第2話 自己否定的言語行為

補章/独立章


自己否定的言語行為と意味の転位

――「私は間違っていた」という発話をどう捉えるか――


1.はじめに


言語認知物理学(LCP)における根本命題「0=1」は、意味の発生がゼロ(未分化性・不確定性)から生起しながらも、それが言語的世界(1=存在)として確定されるという、矛盾的で自己言及的な構造を認めるものである。この原理に立つとき、いかなる言語行為も、その発話時点で意味を成立させている限り「真」であり、「嘘はつかれない」とされる。


だが、この原理に対して一見すると矛盾的に思える問いが立ち上がる。それは、ある発話主体が未来において、


> 「私は過去において間違っていた」




と述べる場合である。この言語行為は、過去の発話内容を「誤り」と断定するという点で、発話主体がかつて自ら生成した意味世界を否定しているように見える。これは、「言語行為は常に真である」というLCPの原理に抵触するように思われる。しかし、実際にはLCPはこの種の自己否定を内包しながら自己整合的に成立する構造を持っている。


本章では、この問題をLCPの内部論理に基づいて解明し、言語が時間的・意味的にどのような“転位構造”を持つかを明らかにする。



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2.発話内容の自己否定はなぜ可能か


「私は間違っていた」という言語行為は、過去の自己の発話を“誤り”として言語的に位置づける行為である。だがLCPにおいて重要なのは、その過去の発話が行われた時点では、それ自体が意味として世界を構成していたという事実である。


つまり:


発話A(時点t₀):量子重力理論は成り立たない


発話B(時点t₁):量子重力理論は成り立つ。Aの内容は誤りだった



この場合、Aはt₀において「成り立たない」という意味を成立させた。したがって、その時点ではAは「真なる世界生成」だった。発話Bが生じた時点では、Bの視点においてAの意味が“潜在化”し、別の意味構造へと移行している。ここで重要なのは、「誤り」とされるAが過去において意味を成立させていたという事実自体は訂正不可能であるという点である。



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3.0=1が意味する「矛盾の成立」


LCPの根本命題「0=1」は、形式的には自己矛盾を含む構造である。これは、次のような意味で捉えられる:


0=未確定・非意味・不在


1=意味・存在・確定


しかし、意味は常にゼロ(未確定性)を通してしか出現し得ない

→ 意味とはゼロの一時的な収束であり、意味はゼロを内包する



このとき、「私は間違っていた」という言語行為は、かつての意味(1)に対してゼロ(否定性)を再び導入し、新たな意味構造(別の1)へと接続する通路である。すなわち、意味の時間的再生成プロセスである。


したがって、LCPでは「自己否定的発話」を“論理的矛盾”とは捉えず、“意味の転位(意味空間の座標変換)”と捉える。



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4.「嘘をつかない」という言語原理の再解釈


LCPにおける「言葉は嘘をつかない」という原理は、「発話が意味を成立させる限り、その時点で真である」という意味である。

ここで“真”とは、絶対的事実ではなく、意味的整合性と観測世界との一致を意味している。


したがって、「私はかつて間違っていた」という発話は、意味の変化を表現する正直な構文であり、これ自体が新たな世界生成である。

LCPでは、過去の世界を否定することは可能だが、消去することはできない。あくまで、「過去の自分が属していた世界」が別の意味空間へと移行したのである。



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5.結論:言語による自己更新と宇宙の再配列


LCPにおいては、発話主体が意味を更新することで、その主体が属する世界そのものが再配列される。

これは「言語的自己更新による宇宙的転位」と呼べる。


> 発話が世界を作り、

世界が再発話によって再構成される。

矛盾はその中に組み込まれており、

言語はその都度、自己を更新しつつ、常に「真」であり続ける。




このように、「私は間違っていた」もまた真であり、世界を移行させる力を持った意味的観測である。

そしてこの力こそが、LCPにおける“ゼロからの世界創発”の現代的な現れなのである。


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