第6話 攻撃を受けてしまった

「うわっ⁉」


 咄嗟のことで避けることも出来ず、俺はただ反射的に腕で防ぐことしかできなかった。防いだ腕に爪痕が刻まれ、俺は衝撃でバランスを崩しそうになる。だが、何とか踏みとどまることができた。それは俺の力じゃなくて、パワードスーツの機能なのだろう。

 だが狭い階段室に戻されてしまった。黒い猫のような何かはといえば、俺の足に爪を突き刺すべく前肢を振り上げていた。刺さるのかは分からないが刺されるのはまずい。ぐっと足に力を込め、上、やや後ろに飛び上がる。階段に上手く着地できるか分からないが、距離を取りつつ逃げなければ。幸いスーツは上手くやってくれた。俺は階下の黒猫、表示はブラックパンサーを狙い、引き金を引く。


「躱した⁉」


 この狭い空間でよくも、と思うが、ブラックパンサーはひょいと斜め前に飛んで躱していた。何て素早い奴! そして躱すついでにこちらに近付いてもきた。早く仕留めなければと思うところへピピ、と警告音が鳴り響く。


光線銃ブラスターのバッテリー切れ⁉」


 警告表示も出ている。交換したいところだが、そんな事をしている暇はなさそうだ。ブラックパンサーが飛び掛かってくる。


「やられる、か!」


 俺は光線銃を投げ捨て、光線剣ビームソードを引き抜きブラックパンサーへと突き出す。真っ直ぐに飛び込んできていたブラックパンサーは、躱す事も出来ずにそのまま串刺しになった。黒い体が消え、カランカランと音を立て、黒い魔石が転がる。


「おお、やるじゃないか!」


 東教授の驚きと称賛の混じった声が聞こえる。息が弾み、脈が速くなっている。称賛の声と、魔物を倒した達成感に何だか年齢を忘れそうになるし、自分が最初から迷宮探索者ダンジョンシーカーだったかのような錯覚にも陥る。でも、俺はただの爺だ。勘違いしてはいけない。別に俺が凄い訳ではないのだ。凄いのはパワードスーツと武装なのだ。そして、俺に力を与えてくれるパワードスーツは、さっきの戦闘で傷ついてしまった。


「でも……スーツに傷が」

「それは仕方の無いことだよ。幸いアクチュエータは無事だし、傷も表面だけだ。それより、銃のバッテリーを交換しておかなければ」

「ああ、そうですね」


 教授の言葉にはっとして、俺は光線銃を拾い、銃に刺さったバッテリーに手を伸ばす。手が震えそうになるが、そこはスーツが補正してくれたようだ。空になったバッテリーを引き抜き、ベルトのポケットに入ったものと交換する。これでよし、と。一連の作業の間に、呼吸も落ち着いてきた。さあ、進まなくては。

 俺は階段を降り、もう一度地下三階のフロアへと向かう。今度は襲われることはなかった。さっき一瞬踏み入れたがすぐに押し戻された場所は、四角い小部屋だった。当然、健人の姿はない。

 健人は一体どこへ行ってしまったのだろう? どうして、見つからないのだろう? ここに来るまでは結構な道のりだし、魔物も沢山いた。健人には『電撃』能力の高い資質はあるようだけれど、ここで戦えるとは思えない。迷宮を進むことなどできないはずだ。


迷宮ダンジョン内にある罠の中には、踏んだ者を迷宮の奥へと転送するものがある。もしかすると、それに引っかかってしまったのかもしれないな……」

「そうですか……そうなのかもしれませんね」


 俺はたまたま引っかからなかったのだろうか。健人が引っかかったが故に俺には適用されなかったのだろうか。いずれにせよ、俺は健人を探すだけだ。考えても仕方ない。先を急ごう。

 だが、どちらに進んだものだろうか。今いる小部屋には、今抜けてきた扉以外に扉が三つある。そうだな、くまなく探さなければいけないのだし、後ろ……地図で言えば北側が地下二階から続く階段だったことを考えれば、右か左に行って、この部屋沿いが北側の端だと確定させるのが良いだろう。とりあえず、左に行こう。

 そう思い扉に手を掛けたところで、また警告音が鳴った。銃のバッテリー切れよりけたたましい音だった。

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