無意識ストーカー?
「はあ、朝霧さま、なんて美しいの……」
「ミケランジェロの彫った彫刻のようね……」
クラスの女子と集まった野次馬が、朝霧くんを遠巻きに眺めている。
朝霧くんが来る前と比べて一気に騒がしくなった教室に、私は深いため息をついた。
朝霧くんがやってきて、興奮したクラスメイトは、予想通り昼休みに朝霧くんを質問攻めにした。
が、朝霧くんは「うるさい、邪魔」の一言で周囲を一蹴、高嶺の花(?)となったのだ。
推しのシオンくんに似すぎている朝霧くんを観衆Cとなって見守り始めて早三日。
朝霧くんは購買で購入した人気メニューの焼きそばパンをもぐもぐ頬張っている。小動物がエサを一生懸命食べているみたいで、なんというかとてもかわいい。
朝霧くんが転入してき日から今日までの三日間だけで、図らずも私は朝霧くんの生活スタイルをおおよそ把握した。
本当にシオンくんとそっくりな朝霧くんを眺めて栄養を補充するため、朝霧くんに迷惑がかからない範囲で尊み成分を補給させていただいていたら、大体の好みなんかを理解してしまったのだ。
アキには「ストーカーじゃん……怖……」とドン引きされた。私も同感だ。
まず、登校時間は八時過ぎ。うちの学校は八時十五分を越えると遅刻扱いなので、結構ギリギリだと言える。
次に、授業態度はまずまず。気分屋なのか、真面目に授業を受けているときと寝ているときとがある。ただ、先生に当てられたときはけだるげながらもすらすら答えていたため、成績は悪くないと見える。
そして、昼食は購買。選ぶときの様子からして、辛い物は苦手そう。ただ、甘い物もそこまで好きではない様子。味の濃い物を好む傾向にありそうだ。
最後に、下校時間。ホームルームが終わればすぐに帰っていた。部活の見学や勧誘はすべて断っているようなので、たぶん部活に入る予定は今のところないんだろう。
「はあ……本当に自分が気持ち悪いよ……」
「うん、あたしもそう思う」
「アキは黙ってて……」
ずーんと落ち込む私に追い打ちをかけるアキを小突いて、深いため息をつく。
もうストーカー紛いの行動は慎もう、そう固く決意した。
◇ ◇ ◇
ストーカーみたいな行動をやめよう、そう誓った。……誓ったのに。
あれから二日後の日曜日、私は朝霧くんをブロック塀の陰から覗いている。
(帰っている途中の朝霧くんを見かけたから、つい隠れちゃったよ!今日の料理当番私だから、買い出しに来たんだけど、まさか朝霧くんとばったり会うなんて……。うう、隠れちゃった手前、出て行くタイミングが掴めないよー!どうしよう……?)
息をひそめながら内心でおろおろしていると、朝霧くんは新品っぽい黒のスマホを右耳に当て、誰かと通話を始めた。
盗み聞きなんてよくないと頭ではわかっているけれど、足が縫い止められたように動かない。
「わ……
(……?私の名前?)
途切れ途切れに聞こえる会話の中に、確かに私の名前があった。どうして私の名前が出てくるのか気になって、少し近づき耳を澄ませた。
「だから、わかってるって。恋塚ヒスイでしょ?ターゲットの名前。……うん。一週間後に殺す予定。絶対に成功させるよ——死神シオンの名にかけて」
「!?」
(ど、どういうこと!?えーっと、朝霧くんは死神で、私の命を狙っているの?ていうか、死神って本当にいるの?私の聞き間違いかな?でも、はっきり私の名前も言ってたし……)
朝霧君と鉢合わせしないように、遠回りで走って家に帰る。
少し乱れた息を玄関で整えて、私は震える唇を開いた。
「わ、私、このままじゃ朝霧くんに殺されちゃう……!?」
どうしよう、由々しき事態だ。私の目標は百歳まで元気に生きることなのに!
私はぎゅっと握りしめた両拳を、天に突き出した。
「よーし、決めた!朝霧くんと仲良くなって、私を殺すこと、考え直してもらおう!」
私の宣言は、薄暗い無人の廊下に吸い込まれていった。
「……うん、とりあえず上がろう」
気恥ずかしくなった私は、気をとりなおすように靴を脱いで、足早に廊下を駆けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます