策士

昼休み。授業が終わると同時に、美衣子が弁当を持ってやってきた。随分と早いな、チャイムダッシュは怒られるぞ?


「悠也クン、お昼は中庭に行かない?」

「ああ、そうしようか」


俺も自分の弁当を持って立ち上がる。最近は俊雄と食べていたので、一声かけていこうかと思ったのだが、先に美衣子が俊雄へと近付いていった。


「こんにちは、おバカさん」

「あ……ど、ども、橋草さん……」


朝の一件のせいか、俊雄はビビりまくっている。美衣子さんや、あまりトラウマを植え付けないでやってくれ。


「何をボーっとしているの?早く詠美のところへ行きなさい」

「あ、えっと……」

「……チッ」


オロオロしている姿にイラついたのか、美衣子は軽く舌打ちした後、片足でパァン!と床を鳴らし、俊雄に怒鳴りつける。


「さっさと行きなさい!蹴り飛ばすわよ!」

「イエッサー!」


チーターに追われる草食動物のごとく、慌てて教室を飛び出す俊雄。これ、釘を刺すどころか杭を打ち込んだレベルだよな。まあこれなら田畑さんに、迂闊な手出しなんかしないだろう。ちなみにこの場合はサーは使わずに……ってどうでもいいか、そんなこと。


「全くもう、女を待たせるものじゃないわ」

「世話をかける。俺からも俊雄に言っておくよ」

「じゃあアタシたちも行きましょう。2人っきりで、誰にも邪魔されないところへ」

「だから誤解を招く言い方はやめてくれって……」


当然のことながら、俺たちはクラス中の注目を集めている。戻ったら質問責めに遭うだろうなぁ。今から言い訳を考えておかないと。



中庭のベンチに座った俺たちは、弁当の中身を交換しつつ、ランチタイムを楽しむ。その姿はどう見ても恋人同士だ。今の俺が、こんなことしてていいのだろうか。


「悠也クン、聞きたいことがあるんじゃない?」

「ああ、やっぱり田畑さんのことかな。あまりに急すぎて」

「そうよね……」


弁当箱を片付けた美衣子は膝を俺の方に、斜めに向けて座り直す。


「2年生になった頃から、あの子、急に彼氏が欲しいって言い出したのよ」

「それはまあ、お年頃だからそういうものだろう」


身近なところに正仁と新見さんがいるもんな。影響されてもおかしくはない。


「だから好きな人はいるのか、どんな人が好みなのかと色々聞いてみたのだけど、優しい人とかカッコいい人、って抽象的なことばかりだから、どうにもできなくて」

「うーん、決まった相手がいない上にそれじゃ、難しいよな」

「放っておいたら、変な男に引っかかりかねなかったわ。アタシとまどかでなんとか抑えていたのだけれど」


なんだか意外だな。田畑さんって恋に恋するタイプなのか?恋愛に積極的になりすぎて、美衣子たちがブレーキかけていた、ということか。


「そんな時に、斐川クンから話があったのよ。恋人候補として、アタシたちに悠也クンを紹介したいって」

「おお、そこで繋がるのか」

「信じられなかったわ。アタシはあのまま、悠也クンが藤城さんと付き合うのを、黙って見ているしかできないと思っていたから。でもこれはチャンスではあったけど、ピンチでもあったのよ」


美衣子の俺への好意がいつからあったのかはわからないが、傍目から見ていれば、やっぱり藤城とハピエン迎えると思うよな。


そこからは俺も知っている通りだが、美衣子からすればヒヤヒヤものだったらしい。折角の俺に近付く機会だけど、まずは田畑さんのアタックを防がなければいけない。そのためにテーマパークでは俊雄のアピールに渋々付き合いながら、田畑さんの目を俺から逸らしたそうな。


この動きは功を奏したようで、田畑さんは自分を気遣い、話を盛り上げてくれる俊雄に好印象を持ったそうだ。でも同時に、引っ込み思案な七海さんを上手にエスコートしていた俺に、興味もあったらしい。おいおい、危うく俊雄にした例え話が本当になるとこだったのか。


「その後も苦労したのよ。詠美と一緒におバカさんに付き合いつつ、アタシの方は向かないように仕向けたけど、このまま詠美の恋人にするわけにもいかないと思ったわ。アタシはまだ、彼を信用できなかったから。焦っちゃダメ、と説得したけど、時間の問題だと思ったの」

「そこで、あのショッピングか」

「そうね。最後に詠美に念押ししたのよ。おバカさんがまたアタシたちを天秤にかけるようなら、見切りをつけなさいって」

「逆に俊雄が、田畑さん1人に絞ったことで、止める理由が無くなったってことか」


田畑さん、そんなに世話の焼ける子だったのか。しかし聞けば聞くほど、首の皮一枚で危険回避していたんだな。


「プールデートのことを聞いた時は肝が冷えたわ。アタシもついていきたかったのに、悠也クンは誘ってくれないし」

「うぐ……」


面目ない……って、あれ?じゃああの日の帰り道のことって……


「気付いたかしら?そうよ、万一おバカさんが失敗しても、詠美が悠也クンの方を向かないように、先にツバつけておくことにしたのよ」

「色々、策士だな」

「溺れる寸前だったけどね」


ふむ、俺が俊雄用に色々作戦を考えていたように、美衣子もあれこれ動いていたんだな。


「しかしそこまでしなくても、早い段階で俺への想いをみんなに広めておけば、もう少し楽だったんじゃないかな?」

「あ、アタシだって初めての恋なんだから……恥ずかしくて言えなかったのよ。察しなさい!」


怒られてしまった……ごめんなさい。


だが結果は上々。俺の意識を美衣子に向けさせることに成功し、田畑さんは望みどおり彼氏ができた。後は朝の通り俊雄に杭を打ち込んで仕上げ、美衣子は憂いなく、俺の攻略に取り掛かることができるようになった、というわけだ。


まあ肝心の俺がKONOZAMAなんだけどね。





「ああああ、どうしようどうしよう!助けてまどえも〜ん!」

「……ごめんね。美衣子ちゃんが小坂君狙いを宣言しちゃったから、応援はできないんだ」

「がぁぁん!そんなぁ……」

「私から言えるのは、諦めたらそこで試合終了、ってだけね」

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