囚われ王子の幸福な再婚

高菜あやめ

第一章 クーデター明けの空模様

1-1

 その日、カシュアは数年ぶりに青空の下にいた。

 数名の兵士たちに取り囲まれ、辺りの様子をそっとうかがう。そこかしこに赤黒い飛沫が散っていて、目をおおいたくなる光景ばかりが続いてた。

 背後から影を落とす石造りの塔には、四年ほど世話になった。しかし、おそらく二度と足を踏み入れることはないだろう。快適とは言いがたいが、住み慣れた場所は不思議と安心感を与えてくれる。そこを離れるのだから、多少心許ない気持ちになるのもしかたない。

「ボサっとしてないで、とっとと歩け」

 軽く肩を押され、カシュアはつんのめるように転んでしまった。

「おい、手荒な真似はするな」

「いや、そんなに強く押したつもりは……」

 困った様子の兵士たちを尻目に、カシュアは黙ったまま立ち上がる。その様子を認めた兵士たちは、何事もなかったかのように改めてカシュアを取り囲むと、追い立てるように歩き出した。

(……ん?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る