新たな遠征


「今回はかなり遠くまで遠征してもらいたい」


 会議早々ハルスさんは本題を話すことにしたようだ。

 その後ヘンリーさんが今回の犯人だと思われるルミナスの事。そして市長が怪しいという事を説明しだす。


「ということなんだ。だからあの塔。そして壁周辺の捜査をお願いしたい。脱出口はあるか。塔の内部に生存者はいるか。…できることなら誰が我々に任務を出したかも調べてほしい。まあ皆が生き残る事こそが一番大事だ。目的が達成しなくてもなるべく全員で生きて帰ってほしい」


「必ず全員生き残り情報を入手してきます!」


「頼もしいな。…頼んだぞ」


「はい!」


 リラさんが街の地図に今回の細かなルートを書き始める。

 今回は道がわかるメンバーとしてリラさんとボブさんの二人が警官側のメンバーとなった。


 今回のチームは一つ。遠出ができる最低限かつ優秀なメンバー。当然俺は選出されている。

 今回はかなりの遠出になるということでモッブさんは警察署の護衛となりハルスさんがチームのリーダーとなった。


 そして最後にオスプレイから取ってきたドローンを動かす用に武雄も付いてくることなる。

 メンバーはこの五名。かなり少ないが一日は外で泊まる必要がある距離。あまり大人数で行くとゾンビに気付かれる。


 適切な数だ。流石はハルスさん。メンバーのことをよく見て最適なメンバーを選んでいる。

 後は警察署の警備について。我々が居ない間の事を話し合う。


 トラップの配置や確認。ゾンビの襲撃が来た際の対処法。そして食料等の重要品に関する事等。

 ある程度考えが纏まり、会議が終わり次第すぐに俺達探索組は出発する事となった。



 俺達がすぐに出発する事を知ったシェフは一日二食の決まりを止め、俺達五人に特別力のつくメニューを作ってくれた。


 民間人や警官の人達。そして傭兵の人達。


 全員が俺達の出立に見送りに来てくれている。全員の目から希望が見える。

 だがその中には不安や恐怖といった多くの負の感情もあった。


 しかし皆負の感情を出すことなく笑顔で俺達を送ってくれる。これで俺達が不安そうな顔をしてはそれこそ駄目な行為の筈だ。

 後ろ髪を引っ張られる感情を推し堪え、門の上へと登る。


「皆……。気おつけて」


 クライドさんがはしごを下ろしてくれた。近くにいたゾンビはクライドさんが既に討伐済み。

 お陰で楽に先へと進める事が出来る。俺達はクライドさんに感謝し先へと進んだ。



 後ろをちらりと見るとほぼ全員が俺達に手を降っている。

 必ず生きて情報を掴み取ろう。チームの心が一つになった瞬間だった。

















「うおりゃっと!!!」


「良くやった。これでこの区域も制圧できたな」


 武雄の一撃が近くにいたゾンビの頭を潰し殺す。俺たちはなるべく節約のため基本ステレス。そして銃を使わず仕留める。

 お陰で銃の発砲音でゾンビを呼ぶことなくここまで楽に動くことが出来た。


 それに何より楽に動ける理由はゾンビの数が何故か少ないのだ。

 一体何故なのだろうか…。その疑問に答えてくれたのはボブさんだった。


「なんか妙に数が少ないわね」


「そりゃそうだろ。ここは住宅地だ。人口の半分程度は学校行ったり会社へ行ったりしてる。今この場でゾンビになっている奴は殆どが主婦だろ」


「だから数が少なかったのか…。」


 言われてみれば見た範囲にいるゾンビの大半は女性。……待てよ? つまり人の多い塔の周辺はかなりの数ゾンビが…。



 いや…いや! このレベルなら問題はないはずだ。いざとなったら俺が囮にでも…。


「ユウキ? 大丈夫?」


 あ…しまった。少しボーとしていたのがバレてしまった。


「いや…何でもないです。……そういうことなら塔の周辺はヤバそうだと思っただけです。いざとなったら俺が大暴れするだけなんで大丈夫ですけどね」


 俺の発言にリラさんは何故か曇るような表情になった。

 ……俺は何か間違えたのだろうか?



「いいユウキ。私達は全員生存を目指しているの。分かる?」


「ええ。だからいざとなったら俺が囮に…」


「そこには貴方も含まれているの。私は貴方にも死んで欲しくない。……ずっと不思議だったのだけど貴方自分を勘定に入れていないんじゃない?」


「……え? いやいやそんなこと無いですよ。…気のせいじゃないですか?」


「…………そう? ならいいんだけど」


 息が詰まる。確かにその通り。俺は自分の命を基本含めていなかった。

 むしろ皆が助かるなら喜んで自らの命を断つ事だって選択できる。


 ……だが彼女は封じてきた。俺に圧をかけ自死を選ばないように。

 獣の勘とでも言うのだろうか。無意識の内に俺の言動や行動の数々から気づいてしまったのだろう。


「なんかあったのか?」


「いや何もなかったよ。ただちょっと話していただけだ」


「ならいいんだが……。何かあったら俺達を頼れよ」


 リラさんの表情を見て少し距離を置いていたボブさんが恐る恐る俺に話しかけてくる。

 俺は何でもないと軽くあしらうと少し早足に周囲の探索を開始した。



 ……誤魔化すのが下手くそだな。…本当に。



『相変わらず言い訳が苦手なんだね〜』


「…ッ!」


 ……ああクソっ!ここ最近ずっとこんな感じだ。頭の中に過去の光景が蘇り始めてる。


 リラさんは前に居るハルスさんに現在地を説明していた。

 俺はそんな彼女を見てつい…ポツリと言葉を漏らす。





「……そんなこと言われても。…俺の心は止まらないんだ」





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