予想外 転生したらゴリラ女子
横側 すづき
第1話 私の名前は…
「転生」って言ったらさ、
超絶美少女に生まれ変わって、
特殊な才能と財産に恵まれて、
イケメンに囲まれて、
何不自由なく、
チートスキルで生きていく世界……でしょ?
テンプレどおり、私は悲劇的に、二十歳という短い人生を終えた。
(はいはい、お決まりのお迎えの光と謎の声もあったよ)
そして、異世界ファンタジーに――
転生、したわけなんだけど。
目を覚ました私は、まず自分の手を見た。
「……黒っ!? でかっ!!」
嫌にゴツくて、毛深い手のひら。
なんか、拳が岩みたいなんですけど。
「え、待って? 転生したら美少女か美少年なんじゃないの!? 顔中……毛だらけ……」
でも、目に入るのは煌びやかな装飾の部屋。
ベッドはお決まりの天蓋付き、
身にまとっているのはフリルたっぷりの上質なパジャマドレス。
なのに、この手。
この顔。
確認するまでもなく、全身毛の感触。
……やばい、鏡、鏡!!
ベッドから飛び起きた私は、ふわりと宙に浮いた。
(跳ね心地よすぎてちょっと感動したのはナイショ)
でもそんなことより、部屋!
これ、絶対あれだ。中学の教科書で見たフランスの宮殿みたいな――
いやいや、そうじゃなくて!!
目の前に現れた、大きな金の装飾が施された鏡。
その前に飛び出した私は、叫ばずにいられなかった。
「なんでーーーーーーーーー!!!」
鏡に映っていたのは、
ピンクのフリルつきパジャマドレスを着た……
ごつい、ゴリラ。
腰が砕けてへたり込む私の耳に、
軽快な蹄の音が廊下から響いた。
そして、扉が勢いよく開く。
「どうなさいました?! ゴリレーヌ様!!」
叫びながら飛び込んできたのは――一匹の鹿。
控えめな角に、上品な光沢のある毛並み。
高級そうな軍服に身を包み、腰には剣――いや、刀を携えている。
どうやら軍人らしい。
(え、まさかこの鹿が!? 私とラブイベントするやつ!?)
「ゴリレーヌ様っ?!」
鹿だ。
どこからどう見ても、鹿でしかない。
でも、まつ毛長っ!!
ビックリするくらい目パッチリ!
「いっ、いえ……大丈夫よ!」
……自分の声を聞いた瞬間、フリーズした。
(声、低っっっ!!)
(いやいや、せめて声だけでも可愛い感じとか……なにこれ完全に“おじさんの声”じゃん!?)
「えーっと、ちょっと頭打ったみたいで……記憶が曖昧なのよ……」
(あっぶな! いつもの調子で喋ったら違和感エグすぎた!!)
(ユニセックスな話し方で乗り切るしかない……自分の声で鳥肌立つ……)
「えぇえっ?! すぐに医者を呼びましょう!!」
「だっ、大丈夫。……たぶん。
とりあえず、あなたの名前を教えてくれたら思い出す……かも?」
「え? は、はい。
私はドゥールです。あなたの侍女、ドゥール・カーシです。」
「おえええああああそうだった!!」
(え、侍女!? この鹿、女の子だったの!?)
(ごめん……勝手にイケメン枠に仕立て上げてた……!)
ドゥールが心配そうに私を覗き込む。
「ゴリレーヌ様……一体どうなさったので? まさか……」
「?!」
(バレた!? まさかもうバレた!? チートなし転生ゴリラだって!?)
「昨日召し上がっていた、あのナババが――やっぱり腐っていたのですね!?
だから一時的に混乱を……記憶障害を!!」
(ナババって何ーーー!?
名前の響き的にバナナっぽいけど!?)
(ていうか腐ったら記憶飛ぶほどの威力あるの!?
どんなフルーツ!?ナババ怖っ!!)
「……あーっ! やっぱり命がけで取り上げればよかったぁああ!!」
ドゥールがふわっふわの絨毯に、ばふんと頭を打ちつけて叫んだ。
(ちょっと待ってこの床、もっふもふやん……)
(あ、やばい……私も埋まりそう……)
「ドゥール。落ち着きなさい!
とりあえずみんなには、内緒に……。
貴女が私にいろいろ教えてくれたら助かる!!」
ドゥールのキラキラした目が私を見上げる。
心なしか額が赤くなってる気がする。
「ゴリレーヌ様!! お任せください!!!
このドゥールが、責任をもってお守りいたします!!」
「うん。頼んだ!」
こうしてドゥールの助けを借りて始まった、
この――
奇想天外・筋肉全開の転生物語は、静かに幕を開けたのだった。
……いいから早くイケメンとラブイベントを!!!
予想外 転生したらゴリラ女子 横側 すづき @yokogawa03
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