第8話 忍者、クエストに挑む
巨大洞窟の構造をしたダンジョンの壁を蹴り、ザッシュが音も無く宙を舞う。
上下逆さまの状態で突きの構えをとったザッシュは落下した。
「忍法・天誅殺!」
落下先には狼狽えた様子の大鬼。直前まで相対していたザッシュを見失った大鬼は、すっかり足を止めている。そして、その致命的な隙は、大鬼の最後の行動となった。
頭のてっぺんに刀を突き入れられた大鬼は硬直し、落下とザッシュの重量が乗った斬撃によって、二等分にされる。
『返り血、少し落とした法がいいね』
志信の奇襲のため、天然洞窟の岩場の影に隠れていたパーンが姿を現す。志信は柄蓮の提案に乗る。
「お願いしていい?」
「わかった。符術・放水呪」
柄蓮の呪文と共にパーンの腰部にマウントされていた符が宙に浮き、ザッシュの目の前で停止。その後、すごい勢いで水を放出し、戦闘でザッシュが浴びた血脂の汚れを流し落とした。
「これでよし。簡易的だけど、クエスト中は仕方ない」
「ありがとう。おおよそ落とせたみたいだし、機体の動きに問題もないかな」
志信はAIによる機体診断に目を通しつつ、軽くザッシュの手足を動かし確認する。
「じゃ、急ごう。今回のクエストは早い者勝ち」
クエスト。今回、志信らは予定していた通り、週末にダンジョンに潜っていた。
その際、緊急でクエストと呼ばれる仕事が舞い込んだため、予定を変更してクエストにあたっている。
クエストとは、企業が直接探索者に依頼する仕事のことだ。企業がダンジョン内で欲している用事を、請け負った探索者が解決にあたるというもの。
「ダンソリューション社の採掘エリアの異常調査って話だったよね? 依頼内容とだいぶ違わない?」
志信はダンジョン入り口の指揮者内で、クエストを受ける際に、沙夜と柄蓮と見たメールの内容を思い出す。メールには情報はそう多くなく、志信が言った内容が多少丁寧に書かれていただけだったはずだ。
『ダンジョン内の問題を把握できないから仕方ない。今回の依頼はその異常の内容を確認してきて&解消できそうならして、だから』
今まさに採掘のために企業がエリアを拡張中なのだろう。洞窟型のダンジョンは、重機が入れられ、そこでとれる魔石や鉱石を集めているのが伺える。
放置されたマギワーカーや、運搬車があった。従業員は見かけないため、撤退したのだろう。
『もちろん、時間が立てば会社も情報を精査するから、値段が上下するし、依頼内容もより具体的になる』
ダンジョンという異界では基本的に常識が通用しない。
まず、ダンジョンの中に空があるエリアも存在し、入り口は日本の地上に存在するが、どこの地下にもダンジョンは存在していない。
ダンジョンが発生してから現在まで、ダンジョンの内部は異空間にある、というのが通説で、それを証明するかのように、ダンジョンで採取できるものは地上に存在しないものばかりだ。
そんな状態なので、ダンジョン内部では安定的に電波も届かないし、安全とされるエリアでさえ、情報をリアルタイムで得るのは難しい。
依頼の内容に具体性がないのは仕方ないことだった。
『けど、その場合は大抵、お抱え探索者への指名になるから、私たちは受けられない』
情報が精査されれば、緊急性なし、と判断されて依頼は取り下げられ、適正額で改めて依頼される。その際の依頼先も、依頼との相性のいいチームや、その会社が専属契約しているチームに依頼されるだろう。
『今回の異常は向こうの初期提示額から上乗せできる』
「報酬がもらえるのは嬉しいけど、不気味だね。周囲にはわかりやすいものもないし……」
何を探しているのかもわからない状況だ。大鬼が群れを成して存在するのはおかしいが、なぜそうなったのかがわからない。
『ひとまず、大鬼を排除したら、ゆっくり探索。沙夜との通信も復帰するかも』
「わかった」
異常のためなのか、通信距離が非常に短くなってしまうようで、ダンジョン入り口に駐車した指揮車からの連絡は途絶えていた。
しかし、異常を発見できていないため、二人は予定通り探索を続ける。
話しながら奥へと進めば、広めのスペースがあった。恐らく、マギワーカーの駐機場として使っていただろうスペースは、壁や床が綺麗に整地され、崩落防止のための支柱がいくつも立っていた。
その奥で、倒れたマギワーカーに、三体の大鬼が群がり、装甲を引きはがしている。
一体は体躯が一回り大きく、巨大な剣を持っていた。ザッシュのサイズで見ても、半身が隠せそうなほどの大きさ。一撃を貰うわけにはいかなさそうだ。
もう一体は採掘場に転がっていたのだろう、ハンマー。それと素手の大鬼が一体。
「グォォォォ!」
ハンマーの一体がこちらに気づき、ハンマーを持って声を上げた。つられ、残る2匹がマギワーカーから離れる。剣を持った大鬼……剣鬼はマギワーカーから引き剝がした装甲を、ザッシュに向かって投げつける。
「引き付けるから、術の用意を」
「気を付けて」
志信は慌てず、引き抜いた刀で装甲を弾き、パーンを庇うようにザッシュを前に出す。
抜いた刀は横に構えて挑発し、外部スピーカーを使って注目を集めた。
「来い! 相手してやる!」
ハンマー鬼がいの一番に反応した。志信は支柱の影に隠れる。
そして、ザッシュは支柱を死角にして、跳躍から一閃。ハンマー鬼の肩を切り裂く。
「ギャっ!」
浅かったのか、ハンマーを取り落とすことはなかったが、ハンマー鬼は怒りだした。
「グォォォッ!」
横に大振りされたハンマーをスライディングで躱す。
「おっ……!?」
ザッシュの魔力シールドが地面との間にいい感じに摩擦を低減したらしく、ハンマー鬼を通り過ぎて、まだ状況を追いきれていない素手鬼の足元まで進む。
「はっ!」
ザッシュの目の前にあった素手鬼の足を切りつけ、志信は勢いのまま転がり、ザッシュを立たせる。
「グギャアアッ!」
素手鬼が足を抑えて蹲るのを視界の隅で確認しながら、ザッシュに振り返り、走り出したハンマー鬼も視界に入れる。剣鬼は、ザッシュとパーンを警戒して、様子を見ているのも確認した。
まずは手前の処理と決める。
「天誅殺!」
ザッシュは支柱を蹴って、洞窟の天井付近まで跳躍。高度から素手鬼の頭部に刀を突き入れる。
「ギャ、ギャアァ!」
短く痙攣しただけで沈黙した素手鬼を見て、仲間をやられた怒りか、ハンマー鬼が怒りの声をあげた。ザッシュに対して怒りをむき出しにしている。
「グギャウ!」
「ギャギャ!?」
剣鬼が制するように声をあげ、ハンマー鬼が困惑しつつも少し落ち着く。
「ギャウ……」
「グギャ……」
剣鬼は2体1でザッシュを片づけると決めたようだ。短いやり取りで、剣鬼とハンマー鬼は左右に分かれ、ザッシュを囲むように動き始めた。
「ちっ、焦ってきてくれた方がよかったんだけど……」
連携がなければ、一対一を細かく繰り返すだけだ。そちらのほうが時間を長く稼げたのだが……
『志信!』
「待ってた!」
柄蓮の短い言葉に意図を察した志信は、即座にハンマー鬼に向かう。
「おらっ!」
刀を仕舞い、ハンマー鬼の懐に素早く潜り込んだザッシュは、両肩を掴んで巴投げを決め、柄蓮の射線上に剣鬼とハンマー鬼を並べる。
「っ、完璧……」
志信の行動に驚いた柄蓮ではあったが、志信の援護を理解し、短く賞賛を送る。
自分の仕事をすべく、パーンに準備させていた陰陽術を起動した。
「符術・太陰太極砲」
陰陽五行の法に則り生み出された、陰と陽、二種類の魔力が混ざりあう。
激しく発光し、奔流となった魔力は、流星のように剣鬼に向かって飛んだ。
「グゥゥ!」
「ギギャ!?」
危険を察知した剣鬼はハンマー鬼の頭を掴むと、パーンの攻撃への盾とした。
ハンマー鬼の纏う魔力が、太陰太極砲に抵抗するが、抵抗空しく光に飲まれる。
「盾にした!? いや、それでも……」
志信が驚く。二体巻き込めればいいと思ってハンマー鬼の位置を調整した志信だったが、まさか剣鬼が盾にしてくるとは思わなかったのだ。
それでも、パーンの攻撃が前回大鬼を貫通したところを見ている志信は十分勝算があるのではないかと思ったのだが、
『! 倒しきれない!』
柄蓮の焦る声に、攻撃の失敗を悟る。攻撃を受けた大鬼たちの様子を見れば、ハンマー鬼は胸部と腹部に大穴を開けた状態で沈黙している。
剣鬼はさらに自身の巨剣を盾にしたらしく、盾はさきほどのエネルギーを受けてか赤熱しているのが見て取れた。
「グォォォォォォっ!」
「来るぞ!」
剣鬼が怒りの咆哮をあげる。柄蓮のパーンを庇うようにザッシュを走らせた志信は、剣鬼の前に立つ。剣鬼が邪魔な障害物でも振り払うように、巨剣を振りぬいた。
「!」
志信は屈んでこれを回避する。すると、勢いの乗った巨剣が、頑丈そうな支柱に叩きつけられ、爆ぜる。
「天井支えてる柱なんだよね……!?」
吹き飛んで無残な姿となった支柱を見、剣鬼の膂力を警戒する志信。
「わ……」
『な、何!?』
その時、地面が大きく揺れ、志信、柄蓮も機体を立たせるのが精一杯の状態になる。
剣鬼すらも、巨剣を杖に倒れないように踏ん張っているのが見えた。
「まさか、天井……?」
一瞬、天井が崩れるのかと警戒する志信だったが、すぐに違うと理解させられる。
目の前に巨大な亀裂が発生し、あわやのところでザッシュが亀裂に飲み込まれかけたからだ。
「グォォォォぉ……!?」
大鬼はバランスを崩し、巨剣と共に亀裂の中に消える。
『志信、平気!?』
「俺は問題ない! けど、すぐここを離れよう!」
ダンジョンの異変は亀裂だけでなく、地面が隆起し、壁も崩れて形を変える。
「ダンジョンが……変化してる!?」
志信は柄蓮の手助けをしつつ、ダンジョン脱出を目指した。
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