第24話 城下町の日常

 車やバイク、電車。


 それどころか自転車すらこの街にはなかった。


 車輪は発明されているようで荷車は引かれている。

 しかし、荷車を引いている生き物を俺は見たことがなく、馬ではないので馬車といっていいのか分からないが、馬車らしい乗り物が通りを行き交っていた。


 この世界では交通手段は基本は徒歩で、目的地まである程度距離がある場合は飛行魔術を使い、飛行魔術でも遠い場合は転送魔術を使うのだとシウファが教えてくれた。


 人間にも人種の違いがあるように、魔族にも魔種があり人間のそれよりもかなり多様性に富んでいる。

 「魔族といっても色んな種族がいるんだな」


 「ひゃい。わたし達の様な魔人種。他にも亜人種。獣人種。他にも様々な種族がおりましゅ」


 「こんなに色んな種族がいっぱい一緒の街で暮らしていて、揉め事とか怒らないの」


 「大きな揉め事はほとんど起こりましぇん。もし揉め事が起こり相手を殺してしまうようなことがありましゅと。御存知の通り」


 「魔族法典の定めにより、『永遠の魔族の根源』の力で永遠の無の存在にされてしまうんだったよな」


 「でも些細な揉め事は、呼吸をするように起こりましゅよ。あの店先を御覧下しゃい」


 獣人種同士が胸ぐらを掴み合い何やら言い争っているが、周りの他の魔族達は気にも留めない様子で通り過ぎて行く。


 「放っておいていいの。警察呼ぶとか」


 「警察?警察とは何か分りましぇんが、放っておいて大丈夫でしゅよ。それに人狼族と大猩猩族はいつもああでしゅから」


 「種族間でいがみ合っているってこと?」


 いえいえとシウファは首を横に振る。


 「戯れあってるって感じでしゅ。ひとたび森林戦ともなれば、あの者達は素晴らしい連携を見せるのでしゅよ。いわばライバルでしゅね」


 「そうゆうもんなんだ」


 「そういうものなのでしゅ」と、自分が言ったことに納得するようにうんうんと今度は縦に頭を振っている。


 「マヒト様。先程仰っていた警察とは何で御座いましゅか」


 「警察っていうのは、俺のいた世界で悪い事をした人を捕まえて、治安を守る人のことだよ」


 なるほどとシウファは思案するように左手を顎にあて頷いている。


 「この世界では、わたし達魔法書士がそれに近いことをしていましゅ」


 「シウファ達はそんなことまでするんだ」


 「魔族法典の定めに従い『永遠の魔族の根源』の命による執行を司る部門があり、罪を犯した者に罰を与えるので御座いましゅ」


 「裁判も無しで?」


 「裁判?」シウファは不思議そうな顔をする。


 「裁判って、悪い事をしたかどうか、検事と弁護士が証拠を出し合って、それを裁判官が法律に則って罰するかどうかを決めることだよ」


 「そんなややこしくて面倒なことはしません。『永遠の魔族の根源』は全ての魔族の、全ての言動を把握しておりましゅ」


 「凄いな『永遠の魔族の根源』は」

 そうなので御座いましゅと、シウファは大仰に頷く。


 「被害者が訴えれば、魔法書士は『永遠の魔族の根源』に問いかけましゅ。『永遠の魔族の根源』は真実のみを伝え、魔法書士は魔族法典と照らし合わせ罰すべきか判断しましゅ。罰すべきとなれば、『永遠の魔族の根源』の力を借り罰を執行するのでしゅ」

 

 「なるほど『永遠の魔族の根源』が魔族間では最上位にあり絶対ということか」


 「魔族といえば人間からは無軌道な存在と思われておりましゅが、わたし達は皆、『永遠の魔族の根源』の力を恐れ、魔族法典と契約には従順なのでしゅ」


 シウファは人差し指を立て、「だからあの程度の騒ぎは日常茶飯事で御座いましゅ。放っておくのが一番」と言って歩を進めた。


 街には住居があり、広場には活気のある市がたっていて、食料品や服、雑貨など日常生活に必要なモノが揃っている。


 他には武器屋や防具屋といった店があることが、日常的に人間と戦闘が行われている世界なのだという事を実感させられた。


 途中、何回か魔族に絡まれそうになったが、横にいるシウファが魔法書士補であることがわかると、嫌そうな顔をして去って行った。


 シウファは、「わたし達、魔法書士は魔族法典に忠実に職務を全うしましゅので、一般魔族からすると煙たい存在なのでしゅ」と少し悲しそうに俯いた。


 「魔族を統制するには必要な存在じゃないか。誇ることだと俺は思うよ」


 「ひゃい。ありがとう御座いましゅ」


 「でも、俺ばかり絡まれるなぁ。変化魔法がかかってても俺は魔族っぽくないのかな」


 「多分、マヒト様から人間の匂いがするのかもしれましぇん。今まで絡んできた者達は、鼻が効く種族や高位魔族ばかりでしゅから」


 「人間の匂いまでは完全には隠せないんだな」


 俺は自分の匂いを嗅いでみたが、それがどういうものなのかは分からなかった。

 

 「でも心配はいりましぇん。アルトス様の魔術は強力でしゅので、多くの一般魔族には絶対に分かりましぇんから」


 「それに俺にはシウファがついてるしね」


 しょんなしょんなと恥ずかしそうにシウファは首を振った。

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