彼は覚悟を決める


「チィ!」


「うわああああ!!!!!」


「ヒイィィィ!!!!!!」


「皆警戒! 音で奴らが来るかも!!」


 真っ先に行動に移したのはリラさんだった。即座に銃を構え周囲を見渡す。

 俺も警戒すると近くに居たゾンビの何人かがこちらに気づき向かってきた。


 流石に落っこちてきたゾンビのうち何回かは動くことはなかった。

 しかし逆に言えば数人は動く者はいるということ。

 俺はそいつらを構えていた警棒で殴り殺す。


 こいつらの弱点は恐らく頭だ。トイレに居た女ゾンビは心臓付近を撃ち抜かれて生きていた。

 しかし頭。特に脳にダメージがいくレベルの攻撃をすると動かなくなる。生きていても体が動かせなくなれば意味がないのだろう。


「頭に対して怪我の無いゾンビだけが生きてる! 弱点は頭だ! 頭を狙え!」


「! ……ありがとう! 参考にするわ!」


「よおっし!! このまま突っ切るぞ! あっち側から行けば人の少ないルートで通れるはずだ!」


「!? いや待ってください! 上からまた降ってきます!」


 ルートは決まった。全員でそちらを目指そうとするがスコッチさんの言葉ですぐに止まり、屋根のあるルートを通りながら進んでいく。


バリーン!!!


 派手な音共に次々ガラスが割れ、建物の中に居たゾンビ達が落ちてくる。まるで雨のようだ。

 もしあのまま屋根の無い場所に居たら確実にゾンビや窓ガラスの破片に直撃して大怪我、最悪の場合死を迎えていただろう。


「進め進め進め!!!! 立ち止まるな!!」


「ゾンビ達が起き上がる前に! この場所から脱出しましょう!!!」


「ヒイィィィ!!! 今、今一瞬目が合った!」


「死ぬことに躊躇いが無さすぎる…。不味い!前からも来る!!!」


 ゾンビ達の落ちる音を聞きながらただひたすら前へと進む。

 だが屋根のあると言うことは建物の近くだということ。建物の中に居たゾンビ達が出入り口から続々と姿を表す。既に前はゾンビ達で埋もれてしまった。



 しかし…ここを抜けなければどのみち俺たちに未来はない。


「道を! 開けろ!!」


 リラさんが次々とゾンビ達のド頭を銃でぶち抜く。支給品を改造したらしく、真後ろにいるゾンビにも銃弾が届き、倒していく。


「援護する!!!」


 リラさんに襲いかかろうとするゾンビを次々とボブさんが倒す。

 リラさんに弾丸が当たるスレスレの所も撃っている。だがリラさんは1ミリもビビっていない。互いの信頼関係がこういうとこで良く分かる。


「はあああああ!!!!」


 そしてゾンビ達に近づき、一人一人を確実に近接格闘で仕留めていく。特殊警棒を武器に頭を砕き割る。

 ゾンビ達は数が多いだけで動きは単調。ノロノロしているし単体の脅威はそこまでではない。










 はずだった…。


「う〜〜〜〜〜……………」


「「「!?」」」


「………どういう事?」


 突如、全てのゾンビの動きが完全に止まる。

 まるで突如機械の電源を切り止まった時のように完全に反応が途切れた。


「訳が分からねえが今なら行けるぜ!!!」


「ええそうね!!! 早く行きましょう!! さあこっちよ!!!」


 次々と棒立ちになったゾンビ達を突き飛ばし前へと進む。おかげで道は開けた。



 だが…絶対に何かあるよな。これ。








「…………ア〜〜〜〜〜!!!」


「「「「!?」」」」


 今までとはまるで違う唸り声。もはや咆哮とすら言えるだろう。

 こちらを睨みつける目は先程より更に血走っている。獲物を見つけた肉食動物のような目だ。


 皆、今の状況がヤバイと察しているのだろう。言葉はない。だが全員同時に走り出した。

 建物の角を曲がり少しでも視界から外れようと試みる。


 ゾンビの雨は既に途切れている。屋根のないエリアを走っても何の問題はない。



「前に三人! 私が排除する!!」


角を曲がった先には三人のゾンビ。即座に三連射でゾンビを仕留める。

 しかし建物の影にもう一人のゾンビが現れた。


「リラ!!!」


 ボブさんが銃を撃とうと構える。しかしリラさんの体と重なり完全な死角。

 だが流石はリラさん。どうやらゾンビが居たことに気づいていたようで頭に強い蹴りを放つ。









本来決まる攻撃。しかしその攻撃は避けられた。


「何?!」


「避けただと!!!」


 今まではただ攻めるだけだったゾンビが唐突に回避を始めた。しかも驚くべき事はこれだけでない。


「あ〜〜〜〜〜〜!」


 ゾンビは勢いよく手をぶん回し、リラさんを薙ぎ払った。


「ガッ…。」


 威力自体はそこまでではない。しかし今までのゾンビとはまるで思えない行動に対するショックのせいでリラさんは一瞬動けなくなってしまう。


「マズイマズイマズイ!!! ゾンビがもうそこまで来てる!!!」


 後ろの様子を見ていたスコッチさんが叫びだす。

 後ろには先程からずっと俺達を追い続けていたゾンビ達の大群が来ていた。


「それだけじゃねえ! 前からも更に来たぞ!」


 前からも更に十数体ほど現れた。リラさんは負傷。ボブさんはスコッチさんを抱えている。






 まともに動けるのは………俺だけだ。




 顔を上げ、妙にうっとうしい空を見る。






 瞬時、脳裏に浮かぶのはあの事件で散っていった仲間達との記憶。



 ボブさん、スコッチさん、そしてリラさん。三人を見ていると昔の記憶がフラッシュバックしてくる。

 きっと似てるんだ。世界を救う為に命を懸けた優しかった仲間達と。




 なあ…これで良いのか?



 俺はここに居る全員を助けられる。それなのに自分の死を優先して皆を助けないなんて…。本当に良いのか?











 良いわけ…………ない!!!!



 俺が死ぬのは良い。だがこの三人は本当に優しい人なんだ。

 もしこの三人が死んだら、それはあの日皆を助けるために死んでいった仲間達に対する最大の侮辱。



 この命。全てを燃やして三人を助ける!




 俺は三人が認識できない速度でリラさんを吹き飛ばしたゾンビの頭を砕き割る。


「「「!?」」」


三人が驚き声を上げるが一切無視。即座に前側にいる十数体のゾンビの軍勢に襲いかかる。



ゾンビ達は今までとは打って変わって動きが滑らかになっていた。更にこちらに攻撃を行ってくる。



 だがそれだけだ。


 ゾンビ一体につき一秒。俺が止まった時には既に前にいたゾンビの軍勢は倒れていた。



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