第27話 シウファの母ヴェリダ
久々の再会が嬉しいのか、ノクスとネクタはシウファの側を離れない。
「そんなにくっついちゃ料理が運べないでしょ。まったくぅ」
言葉では文句を言うが、シウファの口調も雰囲気からも嬉しさが漏れ出している。
カイラムもその様子を見て、厳つい目を細めて酒をあおっている。
「あらあら。お姉ちゃんにくっついてばかりいないで、席につきなさい」そう言って、髪は長いがシウファによく似た者が顔を出した。
俺を見ると、「あらあら。貴方がマヒトね。初めましてシウファの母のヴェリダです」と頭を下げた。
俺は慌てて立ち上がるが、まだ、変身後の体型に慣れていないので、テーブルの角に脚をぶつけた。
「痛っ!」
「あらあら。あなたもそそっかしいのかしら、それならシウファにお似合いね」と白い歯を見せた。
穏やかそうに見えるがやはり魔族。その歯は鋭く尖っている。
「すみません。まだ慣れなくて・・・・・・。初めましてマヒトです。娘さんにはいつもお世話になってます」
「あらあら。シウファの方がお世話になっているんじゃないかしら」
「お母さん。マヒトもお腹が空いているだろうから、冷めないうちに食べよ」
シウファは母を促す。
「あらあら。そうね。でわ頂きましょうか。マヒトさん沢山食べて下さいね」
ノクスとネクタがシウファを挟むかたちでテーブルにつき、元気よく「「いただきます」」と言って夕食が始まった。
シウファはカイラムが勧める酒を最初は断っていたが、久々の実家でリラックスしているのか、「じゃあ一杯だけ」とグラスを傾けてからは、堰を切ったようように飲み続け、楽しそうにカイラムと話している。
緊張していない時のシウファは、こんな楽しそうな表情をするんだと、見ている俺まで楽しくなった。
「あらあら。二人で盛り上がってお客様を放ったらかしで、ごめんなさいね」
気を利かせてかヴェリダが話しかけてくれた。
「あの娘、家ではこんなだけど、外では自信なさげで大人しいでしょ」
「そうですね。緊張しっぱなしって感じで・・・・・・」
食事を終えたノクスとネクタが加わりワイワイやってるシウファを見て続けた。
「でも、凄いですよシウファは。ここぞという時の集中力は、さすが魔法書士って感じです」
「あらあら。あの娘が魔法書士になるって言った時、正直不安だったの」
何かを思い出そうとするようにヴェリダは、ゆっくりと目を閉じた。
「あの娘には、幼い頃から剣術の才能はあったの。でも、超えられない圧倒的な壁を前にして、そこから逃げ出してしまった」
「女魔族剣術大会年少の部でベスト16でしたっけ」
ヴェリダは目を開く。
「あらあら。さすがお付き合いしているだけあって、よく知っているわね」
「負けた相手が、今、最強の女魔族剣士だって聞いてます」
「あの娘。その試合で一歩も動けなかったのよ。それで剣を置いて逃げ出した」
「・・・・・・」
俺はその時のシウファの気持ちが分からなくはなかった。
どうしても、どう足掻いても勝てない奴はいる。どの分野においても俺は一番になったことがない。
誰かが常に前にいる。その度に俺は逃げ出した。
「あらあら。貴方までそんな顔をして、むかしのシウファと同じ表情をしているわ」
「昔の・・・・・・。今とは違うんですか」
「あの娘はね。圧倒的な壁を前に剣術から逃げ出しました。でもね。あの娘が凄いのは逃げ足なのよ。全力で徹底的に逃げるの。そうしたらどうなると思う」
「・・・・・・。さあ。分かりません」
「あらあら。答えはね。全力で徹底的に逃げると、反対側に向かっているように見えて、その方角に新たな正しい道ができるのよ」
「そんなものなんですかね」
「そうなの。でも単に逃げるだけじゃだめなのよ。どんな方向だっていいから全力で徹底的に逃げることが肝心なの。あの娘はそれが出来た。だからあの娘はああ見えて強いのよ」
「確かに、適正はどうかとして、全力なのはよく分かります。だから俺も救われています」
ヴェリダはあらあらと嬉しそうに笑った。
「あらあら。シウファもお父さんも飲み過ぎよ」
「いいじゃないか。今日ぐらいわ。なあシウファ」と言って、酒の入ったグラスを高々と持ち上げて、ガハガハと大笑いする。
「あらあら。明日も仕事が早いんでしょ」
「これくらいの酒で、仕事に支障はでんよ」
「あらあら。・・・・・・」
ヴェリダは的の中心を射抜くような鋭い目をし、小さく詠唱する。
ピシッ!とカイラムが掲げていたグラスが瞬時に凍りつく。
「わ、わ、わかったよ母さん・・・・・・。シウファ今日はここまでにしよう」
カイラムは後ろ髪を引かれるように凍りついたグラスをデーブルに置いた。
「あらあら。びっくりさせてしまいましたね。マヒトさんお風呂を入れますので入って下さいね」そう言って、空いた食器を持ってヴェリダは部屋を出て行った。
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