第四十一話 その手を離さない

 あれから、異世界の大地のあちこちを彷徨った。足取りが歴史に、この何処までも希望のない空の下。



 エタナとダストとクリスタの三人は、いつか洞窟を家代わりに。ドアもない、洞窟でじっと並んで座っていた。


「クリスタ、寒くはないか? といっても私は温める毛布一枚出してやることは出来ないが」そういって、か細い声で尋ねる。


 クリスタは、首を横に無言で振った。今まで生きて、言葉がこんなに温かいなんて。思った事は無かったから。


「エタナ様こそ、ずっと袖無しのボロボロの貫頭衣一枚ですよ。寒くないんですか?」そう尋ねると、エタナは薄く笑う。


「生憎、お前達二人のお陰で温かいよ。お前の翼は風を遮るし、ダストにつかまっていれば。少なくとも、心は凍えることがない」


 三人、いつも声をかけあって。旅を続けてきた。


 長い長い、退屈な物語が紡がれ続け。


 とある洞窟の壁を背に、雨宿りをしていた際にきっかけはダストだった。


「こんなに、空から雨が降るのに。定住できるほどの水の確保は難しいものですね」それは、優しいダストだからこそ思った事。


「あぁ、だが私は見つけたい。必ず見つけ。お前達と生きていきたい」


 まるで、それだけが希望だと言わんばかり。それに縋ってエタナという存在は、薄くても己を保ってきた。


 あれから、倒れている天使を見かけると彼女はリンクして存在値を一方的に与えるだけ。そのせいで、もう存在を保つ事さえ難しい程に弱っている。


 一般的な神の存在値が彼女にあったのなら、こんな事にはなっていない。それを、クリスタは嫌というほど判っていた。それでも、彼女が天使を救いたいと手を差し伸べる事を。止める事が自分には出来なかった。


 どうして……、どうして彼女の様な神が消えねばならないの?。


 この世の理不尽に嘆いて、思わず拳を握りしめるも。その手の上に小さな透けた手をエタナがのせ、無言で首を横にふる。人の様に骨や肉が残る訳でなく、灰も残りはしない。そんな天使にさえ、墓を作って手を合わせるような神は彼女以外にはいない。


 せめて、彼女が消える前に。偽りでも、幻でもいい。


 そんな場所を見つけたかった……。



 でも、出会った時には多少色が薄かった程度だが。今の彼女は輪郭すらボヤけている。



 頑張っても掴めない未来、無限に歩いても徒労に終わる日々。


 それでも、仮に彼女が消えても。自分が消えても良かった。


 エタナと居た日々は、今までと比べものにならない程幸せだったから。


 だが、無常にもその日々は終わりを告げた。


 神達は、天使を救ったエタナを許しはしなかったから。

 己の手駒を、消耗品を決して意思ある存在として認めようとはしなかった。


 

 異界の地で、エタナが消える日は近い。


 

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