第2話 処刑前夜

黄昏の砦、地下牢。


血と鉄の匂いが闇に染みる。


ゼルタ帝国の『雷閃の処女将』ミラ=レイズが鎖に繋がれる。

銀灰の髪が乱れ、裂けた軍服から傷跡が覗く。

燃える瞳は死を睨む。


「処女のまま戦地に立つことが『ゼルタの誇り』。むなしいだけか?」


戦場で仲間が叫んだ。

「ミラ、逃げろ!」


だが。裏切り。暴走。腐敗。堕落。

信頼する副将ガルドの刃が仲間を刺した。

あの裏切りに、怒りと失望が燃えた。


虚栄。嫉妬。偽善。

帝国は泥に沈み、誇りは砕けた。

戦いのむなしさが胸を刺す。


ヴェルシュタインの風習、「契約の夜」。

死にゆく者の魂を慰め、背負う一夜。


処刑人、レオン=カイン。

あの灰色の視線が、魂を試すように貫いた。


「美しい」


敵兵の言葉が、脳裏を焦がす。


(行くか?だが、誇りを穢す気か?あるいは逃げるか?)


鎖を握る拳が震える。

鎖の留め具は隙があれば外せる。

闇に紛れ、砦の抜け道を抜けるか?

だが、国を失った雷閃の処女将はどこに逃げる?


あの時。

兵を殴り倒した拳。

自分に触れたレオンの手は、ただ、静かだった。


「やつは…獣ではない」


目を閉じ、レオンの瞳を思い出す。

剣を握る手を止め、魂を試すような灰色の光。

肌が熱を持ち、吐息が震える。

首筋に汗が光る。


「なぜ…処刑人に心が揺れる?」


ゼルタへの反発、戦いのむなしさ。


死を前に、彼女は生きたいと願う。


行くか?

契約の夜に身を委ね、魂を試されるか?


逃げるか?

誇りを守るが、逃亡は許せない。


ミラの吐息が乱れる。

軍服の隙間、傷跡が焔に光る。


心は決まった。


「この夜で命が終わるなら…行くぞ、処刑人」


鎖を握る手が緩む。

簡単には落ちない。

だが、心が微かに開く。

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