1-2

 ぼんやり考え事をしてたら、ふと足先に違和感を感じた。どうやら先ほど転んだ際に、とがった瓦礫の欠片がサンダルの先から入りこみ、足の指を傷つけたらしい。サンダルからにじみ出た血が点々と石畳を汚していくが、すでに赤黒く染まった瓦礫の中ではちっとも目立たなかった。

(これで俺にも、赤い血が流れてるという証明になるな)

 灰色の髪は、灰色の瞳とあいまって亡霊のようだと揶揄されてきた。それが嫌で、髪はいつもあごの線を超える前に切り落としてしまう。世界はこんなにも色であふれていて、カシュアの体の内側ですら赤色が存在するのに、なぜ外見はこうも色彩をそぎ落とされてしまったのだろう。

(せめて、フードがついたマントがあればよかったのに)

 居心地悪い思いで木々が連なる塀を抜けると、ようやく視界の先にウェストリン宮殿が姿を現した。贅をつくした建物は、国力を示す象徴でもある。しかし優美な外観に反して、内部は想像以上に荒れ果てていた。

 調度品はすべて叩き壊され、壁にも天井にも壮絶な戦いの爪痕が色濃く残されている。そして廊下と呼ばれたであろう通路の先には、金箔が施されたものものしい、巨大な扉がそびえ立っていた。その扉が開かれると、部屋の奥から静かな声が響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る