良かったよ」俺は舞台裏で美咲に声をかけた。


「ありがとう。でも、山田くんのおかげだよ。一人じゃできなかった」


美咲は嬉しそうに山田を見つめた。山田も美咲を見つめ返している。二人の間に流れる空気が、俺には痛いほど分かった。


「打ち上げ、みんなで行こうぜ」クラスメイトの一人が提案した。


打ち上げは近くのファミレスで行われた。俺は美咲の向かい側に座ったが、美咲は山田と楽しそうに話していた。


「今度、二人でも映画でも見に行こうか」山田が美咲に提案した。


「いいね。楽しそう」美咲が答えた。


その会話を聞いて、俺の心は凍りついた。でも、まだ決まったわけではない。まだチャンスはある。


打ち上げが終わり、みんなで駅まで向かった。美咲と山田は並んで歩いている。俺は少し離れた場所から二人を見ていた。


「美咲、今日は本当にありがとう。君と一緒に演劇ができて、最高だった」


山田の声が聞こえた。


「私こそ、ありがとう。山田くんがいてくれて心強かった」


駅で、みんなそれぞれ別れることになった。美咲と俺は同じ方向なので、一緒に帰ることになった。


「翔太、今日はお疲れさま。照明の仕事、本当にありがとう」


電車の中で、美咲が俺に話しかけてきた。


「お疲れさま。美咲の演技、本当に素晴らしかったよ」


「えへへ、ありがとう。でも緊張した」


「そんな風には見えなかった。堂々としてた」


「山田くんがいてくれたから。彼がいると、なんだか安心するんだ」


美咲の言葉に、俺の心は沈んだ。でも、まだ諦めるわけにはいかない。


家に着いて、美咲と別れた後、俺は自分の部屋で決意を固めた。明日、学校で美咲に告白しよう。もう逃げない。



翌日の放課後、俺は美咲を屋上に呼び出した。


「どうしたの?急に屋上なんて」美咲が不思議そうに聞いた。


「話したいことがあるんだ」


俺の心臓は激しく鼓動していた。手のひらには汗をかいている。


「美咲、俺...」


その時、屋上のドアが開いて山田が現れた。


「美咲、いたんだ。探してたよ」


「山田くん、どうしたの?」


「話があるんだ。二人だけで」


山田は俺を見て、申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「ごめん、田中。ちょっと美咲と話があるんだ」


俺は何も言えずに頷いた。美咲は困ったような顔をしていたが、山田と一緒に屋上の隅の方に向かった。


俺は一人、屋上の反対側で立っていた。二人の声は聞こえなかったが、なんとなく話の内容は想像できた。


十分ほど経って、二人が戻ってきた。美咲の顔は赤らんでいて、山田は嬉しそうに笑っていた。


「田中、ありがとう。美咲をもらうよ」


山田が俺に言った。その言葉で、全てが分かった。


「美咲、俺の彼女になってくれる?」


山田が改めて美咲に言った。美咲は恥ずかしそうに頷いた。


「よろしくお願いします」


二人は手を繋いだ。俺の心は粉々に砕けた。


「翔太、何の話だったの?」美咲が俺に聞いた。


「あ、いや...大したことじゃない。二人とも、お幸せに」


俺は精一杯の笑顔を作って、屋上を後にした。



それからの日々は、地獄のようだった。美咲と山田が付き合っている姿を毎日見なければならなかった。二人は本当に仲が良く、見ているだけで幸せそうだった。


「翔太、最近元気ないね」ある日、美咲が心配そうに声をかけてきた。


「そうかな。受験勉強で疲れてるだけだよ」


「無理しちゃダメよ。体調崩さないでね」


美咲の優しさが、かえって胸に痛かった。こんなに優しい彼女を失ってしまった。いや、最初から俺のものではなかったのだ。


「美咲は山田と上手くいってる?」


なぜそんなことを聞いてしまったのか、自分でも分からなかった。


「うん。山田くんはとても優しくて、一緒にいると楽しいの」


美咲の幸せそうな表情を見て、俺は自分の愚かさを痛感した。もっと早く告白していれば、結果は違ったかもしれない。でも、今更そんなことを考えても仕方がない。


「それは良かった」


俺はそう言うのが精一杯だった。



十一月になり、紅葉が美しい季節になった。受験勉強も本格化し、クラスの雰囲気も徐々に変わってきた。


俺は東京の大学を第一志望にしていたが、最近は勉強に集中できずにいた。美咲のことが頭から離れないのだ。


「翔太、進路どうするの?」ある日、美咲が俺に聞いてきた。


「東京の大学を受ける予定だよ。美咲は?」


「私も東京にしようかなって思ってる。山田くんと同じ大学に行きたいから」


美咲の言葉に、俺の心は重くなった。山田と同じ大学。きっと大学生になっても、二人は一緒にいるのだろう。


「そうか。頑張って」


「翔太も頑張って。きっと受かるよ」


美咲は励ましてくれたが、俺にはもう東京に行く理由が見つからなくなっていた。美咲がいない東京に、一人で行く意味があるのだろうか。


その夜、俺は両親に相談した。


「地元の大学にしようかと思ってるんだ」


「急にどうしたんだ?東京に行きたいって言ってたじゃないか」母が驚いた。


「色々考えてみたんだ。地元でも十分だと思う」


父は俺を真剣に見つめた。


「何かあったのか?」


「別に何もないよ」


俺は曖昧に答えて、自分の部屋に戻った。


机の上には、東京の大学の資料が積まれている。その資料を見ていると、涙が出てきた。全ては美咲のためだった。美咲と同じ大学に行きたい、美咲と一緒にいたい、そんな気持ちで東京の大学を選んだのだ。


でも、もう美咲には山田がいる。俺の居場所はない。



十二月に入り、受験シーズンが本格的に始まった。俺は結局、地元の大学に志望を変更した。


「翔太、志望校変えたって本当?」美咲が驚いて聞いてきた。


「うん。色々考えた結果だよ」


「どうして?東京に行きたがってたじゃない」


美咲の心配そうな顔を見ると、本当のことを言いたくなった。君のためだった、君と一緒にいたかったから東京を選んだんだ、と。


でも、そんなことを言ったら、美咲を困らせてしまう。


「家のこととかもあるし、地元でも十分だと思ったんだ」


「そうなんだ...寂しいな」


美咲が寂しそうに呟いた。その言葉に、俺の心は揺れた。


「美咲にとって俺がいなくなるのは寂しい?」


「当たり前でしょ。小さい頃からずっと一緒だったんだから。翔太は私にとって大切な友達よ」


友達。その言葉が胸に刺さった。やっぱり俺は、美咲にとって友達でしかないのだ。


「俺も美咲は大切な友達だよ」


俺はそう答えるしかなかった。



センター試験が終わり、それぞれの大学の入試が近づいてきた。俺は地元の大学を受験することにした。美咲と山田は、東京の同じ大学を受験する予定だった。


「翔太、今度一緒に勉強しない?」美咲が提案してきた。


「美咲は山田と勉強すればいいじゃない」


「山田くんは部活で忙しいの。それに、翔太の方がずっと教えるのが上手だから」


美咲の頼みを断ることはできなかった。俺たちは図書館で一緒に勉強することになった。


図書館で勉強していると、昔のことを思い出した。中間テストの前に一緒に勉強した時のこと。あの時は、まだ希望があった。美咲と一緒にいることができて、幸せだった。


「翔太、この問題分かる?」


美咲が俺に問題を見せた。俺は丁寧に解き方を説明した。美咲は真剣に聞いていて、時々「なるほど」と頷いている。


「翔太って本当に教えるのが上手ね。大学でも頑張って」


「美咲も頑張って。きっと受かるよ」


「ありがとう。翔太がいてくれて心強い」


美咲の笑顔を見ていると、切なくなった。もうすぐお別れなのだ。高校を卒業したら、美咲は山田と一緒に東京に行く。俺は一人で地元に残る。


「美咲、東京に行っても元気でね」


「翔太も元気でいてね。たまには連絡するから」


でも、きっと連絡の頻度は徐々に減っていくだろう。美咲には新しい生活があり、新しい友達ができる。俺のことなど、いずれ忘れてしまうに違いない。


図書館を出る時、美咲が俺に言った。


「翔太、本当にありがとう。あなたがいてくれて良かった」


「俺の方こそ、ありがとう」


俺たちは駅で別れた。美咲の後ろ姿を見送りながら、俺は心の中でつぶやいた。


好きだった。ずっと好きだった。でも、もう遅い。



二月に入り、各大学の入試が始まった。俺は地元の大学を受験し、無事に合格した。美咲と山田も、東京の大学に合格したという知らせを聞いた。


「翔太、合格おめでとう!」美咲が嬉しそうに言った。


「美咲も合格おめでとう。山田も」


「ありがとう。でも、翔太と離れるのは寂しいな」


美咲の言葉に、俺の心は複雑になった。寂しいと言ってくれるのは嬉しいが、それでも美咲は山田と一緒に東京に行く。


「大学生活、楽しんでよ」


「翔太も楽しんでね。新しい友達もたくさんできると思う」


新しい友達。確かにそうだろう。でも、美咲のような特別な人に出会えるだろうか。



三月に入り、卒業式の日が近づいてきた。高校生活最後の日々を、俺は美咲との思い出を心に刻みながら過ごしていた。


「翔太、卒業したら寂しくなるね」ある日の帰り道、美咲が言った。


「そうだね。でも、新しい生活が待ってるから」


「そうね。でも、やっぱり寂しい」


美咲の寂しそうな表情を見て、俺は勇気を出して言った。


「美咲、俺たちずっと友達でいような」


「もちろんよ。翔太は私の大切な友達だから」


友達。やっぱり友達なのだ。俺の恋は、最後まで実らなかった。


家に帰ると、俺は一人で泣いた。三年間、ずっと好きだった人に、結局気持ちを伝えることができなかった。情けなくて、悔しくて、でもどうすることもできなかった。



卒業式の日がやってきた。体育館には卒業生と保護者、在校生が集まっていた。俺は美咲を探したが、彼女は山田と一緒に座っていた。


校長先生の祝辞、来賓の挨拶、そして卒業証書の授与。一人ひとり名前を呼ばれて壇上に上がる。美咲の番になった時、俺は彼女の晴れやかな表情を見つめていた。


「佐藤美咲」


美咲は背筋を伸ばして歩き、校長先生から卒業証書を受け取った。その瞬間、俺の目には涙が浮かんだ。美咲の高校生活が終わる。俺たちの高校生活が終わる。


式が終わった後、みんなで写真を撮った。クラス全体での写真、友達同士での写真。俺も美咲と一緒に写真を撮ってもらった。


「翔太、一緒に写真撮ろう」美咲が俺の腕を取って、カメラの前に立った。


「はい、笑って」カメラマンの声に合わせて、俺たちは笑顔を作った。


でも、俺の笑顔は作り物だった。心の中は複雑で、嬉しいような悲しいような気持ちでいっぱいだった。


写真撮影が終わると、美咲は山田のところに戻って行った。二人は手を繋いで、幸せそうに話している。俺はその光景を遠くから見ていた。



卒業式の後、みんなでファミレスに行くことになった。俺は友達のグループと一緒のテーブルに座った。美咲と山田は別のテーブルにいた。


「田中、お疲れさま」田村が俺に声をかけてきた。


「お疲れさま」


「でも、まだ諦めるなよ。大学は別々になるんだろ?チャンスはあるかもしれない」


田村の言葉に、俺は苦笑いした。


「もういいよ。美咲は幸せそうだし」


「でも、お前ずっと好きだったじゃないか」


「好きだった、過去形だよ」


嘘だった。今でも美咲のことが好きだった。でも、もう諦めるしかない。


ファミレスでの食事が終わり、みんなで駅に向かった。そこで解散することになった。


「翔太」美咲が俺を呼び止めた。


「何?」


「本当にお疲れさまでした。高校三年間、ありがとう」


美咲が深々と頭を下げた。


「俺の方こそ、ありがとう」


「東京に行っても、連絡するからね」


「うん」


美咲は山田と一緒に電車に乗って行った。俺は一人でホームに立ち、電車が見えなくなるまで見送った。



春休みに入り、俺は大学入学の準備をしていた。でも、心はどこか空虚だった。美咲がいない生活を想像すると、何をしても楽しくない気がした。


ある日、美咲から連絡があった。


「翔太、元気?」


「元気だよ。美咲は?」


「私も元気。大学の入学式まであと少しね」


「そうだね。楽しみ?」


「うん、すごく楽しみ。新しい環境で頑張るよ」


美咲の声は弾んでいた。きっと山田と一緒の大学生活を楽しみにしているのだろう。


「翔太も新しい環境で頑張ってね」


「ありがとう」


電話を切った後、俺は自分の部屋で一人佇んでいた。窓の外では桜が咲き始めている。もうすぐ新しい季節が始まる。


でも、俺の心は冬のままだった。



大学の入学式が近づいてきた。俺は地元の大学に通うことになった。美咲は山田と一緒に東京の大学に通う。


入学式の前日、俺は高校時代のアルバムを見返していた。そこには美咲との写真がたくさんあった。文化祭での写真、修学旅行での写真、普段の学校生活での写真。


どの写真を見ても、美咲は笑顔だった。そして、俺も笑顔だった。でも、俺の笑顔の裏には、いつも秘めた想いがあった。


「好きだ」俺は写真の中の美咲に向かって呟いた。


「ずっと好きだった」


でも、その想いはもう届かない。美咲は遠い東京にいて、山田と新しい生活を始める。


俺はアルバムを閉じて、机の引き出しにしまった。もう過去を振り返るのはやめよう。新しい生活に向かって歩いていこう。



大学の入学式当日、俺は一人で式に参加した。会場には新入生とその家族がたくさんいた。みんな希望に満ちた表情をしている。


俺も新しいスタートを切らなければならない。美咲のことは心の奥にしまって、新しい友達を作り、新しい恋をするかもしれない。


でも、心の奥では分かっていた。美咲を忘れることはできない。彼女は俺の初恋であり、最も大切な人だった。その想いは、きっと一生消えることはないだろう。


式が終わった後、俺は大学のキャンパスを歩いていた。桜の花びらが風に舞っている。新しい季節の始まりだった。


「頑張ろう」俺は心の中で呟いた。


美咲の幸せを願いながら、俺は新しい道を歩き始めた。



その日の夜、美咲から写真付きのメッセージが届いた。東京の大学の入学式での写真だった。美咲は袴を着て、とても美しく見えた。そして、隣には山田がいた。二人とも幸せそうに笑っている。


「東京の大学、入学式無事終わりました!新しい生活、頑張ります」


写真を見ながら、俺は複雑な気持ちになった。美咲の幸せそうな顔を見ると嬉しい気持ちになる反面、山田と一緒にいる姿を見ると切なくなった。


俺は返信を打った。


「入学おめでとう。二人とも幸せそうで良かった。新しい生活、頑張って」


送信ボタンを押した後、俺は深いため息をついた。これで本当に終わりなのだ。俺の片想いは、誰にも知られることなく終わった。



大学生活が始まって一ヶ月が経った。俺は新しい友達もでき、講義やサークル活動に参加していた。でも、時々美咲のことを思い出してしまう。


特に一人でいる時間が長くなると、美咲との思い出が蘇ってくる。一緒に勉強した図書館、一緒に見た映画、一緒に歩いた通学路。すべてが懐かしく、切ない。


ある日、大学のサークルで知り合った女の子から連絡先を聞かれた。彼女は明るくて可愛い子だった。でも、俺は素直に喜べなかった。


「ごめん、今は恋愛する気になれないんだ」


俺は正直に答えた。彼女は残念そうな顔をしたが、理解してくれた。


まだ美咲のことを引きずっている自分が情けなかった。でも、どうしても忘れることができない。



美咲からの連絡は、徐々に減っていった。最初は週に一回程度連絡を取り合っていたが、一ヶ月に一回、そして数ヶ月に一回という具合に。


きっと美咲は新しい生活に慣れて、忙しくなったのだろう。山田との時間も大切にしているに違いない。俺のことを思い出す時間も少なくなったのかもしれない。


それでも、俺は美咲からの連絡を待っていた。携帯電話に美咲の名前が表示されると、心臓が早く動いた。


「翔太、元気?大学生活はどう?」


「元気だよ。美咲は?」


「私も元気。東京の生活にも慣れたよ。山田くんと一緒だから心強いの」


山田くん。美咲の口から出るその名前に、俺の心は痛んだ。


「それは良かった」


「翔太も新しい彼女とかできた?」


美咲の何気ない質問に、俺は答えに困った。


「まだかな」


「そうなんだ。翔太ならすぐに素敵な人が見つかると思うけど」


美咲は俺に彼女ができることを願っているようだった。それは友達としての優しさなのだろうが、俺には複雑だった。


「美咲は山田と上手くいってる?」


「うん、とても上手くいってるよ。山田くんは本当に優しくて、一緒にいると安心するの」


美咲の幸せそうな声を聞いて、俺は胸が締め付けられた。でも、同時に美咲が幸せでいることを嬉しく思った。


「それなら良かった」


電話を切った後、俺は一人で考えた。美咲は俺のことを友達としか思っていない。そして、山田と幸せに過ごしている。俺はもう美咲の人生に必要ない存在なのかもしれない。



大学二年生になり、俺は就職活動のことを考え始めていた。美咲からの連絡はさらに減り、数ヶ月音沙汰がないこともあった。


ある日、久しぶりに美咲から連絡があった。


「翔太、元気?実は報告があるの」


美咲の声は弾んでいた。何か良いことがあったのだろう。


「何の報告?」


「山田くんと...結婚することになったの」


その言葉を聞いた瞬間、俺の世界が止まった。結婚。美咲が山田と結婚する。


「そ、そうなんだ。おめでとう」


俺は精一杯の声を出した。


「ありがとう。まだ大学生だから、卒業してからなんだけどね」


「そうか。幸せになってよ」


「ありがとう。翔太にも報告したかったの。小さい頃からの友達だから」


友達。最後まで俺は友達だった。


「俺も嬉しいよ。美咲が幸せなら」


電話を切った後、俺は一人で泣いた。美咲はもう完全に俺の手の届かない存在になった。結婚すれば、もう二度と俺に振り向くことはないだろう。


でも、美咲が幸せなら、それでいい。俺の想いは報われなかったが、美咲の幸せを願う気持ちは本物だった。



大学を卒業し、俺は地元の会社に就職した。美咲は山田と結婚し、東京で新婚生活を始めた。


時々、美咲の近況をSNSで見ることがある。結婚式の写真、新婚旅行の写真、幸せそうな日常の写真。どの写真を見ても、美咲は笑顔だった。


俺も何人かの女性とお付き合いしたが、長続きしなかった。どの人と一緒にいても、美咲と比べてしまう自分がいた。それは相手にも失礼だった。


「まだ忘れられないのか」俺は自分に問いかけた。


答えは分かっていた。忘れられない。一生忘れることはできないだろう。美咲は俺の初恋であり、最も愛した人だった。



数年後、俺は結婚した。相手は職場で知り合った優しい女性だった。彼女は俺の過去を知らないし、俺も詳しく話したことはない。


でも、時々美咲のことを思い出してしまう。もし美咲と結婚していたら、どんな生活だっただろう。もし高校生の時に勇気を出して告白していたら、結果は違っていただろうか。


そんなことを考えても仕方がないと分かっている。でも、心のどこかで美咲への想いは続いている。


俺の妻は良い人だ。俺を愛してくれているし、俺も妻を大切に思っている。でも、美咲への想いとは違う種類の愛情だった。


美咲への想いは、青春の輝きそのものだった。純粋で、一途で、切ない想い。それは俺の心の奥に、永遠に残り続けるだろう。



十年後、俺は地元で平凡な生活を送っていた。妻との間に子供も生まれ、家族として幸せに暮らしている。


ある日、久しぶりに美咲から連絡があった。


「翔太、元気?実は今度、地元に帰ることになったの」


美咲の声は昔と変わらず明るかった。


「そうなんだ。どうして?」


「山田くんの転勤で。懐かしいなあ、地元に帰るなんて」


美咲と山田が地元に帰ってくる。十年ぶりに美咲に会えるかもしれない。


「今度、みんなで会わない?高校時代の友達と」


「いいね。ぜひ」


同窓会のような集まりが企画された。俺も参加することにした。十年ぶりに美咲に会える。でも、同時に緊張もしていた。


会の当日、俺は早めに会場に着いた。しばらくして、美咲が山田と一緒に現れた。美咲は少し大人っぽくなっていたが、笑顔は昔と同じだった。


「翔太!久しぶり!」


美咲が俺に駆け寄ってきた。俺の心は十年前と同じように跳ね上がった。


「久しぶり。元気そうだね」


「翔太も元気そう。結婚したって聞いたよ」


「そう、二年前に」


「おめでとう。幸せそうで良かった」


美咲は心から祝福してくれているようだった。


同窓会は和やかに進んだ。みんなそれぞれの近況を報告し合い、昔話に花を咲かせた。美咲と山田は仲睦まじく、十年経ってもお互いを愛し合っているのが分かった。


「翔太、今度家族みんなで会いましょう」美咲が提案した。


「そうだね」


でも、俺は複雑な気持ちだった。家族ぐるみで付き合うということは、美咲を完全に「友達の妻」として見なければならないということだった。


帰り道、俺は一人で歩きながら考えた。美咲への想いは、まだ心の奥に残っている。でも、もうそれを表に出すことはできない。俺には家族があり、美咲にも家族がある。


俺の初恋は、永遠に実らない恋として心に残り続ける。それが俺の青春の終わりであり、大人としての人生の始まりだった。



美咲と山田が地元に帰ってきてから、時々家族ぐるみで会うようになった。俺の妻と美咲も仲良くなり、子供たちも一緒に遊ぶようになった。


表面的には、俺は美咲を「昔からの友達」として接していた。でも、心の奥では今でも美咲を愛していた。


ある日、美咲と二人きりになる機会があった。子供たちが公園で遊んでいる間、俺と美咲はベンチに座って話していた。


「翔太、幸せ?」美咲が突然聞いてきた。


「幸せだよ。美咲は?」


「私も幸せ。でも、時々昔のことを思い出すの」


「昔のこと?」


「高校時代とか。あの頃は毎日が輝いてたよね」


美咲の横顔を見ながら、俺は心の中で叫んでいた。俺も昔のことを思い出す。毎日君のことを考えていた。君に恋をしていた。


でも、その言葉は口に出せなかった。


「そうだね。楽しかった」


「翔太は、あの頃好きな人とかいた?」


美咲の質問に、俺の心臓は激しく動いた。


「いたよ」


「そうなんだ。誰?」


俺は美咲を見つめた。今なら言えるかもしれない。でも、言ったところで何も変わらない。むしろ、今の関係を壊してしまうかもしれない。


「秘密」俺は微笑んだ。


「えー、教えてよ」美咲が子供のように駄々をこねた。


その仕草は、高校時代と全く同じだった。俺の心は切なくなった。


「いつか機会があったら」


「約束よ」


美咲は笑顔で言った。でも、その機会は永遠に来ないだろう。



それから数年が経った。俺と美咲の家族は、近所付き合いを続けていた。俺の妻と美咲は親友のように仲が良く、子供たちも兄弟のように育っていた。


俺は美咲との距離感を保ちながら、友人として接していた。でも、心の奥では今でも美咲を愛していた。それは変わることのない想いだった。


ある夜、俺は一人で散歩していた。星空を見上げながら、高校時代のことを思い出していた。


もし、あの時勇気を出して告白していたら。もし、山田が現れる前に想いを伝えていたら。そんなことを考えても意味がないと分かっているが、時々そんな想像をしてしまう。


でも、今の生活も悪くない。妻は良い人だし、子供も可愛い。美咲とも友人として関係を続けている。これ以上望むのは贅沢なのかもしれない。


俺の初恋は実らなかった。でも、その想いは俺の人生を豊かにしてくれた。美咲への愛は、俺の青春そのものだった。


家に帰ると、妻が温かく迎えてくれた。


「お疲れさま。散歩、気持ち良かった?」


「うん」


俺は妻を抱きしめた。美咲への想いは心の奥にしまって、今の家族を大切にしよう。それが俺にできる最善のことだった。



時は流れ、俺たちも中年になった。子供たちは成長し、それぞれの道を歩み始めた。俺と美咲の関係は、長年の友人として安定していた。


でも、俺の心の奥では、美咲への想いは変わらず燃え続けていた。それは俺だけの秘密だった。


ある日、高校の同窓会があった。久しぶりにクラスメイトが集まることになった。俺と美咲も参加した。


「みんな、歳を取ったなあ」誰かが言った。


確かに、みんな高校時代とは違って見えた。でも、美咲は今でも美しかった。俺の目には、高校時代と変わらず輝いて見えた。


同窓会の後、俺と美咲は二人で駅まで歩いた。


「楽しかったね」美咲が言った。


「そうだね」


「翔太、あの時の秘密、まだ教えてくれないの?」


美咲が昔の話を持ち出した。高校時代に好きだった人のことだ。


俺は立ち止まって、美咲を見つめた。もう還暦も近い年齢になった。今更告白したところで何も変わらない。でも、心の奥にしまい続けた想いを、一度だけ口に出してみたくなった。


「実は...」


俺は言いかけて、やめた。やっぱり言えない。今更言ったところで、美咲を困らせるだけだ。


「実は?」


「実は、もう忘れちゃった」俺は笑って誤魔化した。


「そうなんだ。まあ、昔のことだもんね」


美咲も笑って、話を終わらせた。


駅で別れた後、俺は一人で夜道を歩いた。結局、最後まで美咲に想いを伝えることはできなかった。


でも、それでいいのかもしれない。美咲は幸せに生きている。俺も自分なりに幸せな人生を送っている。それで十分だ。


俺の初恋は、永遠に心の奥に秘められた想いとして残り続ける。それが俺の青春の証であり、美咲への永遠の愛の証でもあった。



数年後、俺は病気で倒れた。入院生活が始まり、自分の人生を振り返る時間ができた。


美咲のことを考えない日はなかった。高校時代から今まで、ずっと心の奥で美咲を愛し続けてきた。それは俺の人生の大きな部分を占めていた。


妻は毎日お見舞いに来てくれた。俺は妻に感謝していたが、同時に申し訳ない気持ちもあった。俺は妻を愛していたが、美咲への想いを完全に忘れることはできなかった。


「ごめん」俺は妻に謝った。


「何で謝るの?」妻が不思議そうに聞いた。


俺は首を振った。説明することはできなかった。


美咲も何度かお見舞いに来てくれた。俺の病気を心配してくれる美咲を見ていると、高校時代の想いが蘇ってきた。


「翔太、早く元気になってね」美咲が俺の手を握って言った。


その温もりに、俺の心は激しく動いた。今でも美咲を愛している。死ぬまで美咲を愛し続けるだろう。


「ありがとう」俺は小さく答えた。


美咲が帰った後、俺は天井を見つめながら考えた。俺の人生は美咲への想いと共にあった。それは報われない恋だったが、俺の人生を豊かにしてくれた。


後悔はない。美咲を愛できて良かった。その想いがあったからこそ、俺は人を愛することの素晴らしさを知ることができた。



俺は病気から回復し、また日常生活に戻った。でも、病気をしたことで、人生の有限性を強く感じるようになった。


残りの人生を、どう生きていこう。美咲への想いは変わらない。でも、家族も大切だ。


俺は決めた。美咲への想いは心の奥にしまったまま、家族との時間を大切にしよう。それが俺にできる最善の生き方だった。


美咲との関係も、今まで通り友人として続けていこう。それが俺たちにとって一番良い関係なのだ。


俺の初恋は実らなかった。でも、その想いは俺の人生の宝物だった。美咲への愛は、俺の心の中で永遠に輝き続けるだろう。


そして、その想いと共に、俺は残りの人生を歩んでいこう。美咲の幸せを願いながら、自分も精一杯生きていこう。


それが、美咲を愛した俺の、最後の決意だった。



春が来た。桜の花が咲き、新しい季節が始まった。俺は家族と一緒に花見に出かけた。美咲の家族も一緒だった。


子供たちは桜の木の下で遊び、大人たちは談笑していた。平和で幸せな光景だった。


俺は美咲を見つめた。彼女は子供たちを見守りながら、優しい笑顔を浮かべていた。その笑顔は、高校時代と変わらず美しかった。


美咲が俺の視線に気づいて、微笑みかけてきた。俺も微笑み返した。


「桜、きれいね」美咲が言った。


「そうだね」俺が答えた。


桜の花びらが風に舞っている。それはまるで、俺の青春の思い出のようだった。美しく、はかなく、でも永遠に心に残るもの。


俺の初恋は実らなかった。でも、美咲を愛した日々は、俺の人生の最も美しい時間だった。その想いは、桜の花のように、毎年春が来るたびに俺の心に咲き続けるだろう。


美咲への愛と共に、俺は生きていく。それが俺の選んだ道だった。


風に舞う桜の花びらを見上げながら、俺は心の中で美咲に語りかけた。


「ありがとう、美咲。君を愛することができて良かった。君がいてくれて良かった」


その想いは、永遠に俺の心の奥で輝き続けるだろう。


春の終わりと共に、俺の物語も静かに幕を閉じた。でも、美咲への愛は、決して終わることはない。それは俺の心の奥で、永遠に燃え続ける青い炎だった。

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シクラメンが枯れる頃に くさかみみ @daihuku723

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