簡易的な供養


「……え?」


 最初に声を上げたのはリラさんだった。その後すぐにボブさんが叫びだす。


「おいおいおい!!! 勇気!! お前一体何したんだ!?」


「……一瞬で倒した」


 全員が啞然とこちらを見ている。俺はそんなことお構い無しにリラさんに手を差し出した。


「話しは後! すぐにこの場から逃げる! 早く手を!!」


「あ、ええ。分かったわ。」


 リラさんが俺の手を掴み立ち上がる。困惑しているようだが話しを聞いてくれて良かった。

 さてこれは…俺が一番前になったほうが良いな。俺なら奇襲にも対応できる。


「俺が一番前になる! リラさん! 道を教えて!」


「え、ええ!! あの路地を右に曲がって、後は真っ直ぐよ!」


 頭を粉々にしたゾンビ達の死体を踏みつけ先へと進む。

 路地を曲がる先にも何人かのゾンビが影に隠れ襲いかかってきたが全て返り討ちにする。


「本当にお前……何者なんだ?」


「ただの大学生です! 昔色々やってた……だけ!!」


 近くにいたゾンビの頭をホームランボールに変えながらボブさんの質問に応答する。


 スコッチさんはグッタリとしている。先程の恐怖や今までの色々が体に来ているのだろう。

 彼はチラチラ後ろの様子を確認してくれている。


「後ろの方。見えなくなったよ。速度落としてくれるとうれしいな……。そろそろ吐きそうだ……」


「おっとわりいわりい。勇気! もう後ろゾンビいなさそうだし少しペースを落としてくれ!」


「了解!」


 ペースを落とし、辺りの警戒をより強める。



「クソッ。嫌なものを見た」


「どうしたの?」


 俺と同じで先行していたリラさんが俺の見ている方向を見る。そして俺と同様に眉を顰め吐きそうな声を出す。


「ねえ…。あれってもしかして?」


「人を食ってる。スコッチさんを噛んだ時にまさかとは思ったけどこれは……。」


「…………早く……行きましょう。気づかれないうちに」


 三、四人のゾンビが一人の人間を貪り食っている。

 既に死んでからそれなりに経っているのが食われ具合からよく分かる。


 血の匂いがここまで来る。隣にいるリラさんを良く見ると死体の方をチラチラと見ている。

 とても悲しげな表情。あの死体をここに置きっぱにして食われたままにするのが嫌なのだろう。



 …………やるか。


「リラさん。二人をここまで連れてきて」


「え? 貴方はどうするの?」


 警棒を構え、改めて敵の様子を観察する。死体を貪っているのは四人。

 一人は上手く食えずに少し距離を置いている。そして近くには七人ほど。問題はない。


「あの死体を瓦礫の中に隠す。流石に瓦礫の中に潜り込んでまで人の肉を食べようとはしない……と思う」


「…………ありがとう」


 リラさんが離れた所にいる二人を呼びに行く。距離的に一分もかからない。


 だがその程度あれば確実に何とかできる。


「……フッ!」


 即座に死体に群がるゾンビ共に対峙する。警棒で二人殺り、もう片方の手でゾンビの頭を殴り殺す。ゾンビの頭が抉れ、少し手に嫌な感触が残る。


 そして少し遠くに居たゾンビを近くにあった道路の破片を投げ転ばせ、頭を足で潰す。


「ア〜〜〜〜〜〜!」


 何人かのゾンビが俺に気づく。すぐに死体を傷つかない様に気をつけながら瓦礫の中に隠す。

 更に場所が分かるように目印を付けておきゾンビが来れないようにすき間を少なくしておく。これでひとまず安心だ。


「ア〜〜〜〜〜!」


 ゾンビ達がこちらに近づいてくる。俺は近くにある車のドアを力で外し、全力で投げる。


 二人のゾンビの頭が吹き飛び倒れる。その間に反対側のゾンビの方に駆け寄り、頭を殴り飛ばす。


 最後に近づいてきたゾンビを蹴りで転ばし、頭を踏みつける。



 これで全滅だ。


「勇気!」


 お、丁度こっちに来た。俺は三人に現状を説明し、死体のある場所を教えておく。


 ボブさんに怒られ、スコッチさんに心配されたがこの程度なら何の問題はない。

 リナさんはボブさんを止め、改めて俺にお礼を言うと死体に祈りを捧げている。


 その後は再び移動。警察署へと向かう。



「ア〜〜〜〜〜〜」


「何処から!?」


 真っ先に動いた俺に続き、他の皆も周囲を見渡す。だがゾンビどころか人影一つ見えはしない。


「ア〜〜〜〜〜」


「また声が聞こえた!」


「だけど何処にいるか分からない!」


「あ、あそこ! あそこの下から聞こえてきますよ!!」


 スコッチさんが声の聞こえる場所に気づいた。車の下。

 あそこは確か………俺がゾンビを車のドアで殺した所?まさかまだ生きてたのか?!


「もしかしたら生き残ったゾンビかも…。俺が見るから三人はここに」


「念の為私が後ろで援護します。ボブ。貴方は周囲を警戒して」


「了解。……二人とも。気をつけろよ」


「死なないでくださいね……」


 車の陰に隠れる。この向こうにこの唸り声の犯人がいるはずだ。息を吸い、心を落ち着かせる。




 今だ!


 高速で跳び上がり向こう側の様子を確認。




「…………」


 目の前には頭がグチャグチャに潰れた遺体と頭と胴が切断された死体。どちらも完全に沈黙している。


 念の為、遺体を確認してみよう。警棒でツンツン触れてみる。だが何も反応はない。


 次は切断された胴。こちらも何の反応はない。

 最後は頭だ。正直気味が悪いから早く終わらせたい…。


 俺は警棒を使い頭をツンツンと触れる。

















 その時、頭だけのはずのゾンビの目が開かれた。





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