第四話「吐きながら、食う」
洞内は、べちゃべちゃの血と泥を踏み鳴らしながら、バーガーショップ「肥満体になろう」の自動ドアを肩でぶち破った。
ドアが引きちぎれた悲鳴を上げ、客たちのざわめきが、すぐに押し殺された。洞内は血に濡れた手でレジに叩きつけるように叫ぶ。
「バーガーセット、よこせ」
店員は、凍りついた顔で、震える手つきのままトレイを差し出す。
ポテトは、脂にまみれ、ぐしゃぐしゃに折れ。バーガーは、すでにバンズが滑り落ちて、汚れた紙の上で崩れ果てていた。
崩れたバンズ。その下から、腐った欲と夢の欠片が溢れ出てきた。
洞内はぐちゃぐちゃの指でバーガーをわしづかみ、そのまま泥と血ごと口に突っ込んだ。
甘い。虚しかった。辛い。届かなかった。ぬるい油と血の味だけが、舌の上で腐っていく。
胃が、反射的に拒絶する。
ゴボッ――
洞内は、喉を詰まらせ、咳き込みながらポテトを吐き出した。
中から失敗作の断片が腐って出てきた。腐ったポテトと血の塊が、テーブルを汚す。
それでも、洞内はなお、バーガーを噛み千切った。
噛んでも噛んでも、口の中に広がるのは、油の腐臭と、血と、歯の欠けた感触。
洞内は立ち上がった。
トレイを床に叩きつける。油と血と破片が飛び散る。
「……ふざけんなよ」
声にならない怒鳴り声。
テーブルを押し倒す。椅子を蹴り飛ばす。子供が泣き叫び、女が嘔吐し、男たちは顔を背けて逃げた。
店員は、ただ、レジの裏で震えながら、目を逸らした。
洞内は、血まみれの顔で、笑った。
泣きながら、笑った。ゲロまみれになりながら、笑った。
生きるために、喰った。そして、吐いた。蹴った。そして、壊した。それでも、逃げなかった。
世界も、食い物も、この俺自身も、ぜんぶ、腐ったクソだ。
洞内は、警察が来るまで、そこに立っていた。
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