【海遊びにも危険はある】

そしてここでもトラブルは発生する。



「ったく、マリアはよ……。」



男達に囲まれたマティアスとアレックス。

そこから僅か離れた所には腕を掴まれたマリアの姿。

またもや拉致されたようだ。



「手加減しながらだと時間がかかりますね。」



「しょうがねぇだろ?下手すりゃ殺し兼ねねーからな。」



ため息をつき、背中合わせに構える兄弟。



「セフィーナはまだか?」



「そろそろだと思いますけど……あ、来ましたよ。」



腕を掴まれたセフィーナが、マリアがいる方へと連行されている。



「どうよ、こいつも上玉だろ?しばらく見てたが連れはいないみたいだぜ。」



「大収穫じゃねぇか。早くそいつら潰しちまえ!」



リーダーらしき男の声で、男達が一斉に飛びかかる。

防御しながら様子を見る二人。



「私に用って何ですか?用が無いなら帰らせてもらいますけど。」



その発言に笑うリーダー。



「お前らって頭が弱いのか?のこのこついて来て同じ質問かよ。この状況を見たら分かるだろーが。」



セフィーナがチラリとマリアを見る。

苦笑する彼女を見て、また同じ手に引っかかったのかとため息が出た。



「ほんとにもう……。マリアは人を信用し過ぎなのよ。」



「ごめんなさい……。」



コソコソ話す二人を見て、男が怪訝な顔をする。



「お前ら知り合いなのか……?」



「そうよ?だからマリアは返してもらうわ。」



ニコッと笑うセフィーナ。

可愛らしい笑顔に呆気にとられる男。

一拍置いて笑い出した。



「お前が?どうやって?まさかあいつらが助けてくれるとでも?」



げらげら笑いながら、マリアの腕を引っ張る。



「二人は当てにしてないわ。貴方の相手は私一人で充分だもの。」



うふっと笑って歩み寄る。



「ほら、マリアが痛がってるでしょ?その手を離しなさいよ。」



「誰が離すか!」



言った瞬間、マリアから手が離れた。

何かが手に当たった気がしたが、何も見えていない。



「何をした……?」



「何って、その手を弾いただけよ?」



変わらずニコニコしている女。

手を弾いた素振りは見せていない。



「おい、せっかくの上玉を離すなよ。調達する俺の身にもなれ。ほら、お前もおとなし」



セフィーナの背後に立った瞬間、どしゃりと男が崩れ落ちた。

彼女はリーダーから視線を外してもいなかった。



「よし、こっちも反撃開始だ!」



セフィーナ達の様子を確認し、防御から攻撃に移るマティアス達。

倒れだした仲間達を見て、リーダーがギロリとセフィーナを睨む。



「なるほどな。ただの女じゃないって事か。」



そう言ってファイティングポーズを取る男。

セフィーナを敵と見なした男に隙はない。



「女でも容赦しねぇからな。おら、どっからでもかかって来」



言い終わる前に男は吹き飛んだ。

最小限の動きで男を仕留め、かぶりを振るセフィーナ。



「軽い1インチパンチで吹き飛び過ぎよね。人間相手ってつまらな過ぎ……。」



何の手応えもなく、バトルとは言えない闘いだった。



「マリア、何か飲みに行こ。」



「ごめんなさい、私が買って来るはずだったのに……。」



「いいわ、気にしなくて。ねえ!先に行って飲み物買ってるから!」



バトル中の二人に声をかける。



「おう!俺らの分も買っとけよ!」



了解の合図に手を上げて、何事もなかったように去って行く美女二人。

それを見届けたマティアス達も、全員を倒してその場を去った。



「たく、何で騙されるかな。」



「俺達がいなかったらマリアの人生終わってますよね。」



ビーチに敷いたシートの上。

そこに座って話す4人の姿。



「でも、困っている人を見捨てる事はできませんし……。見捨てて誰かが困るより、私が騙された方がマシですよ。」



「やっぱ母さんの姪っ子だな。けど母さんの場合は回避できる力があるからな。」



「そうですよ。力が伴わなければ人助けなんて無理ですよ。」



気持ちは分かるが、下手すればマリアの命に関わるのだ。



「ねえ、マリアも格闘技を身につけたら?攻撃じゃなく護身の為に。」



「わ、私には無理ですよ、」



とんでもないと手を振るマリア。



詠春拳えいしゅんけんならどうです?メイドがいた頃は必須で習わせたそうですよ。」



「そうよ、詠春拳を習えば良いのよ。ママの血筋なんだから、習得できるはずよ。」



「でも私、ハウエルですし……。」



「関係ねぇだろ?メイドが習得してたんだし。」



それならばとマリアが頷く。

そこへシンとタナトスが顔を出した。



「お前ら泳がねーの?ずっと座ってたのか?」



その台詞に苦笑する4人。



「一悶着あった後ですよ。マリアが拉致されてね。」



「って、また騙されたのか。ほんと一人にできねーな。てか、何で一人になったんだ?」



4人で屋台に行き、効率が良いからと分担したのがマズかったらしい。



「すぐ側の店だし、まさか拉致られるなんて思わなかったのよ。」



「商品を受け取って支払いしてる時だったんでしょうね。ちょっと目を離しただけで居なくなるなんて。」



アレックスとセフィーナが肩をすくめていた。



「まあ、対策として格闘技を身につけてもらう事にしたけどな。」



「え、マリアに?無理なんじゃない?シンだってやってないのに。」



タナトスが二人を見て笑う。

シンも格闘には携わっていないのだ。



「ついでにシンも習えよ。護身術代わりの詠春拳。必ず俺達がいるとは限んねぇしな。」



「あー、確かになー……。」



大抵は6人一緒だが、タナトスと二人で出歩く事も多い。

そのタナトスと別行動をとる事もあり、その時は神々の護衛は無しだ。



「けどよー、マリアと違って俺に危険はないと思うぞ。」



「身につけて損はねぇだろ。マリアに付き合ってやれよ。」



と、半ば強制的にシンも格闘をかじる事となった。

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