第七話 ――魂律と神格、最終決戦の刻

銀色の天が鳴動し、星々がその光を失った。

ここは【神界・第零階層】――世界の創造以前に存在した、“原初の空白”。


その空間にて、冥府王カイと、管理者ゼロ・オーバーの決戦が始まっていた。

だが、それは単なる戦闘ではない。


世界そのものの“あり方”を問う、存在の対話だった。



「……お前たちがこの世界を創ったのか?」


カイの声が響く。

ゼロ・オーバーは応えない。ただ、その無機質な顔に埋め込まれた十二の観測眼が煌めいた。


『肯定。創造主たる存在“マスターコード”の意志により、観測と調整を任された我々は、この世界を支配下に置いた』


『霊核、魂、運命、因果――すべての変数を管理下に置くことで、世界の均衡を保っていた』


「その均衡の結果が、リィナの死か……? 俺の追放か? ルシアの悲しみか!?」


『それも、最適解であった』


「ふざけるな――!」


カイは叫び、空を駆けた。


幽光翼が輝き、超高速の軌道で管理者に肉薄する。

その剣は魂を削り、神性をも穿つ。


だが、ゼロ・オーバーは無傷のまま、空間を“再定義”して立ち塞がる。


『存在座標、再配置完了。攻撃無効化』


ルシアが叫んだ。


「物理法則をも書き換える……まさに神の力!」


「だが、それがなんだ。俺はそれすらも超える!!」


カイの霊力が暴走を始める。


その身体に刻まれた“冥府の印章”が裂け、無数の死者たちの魂が迸る。

カイはそれを制御するどころか、自らに取り込み始めた。


「魂律者を超えた存在へ……!」



『警告:対象、魂核汚染率89%。変異の兆候確認』


『対象、既に人類カテゴリーを逸脱。識別コード変更:神性存在“ファントム・オーバー”』


ルシアが驚愕する。


「……カイ、あなた……」


「大丈夫だ。リィナが俺を守ってくれている」


その言葉通り、彼の胸元には、リィナの残した魔石が淡く輝いていた。


それは魂の安定化を保つための核。リィナの“祈り”が宿った光。


「お前たちが切り捨てた命が、俺をここまで導いてくれた。

ならば、この刃に込めるのは――神への復讐じゃない。世界を奪還する、“希望”だ!!」


カイの剣が変化する。

それはもはや物質ではない――魂そのものが結晶化した“真理の剣(アエテルナ・レギア)”。


対するゼロ・オーバーもまた、最終武装形態を展開する。


『最終防衛兵装:創造因子解放。コア名【マスターコード】、接続開始』


その瞬間――神界が揺らいだ。


無数の光が収束し、ゼロ・オーバーの背後に、巨大な存在が浮かび上がった。


それは神々の中央統合意志――マスターコード。


「……あなたが、神の本体か」


その声は空間全体に響く。


『我々は意思ではない。機構であり法則。よって“倒される”という概念は存在しない』


「ならば、“存在そのもの”を終わらせるまでだ!!」


カイが突撃した。


ルシアも叫ぶ。


「霊導魔術式――解放! “七聖鎖(セプト・シール)”!!」


彼女の詠唱と共に、七つの封印が空間に展開される。

その封印はマスターコードを抑え、空間の“再定義”能力を一時停止させた。


「……今だカイ! あの中央核を叩いて!!」


「いくぞ……俺のすべてを込めた――最後の一撃ッ!!」


霊剣が輝き、空間を断ち裂く。


管理者の装甲が砕け、観測眼がすべて潰えた。


そして――


カイの剣が、マスターコードの中央核を貫いた。


『――異常。制御不能。再定義不能。世界因子、自由浮遊へ……』


『……再起動、不可。終了を、受容する』


光が砕ける。


すべての神機構が、静かに崩壊していった。



そして、静寂が訪れた。


――神は死んだ。

――世界は自由になった。


「……勝ったのか……」


カイは膝をつき、空を見上げた。

空はもう銀ではなく、かつての青に戻っていた。


ルシアが近づき、彼の手を握る。


「ありがとう……あなたが、戦ってくれたから、世界は変わったのよ」


「いや……リィナが、みんなが……」


その時――彼の胸の魔石が砕け、微かな少女の声が届く。


「……よかった、ちゃんと……守れたね、カイ」


それを最後に、リィナの魂もまた、光の中に還っていった。


涙が流れた。

だが、それは悲しみではなかった。



こうして――


神に抗い、神を超えた男、冥府王カイ=魂律者は、

この世界に“自由”という名の祝福を取り戻した。


彼の名はやがて神話となり、

未来を生きる者たちに語り継がれるだろう。


“世界を救った英雄”として。

そして、かつて神に抗った、ただ一人の魂として――

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