探偵は喋らない

五箇山久兵衛

第0話

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正直、私は控えめに言っても美人だ。そこいらを歩いている女なんて比べものにならない。

舞台の中央でスポットライトを浴びながら、観客の視線を全身に受ける。それが、私の当たり前。

周囲の女からの妬みや羨む視線ほど気持ちの良いものはない。どんなに頑張って化粧で誤魔化しても、生まれながらの魅力には勝てない。

美人で、なんでも完璧にこなす私。

天は二物を与えず、なんてよく聞くけれど、私はいくつも与えられた。

私は選ばれる人間でも、選ばれた人間でもない。

選ぶ事ができる人間。

頭の先から爪先まで、全てが綺麗。

テレビや雑誌なんかで見る様な女優やアイドルなんて下衆な女達とは違う。女を売らないとやっていけないようなくだらないものとは違う。

舞台に立つのは私の表現の幅を広げるため。その行動をたまたま見た人間が私を褒め称える。

それらの賛美は私にとってはただのおまけ。

そんな私が求めるのは、キャンバスに描く色の世界。私が選んだ世界。それだけが私を最高に輝かせ、私を高揚させ、快感を与える。

それ以外の私は全てがおまけだ。誰に愛されようと、求められようとも、私が選んだ世界以外はどうでもいいの。

でも、一人だけ、たった一人だけ、私の選んだ世界を嬉しそうに眺める人がいた。

だから、その人は、私の特別。世界の誰よりも特別。



初めて見た時は衝撃的だった。目の前に広がる色の世界に圧倒された。一目惚れだった。生み出された世界も、その世界を生み出す彼女も、その一瞬で自分の全てを奪い去る様な感覚だった。

それからは彼女が自分の世界の全てと言っても過言じゃなかった。

彼女の世界が認められるたび、どこか誇らしいような気持ちの反面、ぢくぢくと胸を抉られるような、嫌な感じがした。

彼女の世界や、世界を生み出す力が誰かに観られるのが許せなかった。彼女のすべてが汚されるようで、ただ嫌だった。

自分だけのものにしたい。

自分だけが彼女の美しく、洗練されたあの世界を知っていればいい。

だから、殺そうと思った。これ以上、彼女の世界が汚されることのないように。

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