アメリカ版ゾンビ
住宅街を更に進み、現在は建物の少ない大きな公園へと辿り着いた。
周囲には綺麗な景色が広がっており、大きな池とドッグランが見える。
「ここをもう少し進んだ先ならドローンを安全に飛ばせそうだ」
「よし。なら先にドローンの起動音が聞こえる範囲にいるゾンビを倒しておこう。私はタケオがドローンの起動準備が終わるまで護衛をする」
「じゃあ俺が先行します。リラさんとボブささんは湖の方を」
「了解」
「…気おつけてね」
俺はドッグランの方に一人向かっていく。
……ここにほかのみんなを連れていくわけにはいかない。
ずっと気配を感じる。小さな気配。だが恐ろしい存在の気配。
犬だ。犬の群れ。恐らくここでドッグラン中にゾンビとなった奴らが集まっているのだろう。
「……よし。行くか」
ナイフを構え、犬の気配がするドッグラン奥の茂みへと向かっていく。
ジリジリと近づいていけばいくほど嫌な匂いが鼻をくすぐる。
「……血の匂い。ここらへんに集まっているのはそういうことか」
恐らく逃げていた生存者をここまで追いかけて殺害したのだろう。
基本的にゾンビは余り動かない。動くゾンビは最低限で残りは基本棒立ちしている。
ここで殺害し、その後立ち止まっていると言ったところか。
「「「グルルルルルル」」」
低い唸り声。直ぐ側からだ。それも複数の気配。音を立てないように慎重に近づいていく。
血の匂いのおかげで俺の臭いには気づいていない。奇襲をかけるなら今がチャンスだ。
「グ……………」
まず一匹。口をふさぎ一瞬で喉を掻っ切ってやった。そしてすぐに脳みそにナイフを突き立てる。
だが少し不審がられた。何匹かの犬がこちらに近づいてくる。
まだだ……まだ。もっと近づいた所を狙わなければ。
草むらの中に隠れ…ただひたすらにチャンスを狙いを定める。
周辺の敵は十近く。こういう時のために音の出ない投げナイフを何個も持ち歩いている。
俺の肩の力なら犬の二、三匹の頭を貫通して殺すことができる。チャンスは一瞬。俺の目は鷹のように鋭くなる。
………今だ!!!
犬と犬が重なるその一瞬を俺は見逃さなかった。
俺が投げたナイフは犬の脳みそを貫通し、頭が粉々に吹き飛んでいく。
ナイフは木に突き刺さりようやく止まった。これでここにいるゾンビは全滅……じゃない!!!
「グルルルルルル!」
後ろからこちらに迫ってきた複数のゾンビ犬。見た目は可愛いトイプードルやチワワだというのにここまでの殺意を向けられたら子供どころか大人でも泣いてしまうだろう。
だが俺はその程度の殺意には怯まない。寧ろ俺のテンションを上げる興奮剤と言ったところだ。
「ふん!」
手元で残しておいたナイフで一閃! 俺はナイフの使い方なら隊員達の中でもトップ3に入る実力者
的確に脳みそにダメージを与え、確実にこいつらを仕留める。
「グルルルルルル!!!」
遠くにいたゾンビ犬達がこちらの騒ぎに気づき迫ってきた。
かなりの数。恐らくここのドッグランにいた全てのゾンビが集まってきているのだろう。
「はあ!」
ナイフがこいつらの血と脂で上手く切れなくなってきた…。
だが俺には原初にして最強の武器。至高の肉体がある。
ゾンビ犬が攻撃をする前に先に攻撃を叩き込んでしまえばいい。
頭を拳で吹き飛ばし、近づいてくるゾンビ犬を蹴りで牽制する。
「グルルルルルル!!」
音を立ててはいけない以上、あまり大規模な攻撃は使えない。地道に殴り殺していけばいけないだろう。
かつて教わった中国武術。独特な歩法を合わせ敵の攻撃を華麗に交わしていく。
「はあ…。久しぶりにこういう敵と戦ったな…。疲れた」
全ての敵を倒した時、俺の周りには頭が破裂した大量の犬と人間の死体が転がっている。
あの後大量の犬に混じって人間ゾンビまで攻撃を加えてきて面倒くさかった…。
だがもう気配は感じない。これでひとまず安全の筈だ。
「戻ろう。……無事だといいけど」
やはり犬はどんな戦場でも厄介。もし一匹でも向こうに犬が居たら厄介なことになっているはずだ。
少し不安になりながら先へと進んでいく。だがどうやらその不安は杞憂だったようだ。
「ユウキ! 良かった無事だったのね!」
「もう少し遅かったら俺達も向かうつもりだったんだ。ゾンビ共が多かったのか?」
「割と数が多くてね…。でももう大丈夫。この周囲にゾンビはもう居ない」
「よし。それじゃあ早速始めるとしよう。いけるなタケオ」
「了解! それじゃあ皆さん! 念の為周囲の警戒をお願いします!」
タケオがコントローラーを起動すると少し大きめな音を立ててドローンが起動する。
しかし市販品よりは遥かに音が大きくない。自然でスムーズな動きでドローンは空へと飛び立っていった。
小さな空間に大量のモニターが広がっている。サーバーが音を立て起動しており、その中央にあるスピーカーから無機質な声が聞こえてきた。
「肉体への適応。60%まで成長。新たな進化を開始」
近くのスクリーンに映像が映し出される。
そこには宗教団体の様に演説をしている女性。周辺で強盗を行なっている犯罪者集団。
そして警察署の光景などが映し出される。
「第三フェーズを実効。生存者の殲滅を開始します」
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