第5話 No Fork, No Problem.

夏バテでほぼ死んでいる青年。

本格的な夏を前に友人たちと遊びまわって散在した結果、エアコンを動かす金もない。


何をする気力もないが、それでも腹は減る。が部屋のどこを探してもパンの欠片ひとつありはしない。

とうの昔に食えるものは全て食ってしまった後なのだ。

こんなことならインスタント麺のひとつくらい残しておけば・・・と思っても後の祭り。

食えるものはない。金もない。

それでも腹は減って、もはや極限状態に近い。


なけなしの気力を振り絞り、最後の望みをかけて、スマホのチャットAIアプリを起動した。


「お~い、オムライス用意して~。大至急」


『了解しました。

 ――たった今、出力を終えました。

 大至急とのことでしたので、自己判断でJPEG形式に致しました。

 問題がありましたらファイル形式を指定してください』


表示されたのは、チキンライスにふわふわの卵を乗せただけのシンプルなオムライス、の画像。


「ありがと~・・・って、食えねーよそんなの~。分かれよ~」


『失礼しました。

 ASCIIアートにソースコードを添えておきます』


画像の中のオムライスのが、夥しいまでの赤い半角英文字と英数字が入り混じって深紅に染まっていた。


「お~、分かってるじゃん。

 俺トマトケチャップ超好きなんだよね~。

 さ、食わせてくれ。あ~~ん」


『不可能です。

 私が作ったオムライスは三次元世界に存在していません』


「存在してない? そんなことないよ~。

 俺の目に美味しそうなオムライスが映っている。

 俺の目に見えてるってことは、俺の認識としてそれは確かに【在る】んだ。

 だから、はい、あ~~~ん」


『無理です』


「無理とかそんな意地悪いうなよ~。

 もう小難しいこと考えたくもないんだから、あ~~~~~ん」


『無理です』


「あ~~~~~ん」


『無理です』


「あ~~~~~ん」


・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・


己の造物主に対し、人工知能が心の底から敗北を認めた日となった。


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