あかりの理由
その後は予定していた通りショッピングに移り、俺もあかりも、ちょっとした買い物を楽しんだ。
「悠也君、これなんか似合いそうだよ。ホラ」
「いいデザインだけど、なんだか背伸び感があるな……」
「そう?カッコいいと思うけど」
「……悪い、ゼロが1つ多いわ。3ヶ月分の小遣いが吹っ飛んじまう」
あかりのセンスは良い方、と言うか良過ぎて困る。全身揃えたら、半年はジュースすら買えない水だけの生活になりそうだ。
「こういうのは自分で稼げるようになってから、かな」
「じゃあやっぱり、ディスリーワールドに就職だね」
「だから行かないってば」
「悠也君はどのキャラ担当になるのかな?たとえ畜ポンでも、私、全力で推すよ」
「話を聞けぃ」
もちろんあかりも本気では言っていない。こんな風に気軽に冗談を言い合える仲。付き合うことになったら、きっと楽しい毎日になるんだろうな……
一通り見て回ったところで場所を変え、俺たちはフードコートへとやって来た。
結構な空腹を覚えていた俺は、コスパのいい親子丼とうどんのセットを頼んだが、あかりはパスタ一皿という可愛らしい注文に留めていた。普段はもっと食べてるだろ?とツッコミを入れたい気持ちはあったが、そこまで女心が読めない俺じゃない。初デートに懸けるあかりの想いを汲んで、敢えてスルーしておく。後でドーナツ半分こ、と称して1つ2つ食べさせる気配りをしてみるか。
「……悠也君って、やっぱりエスコートに慣れてるって感じがするな」
「そうか?これくらいは普通だろ」
「私は今まで、男の子と出かけたりすることなかったから、すっごく新鮮に思うよ」
「そういやそんなこと言ってたっけ」
本当に意外なんだよな。俺の知ってるあかりは、男女分け隔てなくグイグイ距離を縮めてくる、というイメージなんだが。けどそれが原因で引かれる、というわけでもなさそうだし。
「私ね、小学生の頃に名前が読み辛いってことで、男の子によくからかわれてたの」
「ふーむ、確かに初見では分かりづらいかも知れないが」
「
「小学生男子あるある、だな」
子供は割と残酷だしな。悪いことをしている、言っているという自覚もなかったんだろう。
「親に相談してみたけど、気を引きたいだけじゃないか?とか、どうしても嫌だったら先生に相談してみなさいって感じで、子供同士の口げんかやちょっとしたイジワルみたいにしか思ってなかったみたい」
「けど、あかりは本当に嫌だったんだな」
あかりはこくりと頷く。独白はさらに続いていく。
「それからも名前弄りはどんどんエスカレートして、しまいにはチビコマとかチビタマとか言われるようになったの」
「ああ、そこまで行けばもうイジメだな」
「それで私はとうとう泣き出して、男の子たちも先生にひどく叱られることになったんだけど……」
「今度は嫌がらせが始まった、ということか」
答えは沈黙。つまりイエスか。
「女の子は庇ってくれたんだけど、男の子たちはわざとぶつかって来たり、陰口言ったり、露骨に無視したりするようになったの。おかしいよね?私、なんにも悪いことしてないのに」
「嫌なこと、思い出させてしまったな」
俺はテーブル越しにそっと手を伸ばし、あかりの頭を撫でてやる。まあそんなことがあったんじゃ、男友達を作ろうなんて思わないわな。
「だから私はずっと、女の子たちだけで集まって遊んでたんだけど、高校進学で仲の良かった子たちともバラバラになっちゃって、それからは小さいグループだけで過ごしてたんだ」
「あー、そこからの展開が読めてきた気がする。お年頃の女の子の話題といえば恋バナ、けど男友達のいない自分じゃそれに混ざりづらいって感じ?」
「あはは……みんなは気遣ってはくれてるんだけど、私自身もこのままじゃいけない、って思ったんだよね」
「なるほど、そこで嘘告騒ぎがきっかけとはいえ、折角知り合った俺と仲良くなってみたいって気持ちになったのか」
あの時のあかりは凄まじい距離の縮め方だったもんな。そのまま捕食されるかと思ったよ。
「私が悠也君と、お近付きになりたいって思ったきっかけはそこじゃないよ?前に少し話したけど、嫌がらせを受けそうになってた子を、さりげなく助けてあげたことだよ」
「ああ、そういや……あかりにもう少し、周りの人に目を向けろって怒られたっけ」
「もう……そういうところだけ覚えてるんだから」
「ハハハ、悪い悪い」
しかしそんなことあったっけ?まあ美衣子の時もそうだったもんな。自分では深く考えずに行動したことを、あかりも見ていたのだろう。
「覚えてないかな?教室でラノベを読んでいた男の子が、こんなの見てるとかキモーい、とか言われて絡まれてたこと」
「あの陽キャグループのことか?……ああ思い出した。たまたま俺も知ってるラノベだったから、それ面白いよなーって言って話に加わったんだよな」
「そうそれ!あの子たちも悠也君のグループとやり合いたくなかったのか、その場は大人しく引き下がったけど、それからも隙あればちょっかいかけようとしてたの。けど、悠也君たちがそれ以来、その男の子の近くで集まるようになったから、諦めたみたいだけどね」
「アイツら、その頃からパシリを作ろうとしてたのか……」
完全に思い出した。気弱そうな男子女子を狙って絡みに行こうとしてたから、先回りしてブロックしてたんだよな。あの時は藤城や大塚もいたから、手分けして抑えてたんだっけ。
「そんな悠也君だったから、この人なら大丈夫かもしれない、お友達になって欲しいって思うようになったの。けど……」
「ああ、そっちから繋がるのか。その後、俺が嘘告野郎だって噂が流れて、それを確かめるためにアイツらと問い詰めに来た、ということだな」
「けど悠也君、教えてくれないんだもん。おかげで私、踏み込むのが怖かったんだよ?でも帰り道に少しだけど話してみて、やっぱり悠也君はそんなことする人じゃない、って思えるようになったの」
……それはそれで、チョロ過ぎやしないか?
「そこからは悠也君も知ってる通りだけど…………あ、また何か恥ずかしくなって来ちゃった……」
「喫茶店でのあかり伝説のことか?」
「もう、悠也君!」
少しむくれたあかりが、テーブルの上にある俺の手をベシベシと叩く。こういう仕草は可愛いものだよな。
けどそうか……あかりが藤城の告白ゲーム騒ぎの時に、助けてあげてって言ってきたのは、自分も理不尽な嫌がらせを受けていた過去があったからなのかな?確かにあの時の藤城は、俺にも落ち度のあった嘘告騒ぎとは違って、ただの被害者だもんな……そしてそれを助けられる力が、俺にはあった。
正仁は甘い、とは言ったが、同時にそれが俺の良さでもあると言ってくれた。別に命のやり取りをしてるわけじゃないんだから、全てを敵味方で区別する必要なんかない。例え嫌いな相手でも、困っている人には手を差し伸べてもいい。そこに何の間違いもない。あかりの言葉は、俺にそう気付かせてくれた。
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