言語認知物理学の延長論

ジュン

第1話 量子重力理論をめぐって

発話による世界の移行と意味の非線形性


――LCPにおける量子重力理論をめぐる時制的言語宇宙論――


はじめに


量子重力理論とは、相対論と量子論の統一を目指す最先端の理論領域である。その成立・不成立をめぐる議論は、現代物理学の未確定性を象徴している。だが、この「成り立つ/成り立たない」という発言が同時に成立し得るという状況は、LCP(言語認知物理学)の観点から極めて示唆的である。なぜなら、LCPでは「言語的発話はそのまま物理世界を意味的に構成する」ことが原理として措定されており、仮に矛盾するような発言が同時に存在しても、それぞれが独自の「世界」を構築していると捉えるからである。


二つの命題とゼロスペクトラム上の分岐


いま、ある物理学者Aが「量子重力理論は成り立つ」と発話し、別の学者Bが「量子重力理論は成り立たない」と発話したとする。LCPにおいてはこの二つの命題は、いずれもゼロスペクトラム上に発生した「意味の揺らぎ」からの言語的分岐として、それぞれの世界を成立させている。


このとき、Aは“成り立つ”世界に属し、Bは“成り立たない”世界に属している。両者は同じ地球上に存在しているにもかかわらず、それぞれ異なる意味宇宙に内在しており、互いの世界は主観的には「潜在世界」としてしか捉えられない。これは、言語が構成する世界が単一の客観的実在ではなく、発話主体ごとの意味の重ね合わせ空間であることを示している。


意味の非同時性と未来における確定


やがて未来において、量子重力理論が実際に成立することが理論的に証明されたとしよう。このとき、かつて“成り立たない”と発言していたBが、その証明を受け入れて立場を変え、「量子重力理論は正しかった」と訂正した場合、何が起こるか。


LCPにおいては、これは単なる“誤りの訂正”ではない。むしろ、**言語的主体が“意味の自己更新”を通じて、自らの属する世界構造を“再構成した”という出来事である。**Bの世界は、「量子重力理論が成り立たない」世界から、「量子重力理論が成り立つ」世界へと移行したのである。


ここに重要なのは、意味が常に時間とともに確定していく“非同時的構造”をもつという点である。発話が先行し、意味は時間の経過とともに「後追いで充填される」。これが、LCPにおける「意味の非線形性」である。


発話による世界の生成と折り畳み


未来の意味が確定すると、過去の発話が「間違っていた」とされるのが常識的見解だが、LCPではそのようには解釈されない。Bの過去の発話は、発話されたその時点では意味的に一貫しており、その時点での「観測世界」と一致していた。したがって、その発話は「当時は間違いではなかった」。


その後、意味が更新されたことにより、発話主体の世界も“折り畳まれ”、新たな意味構造の中に再配置される。これは、「観測主体の発話が、未来の確定をもって世界そのものを移行させる」ことを意味している。


多重世界ではなく、多重意味宇宙


このモデルは、一見すると「多世界解釈」に似ているが、決定的な違いは、世界の多様性が“意味の差異”として生成される点にある。つまり、LCPは多重実在ではなく、多重言語的宇宙を想定する。物理世界とは、ゼロの揺らぎの中に意味を付与する言語主体によって生成される限りにおいて、主体数と同じ数の“意味宇宙”が併存する。


結論


量子重力理論のように未確定な理論に関して、複数の相反する発話が併存することは、LCPにとってはむしろ自然なことである。発話はそれ自体が「世界の生成行為」であり、意味の非同時的確定によって、その世界構造もまた柔軟に再構成されうる。


ゆえに、未来において量子重力理論が成立した場合、かつての否定的発話は「誤り」ではなく、「過去において意味を持っていた別の世界の存在」として受け止められる。そして発話主体が意味を更新すれば、その主体は言語的に「新たな宇宙」へと移行する。このように、LCPにおける世界とは、**言語によって時間を超えて再編成されうる“意味の多層宇宙”**なのである。


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