第三十九話 ただ一柱

 ある程度、眼に見える死体を燃やし。クリスタが花を添える。結局汚染の進んだ水源では、望みは叶わなかった。


 ダストとエタナが二人で黙祷している姿が、何処までも異質。


 神とスライム……、どうしてこうも。背だけ見ればなんてそっくりなのだろう。


 少し煤けた背中、哀愁漂う空気感。


「クリスタ、すまないな」


「いいえ、それよりも川はダメになってますね」とクリスタが言うとエタナは苦笑しながら「私はいいんだ。この世に漂う水蒸気でも、雨にうたれるだけでも。存在するだけなら何とかなる。気分の問題だからな」


 ただ、そこに住む人々や生命。動物や虫達にとっては、水の恵がない事や汚れる事は死活問題でエタナにはそれを解決する力は無い。


「では何故貴女は水を探して旅をしているのです? 世界を越えて旅をする理由が判りかねますが」クリスタがエタナに尋ねるとエタナはゆっくりと上を見て言った。


「私は……、力の無い神だ。塵の様な神とゴミ同然のスライムで、安心し幸せに暮らしたい。神々の嘲笑が聞こえず、誰もが安心して眠る場所が欲しい。しかし、大多数の命には水と土地そして、食料が必要だ。だから、私は例え小さなタイルの様な場所であってもダストと私が二人で居られる場所を探しているんだ」


 それは、何処までも真っ直ぐで。何処までも正直な気持ち。


 今は、お前もいるから背を預ける岩位は必要であろうがなと薄く笑う。


 クリスタは、ゆっくりと頷くと。命が尽きるまではお供致します。ダストも私も無限に生きられる訳では無いですから。付き合える所まででと笑うと、ダストがピョコンと一回飛んで賛成の意を示した。


 彼女が本当に欲しいのは、水ではなく居場所か。本当にそんな場所があるのかは判らないが、それでもエタナには報われて欲しい。心からそう思う。


「ダスト、クリスタ。また当てもなく、歩く事になるが」申し訳なさそうに言いかけるエタナにダストとクリスタが笑いながらエタナに返事をする。


「我々には時間だけは多くあります。ゆっくりじっくり探しましょう」


「そうですよ、人は閃光の様な人生ですが我々はそうではありませんし」


 私は、貴女についていく。それが、何処までも天使という種族だから。


 こうして、全ての供養を終えた後。下山して三人はまた歩き出した。


 その、様子を空から見ていた神に。三人はまだ気がついていなかったが。


「あの子、変わり者過ぎでしょ。神は存在値がある限り、不変の存在。己の権能を使えば、存在値を削る。だから、大半の神は自分の権能を使わずに偉そうに振る舞うっていうのにさ」


 法則も常識も無視できる強大な力が権能で、その代償は生命。


 見ていた神もまた知らない。


 その、変わり者の神の権能は飛びきりイカれていて。もしも、彼女の存在値が強大であったなら。この世の何者も手がつけられないものである事を。


 エタナもダストも、クリスタも見ていた神も。


 まだ、誰も知らない。




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