面倒事
昼食を終えて美衣子と一緒に教室へ戻る道中、俺のスマホが振動し、着信を知らせる。
正仁だろうか?と、反射的にPAINを開いた俺は、表示されたメッセージを見て硬直した。
[話したいことがある。放課後、時間を空けておいて]
文章それ自体は普通だが、問題は送信者……藤城真雪だ。そういや絶交したものの、ブロックはしてなかったな。騒動の開始直後から、アイツらからのメッセージなんて来なかったから、忘れていたよ。
「クソ女が……舐めてると潰すぞ」
……言ったのは俺ではない。動きを止めた俺の横から、画面を覗いた美衣子だ。
「落ち着け。美衣子にそんな言葉を使ってほしくない」
「ごめんなさい……でも既読、つけてしまったわね。どうするの?」
「どうもしない。このままスルーだ」
もう俺に関わるな、と言ったのに、今更何の話をしようって言うんだ。知ったことじゃない。
「また面倒事が起きそうね」
「かもな。正仁に連絡して、用心しておくよ。そっちでも情報共有しておいてくれ」
「ええ、わかったわ」
廊下で美衣子と別れ、教室に戻った俺は弁当箱を片付けて、次の授業の用意をする。その間も藤城の方は見ない。ガン無視だ。
「あ、あの……悠也君?」
「ん?おお、あかりか。なんだか久しぶりな気がするな」
「そう……だね。私、ちょっと色々考え込んじゃってて」
「そうなのか。悩み事なら、友達に相談してみるのもいいと思うぞ」
「……」
声をかけてきたあかりだが、そこからは沈黙が続く。様子がおかしくなってからは、ずっとこんな感じだ。本鈴が鳴るまでこのままだろうか、と思っていたが、ようやく重い口が開かれる。
「ゆ、悠也君は……あの人、橋草さんと……お付き合いしてるの?」
「美衣子か?いや、まだ付き合ってはいないが」
「まだ、なんだ……そっか……」
「……あかり?」
「悠也君、私……私ね……」
ここで、お約束のように無情のチャイムが鳴り響く。あかりはまた後で、と言い残して席へと戻った。
これはあれだ、うん。明日は私とお弁当食べようってお誘いだ、なんてボケはかまさない。修羅場への第一歩だ。美衣子が言っていたダークホースが、ここへ来て本格的に参戦、ということだろう。
勘違いだったらそれでいい。笑い話で済む。だけど、腹積りだけはしておこう。美衣子はまだ時間が必要だと納得してくれているが、あかりはどうだろう。泣かせてしまうことは、ほぼ確実だろうな……
そんな風に思い悩んでいる俺のところに、次から次へと難題はやってくる。5限終了時の休みに、今度は三好クンが俺へのアポイントを取り付けに来たのだ。
「小坂君、放課後に少し話ができないかな?」
「……三好クン1人か?」
「そのつもりだよ。他の人を呼べば、またケンカになりそうだからね」
俺も三好クンと話をしたいとは思っていたが、なんでこのタイミングで来るかな……
「アイツらがいないって言うなら、断る理由は無いが……俺が聞きたいと思っていることに答えてくれるのか?」
「多分、ね。僕も小坂君から聞いておきたいこともあるし」
「……わかった。放課後な」
「うん、よろしく」
そう言って自分の席に戻る三好クン。だが、その途中で藤城にアイコンタクトを取ったことを見逃さない。つーかバレバレだろ、もう少しうまくやれよ。
というわけで三好クンの用件は、藤城が話をしたい、とPAINを寄越した件だろうな。今回の彼は完全にあちら側、と考えておこう。反射的に返事して言質を取られないよう、落ち着いて答えなきゃな。
そこでふと、視線を感じたので辺りを見回してみると、あかりが何やら不安げな表情でこちらを見つめていた。
三好クンからの接触ということで、また何やら藤城に関する面倒事が発生したのか、とでも思ってるのかな?
——大丈夫だ、問題ない。
そういうメッセージを込めて、微笑みながら頷き、胸の前で小さく手を振る。だがあかりは顔を赤らめて、恥ずかしそうに俯いてしまった。
うん、全く通じてないね。
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