メッセージ

 家に帰ると、リビングテーブルの上に「買い出し行ってきます。十一時半までには戻ります。 ザクロ」というメモ書きが残されていた。現在の時刻は十一時過ぎだったので、もうすぐ帰ってくるだろう。

 

『恋塚さん、本日の成果はどうでしたか?』

『わたくしたちが手を貸したのです、大成功に決まっておりますわよね?』

『気になりますわ!教えてください!』


 私がなにげなくスマホを起動すると、『朝霧さまを守る会』のみんなからメッセージが届いていた。


 どんな返信をしようか、悩んだ末に『今日はありがとう!朝霧くんにかわいいって褒めてもらえたよ。すごく楽しかった』と入力、送信した。


(「かわいい」、か……。えへへ)


 朝霧くんの発言を脳内で反芻し、だらしない笑みをこぼした。

 スマホを学習机の上に置いて、枕に顔をうずめて足をばたつかせる。


 その時、ガチャリと扉が開く音とザクロの「ただいまー」という声が響いたので、私は「おかえり!」と返事をして、階段を駆け下りた。


「あ、お姉ちゃん。デート、どうだった?」

「すごく楽しかったよ。かわいいって言ってもらえたんだ!……というか、デートじゃないからね?」

「いや、普通にデートだと思うけど……。まあいいや。よかったね、お姉ちゃん」

「うん!ありがとう。お昼作るの手伝うよ」


 二人でキッチンに向かい、手を洗う。

 今日のメニューはそうめんということで、麺を茹でる作業はザクロに任せて、私はそうめんに添えるオクラとネギを切ることにした。


 茹で上がったそうめんにオクラをのせ、お好みでネギものせる。

 麺つゆに箸でつまんだ麺をつけ、ちゅるりとすすると、冷たい麺が体に染み渡った。


「おいしいー!そうめん食べるの久しぶりだから、余計においしく感じるなあ」

「これ、お隣さんにもらったんだよね。あの人の息子さん、そうめんの会社に勤めてるんだっけ?」

「そうそう!『息子からたくさん送られてきたけれど食べきれないから』って、分けてくれたんだよね」


 ザクロと話しながらそうめんを食べ進める。

 昼食を食べ終え、皿洗いを済ませて各々くつろいでいた時、私は「あ!」と声を上げた。スマホの画面から顔を上げたザクロに「どうしたの?」と聞かれ、私は読んでいた本を閉じてザクロに向き直った。


「ザクロ、この間仲良くなりたい子がいるって言ってたじゃん。南雲さんだっけ。聞きそびれてたけど、結局、あの後どうなの?」

「ああ、南雲さん。へへ、実はね……」


 ザクロは私の隣に座った。ソファに深く腰掛けているのを見て、長くなることを察して、背もたれに背中を預ける。ザクロは話を始めた。


「南雲さんのことを話した次の日、思い切って南雲さんに『その本、好きなの?実は私もその本好きなんだ』って話しかけてみたの。そしたら、すごく話が盛り上がって、友達になれたんだ。言うタイミングなかったから、何も言えてなかったけど」

「そうだったんだ!やったじゃん!」

「うん、それでね、次の水曜日の放課後、一緒に本屋へ行くことになったの。南雲さん、習い事で忙しくて、空いてるのがその日だけなんだって」

「わあ、よかったね!」


 私が自分のことのように喜ぶと、ザクロは頬を緩めた。


「ありがとう、お姉ちゃん。すごく楽しみ」

「よかったねー!しっかりおめかしして行きなよ!」

「普通のお出かけなんだから、ちょっとでいいよ」


 私はしばらくザクロと話に花を咲かせた。


 

◇ ◇ ◇



 夕飯なんかを終えて自室に戻り、スマホに目を落とすと、通知がたくさん来ていた。


 メッセージの差出人は、『朝霧さまを守る会』のみんなとアキ。送信時間がより早かった『朝霧さまを守る会』のグループラインから確認することにする。


『褒めてもらえてよかったですわね!』

『わたくしたちが手伝ったのです、当然でしてよ!』

『また次のデートの時は、ぜひわたくしたちに協力を仰いでくださいませ!』

『恋塚さんに似合うコーディネートを考えておきますわ!』


(説得をするために誘ったお出かけだから、次とかないけどね……)


 そう苦笑すると、なぜかツキンと胸が痛んだ、気がした。

 なんでだろうと自問自答しつつ、『ありがとう!みんなのおかげだよ』とだけ返事をした。


 次に、アキとのトーク画面を開く。


『ヒスイ、朝霧くんとのデートどこに行ったの?楽しかった?』


 アキからのメッセージに、『デートじゃなくてお出かけだよ!映画見て街歩きして喫茶店に行ったんだ!すごく楽しかった!』と返信すると、すぐに返事が来た。


『そうなんだ。楽しめたならよかった。今度あたしとも遊びに行こうね』


(わ、うれしいな。そういえば、何気に最近アキと遊びに行ってないかも……)

 

『うん!約束だよ。楽しみ!』


 そう送るとアキから、サングラスをかけたウサギが『me too』と言っているスタンプが返ってきた。

 くすっと笑って、スマホの電源を落とす。


 色々あったために疲れていたらしい私は、ベッドに入ってすぐに眠ってしまった。

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