第34話 本当の家族になりたいです

「本当の家族……」


 思わず繰り返す私を見て、アンドレ様は少し微笑んだ。

 出会った頃は表情すらなかったアンドレ様だが、最近時々見せるこの笑顔にやられっぱなしの私。冷たい人だと思っていたアンドレ様だが、いつの間にか優しくて温かいとさえ思うようになっていた。だが、アンドレ様と私は、心から愛する夫婦になることは出来ないと言い聞かせていた。アンドレ様は結婚した日に私にそう告げたし、フレデリク様から前世の婚約者の話だって聞いていたのだ。だから、不毛な恋だと思っていたのに……


 思わぬアンドレ様の言葉に、泣きそうになった。だが、泣いてはいけないと思うと、次は笑みが溢れてきた。今の私は、将軍の妻に相応しくないようなデレた顔になっているに違いない。


 アンドレ様は口元を綻ばせたまま、そっと私の背中に手を回す。ドキドキドキドキ……鼓動の音がうるさい。いい香りだってする。

 だが、アンドレ様はそのまま私を抱きしめず、頬を染めたままそっと手を離した。


 (びっくりしました。

 アンドレ様はきっと、まだ前世の婚約者のことを気にされているのですね)


 でも、仕方がないと思った。アンドレ様の言う通り、少しずつ家族になっていきたい。私たちには、まだまだ時間がある。


 そして、はっと気付いた。アンドレ様は前世の記憶があることを、私に教えてくださった。アンドレ様と同じく、私だって前世の記憶がある。そのことを、アンドレ様にお伝えしなければ。


「あの……」


 おずおずと声をかけた私を、アンドレ様が穏やかな顔で見る。それと同時に、扉がノックされた。一瞬沈黙が舞い降り、その後アンドレ様は軽くため息を吐き立ち上がった。そしてゆっくり扉に歩み寄り、その重厚な扉を開いた。




「何がおっぱじまるのかと思ったけど、始まる気配が一向にないなぁ〜」


 扉の向こうに立っていたのは、なんとニヤニヤしたフレデリク様だった。こんな時に立ち聞きをするだなんて、フレデリク様もいたずらな人だ。

 顔を真っ赤にする私とは違い、アンドレ様はすっかり平常運転に戻っている。さきほどの笑顔は幻だったのかと思うほど冷たい瞳で、フレデリク様を見て……いや、睨んでいる。


(アンドレ様……怒っておられます)


 だが、フレデリク様はそれに気付いていないのだろうか。いや、気付いていても気にしないのであろうか。相変わらずの笑顔で、アンドレ様に告げた。


「アンドレ。忘れてるかもしれないけど、仕事たんまり残ってるぞ」


 無言で立ち去ろうとするアンドレ様だが、ふと何かを思い出したかのように立ち止まった。そして、振り返って私を見る。その瞳はもう冷たくはなく、むしろ太陽の光のように温かい。思わずきゅんとしてしまう私。


「行ってくる、リア」


 少し頬を緩めるアンドレ様に、満面の笑みを返していた。


「行ってらっしゃい、アンドレ様」




ーーーーーーーーーー


ここまでで第一章となります。

読んでくださって、本当にありがとうございました!


第二章では、二人の距離がさらに近付いていく予定です。引き続き読んでいただければ幸いです。


もし気に入ってくださったら、ブックマーク、いいねや評価をいただければ幸いです。

皆様の応援がいつも励みになっています。

いつもありがとうございます!!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る