第六話 ――神の黄昏(ラグナロク)
天が灼け、空が燃えた。
王都ベルグラードの上空を埋め尽くす“神の門”――
その中央に立つ、神界の管理者ゼロ・オーバー。
「対象:冥府王カイ。変異形態――魂律者(ソウル・アーク)確認。霊格値、予測超過」
『――再評価。危険度を“神性災害(セレスティアル・カタストロフ)”に引き上げ。』
霊子演算の声が響くたびに、空間が軋み、法則が歪む。
世界は既に“通常のルール”での運用を放棄しつつあった。
だが、カイは怯まない。
彼の両腕には、かつて死者の王として築き上げた【魂の剣】と【霊盾】。
そして今、リィナの意志を宿した光が、それを進化させていた。
「……神の言葉は、ただのノイズに過ぎない。
世界を支配するつもりなら、力でねじ伏せてやる」
魂律者――それは、人と死者、二つの存在の境界を越えた新たな進化系。
霊格、霊圧、霊核のすべてが、神すら凌駕する可能性を持つ。
それを証明するように、カイは一歩、空へと踏み出す。
“飛行”ではない。空間そのものに“在る”ことを選ぶ、存在の跳躍。
「……来い。管理者ゼロ・オーバー。神の名を冠するにふさわしい戦いをしよう」
『受理。戦闘領域、神界第七階層に移行』
空が砕ける。
王都を包む空間が転移し、すべてが白銀に染まった――
◆
【神界・第七階層】
そこは存在の始まりと終わりが交差する、永劫の虚無。
星々は浮かび、時は流れず、音は存在しない。
ただ、神の監視者たちの目だけが全方位から輝いていた。
そしてその中心に、二人の戦士が対峙する。
冥府王カイ=魂律者。
原型管理者ゼロ・オーバー。
光と影、霊と霊。
世界の運命すら揺るがす戦いが、始まった。
「“霊技――魂刃・断界閃”!!」
先手はカイだった。
霊素を圧縮し、実体剣の形を取った斬撃――それは空間そのものを斬り裂く。
ゼロ・オーバーは回避しない。
無数の観測眼が光を放ち、空間の「破壊因子」を吸収・無効化する。
『解析完了。対霊刃装甲展開。次撃、無効化予定』
「なら、これはどうだ……“魂喰らいの双翼(フェントファング)”!!」
カイの背から伸びる六枚の幽光翼が裂け、霊素の矢と化して降り注ぐ。
「対象固定。遮断不能。システム干渉レベル:超過」
ゼロ・オーバーの装甲が、はじめて音を立てた。
その巨体の一部が削れ、銀の液体が宙へと散る。
『損傷確認。自己修復シーケンス起動』
「自己修復? だったら、修復する暇すら与えない――!」
カイは空間を跳躍し、一瞬で背後を取る。
その剣が閃いた瞬間、ゼロ・オーバーの首を貫いた――はずだった。
「……っ!?」
空間が逆流する。
『神域再調整。時軸、5秒巻き戻し。行動優先権、管理者へ再付与』
「時を……巻き戻しただと!?」
ゼロ・オーバーは“戦闘そのもの”を巻き戻した。
未来を見て、過去を選び直す。
それはまさに、“神”の所業だった。
「だからこそ、神を殺す」
カイは呟く。
霊力が炸裂し、彼の全身から黒炎のようなオーラが立ち昇る。
もはや通常の霊核では制御できない“超霊圧状態(オーバーソウル)”への移行だ。
「俺は、死の王だった。
そして今――生と死の全てを統べる、世界の“意思”となる」
◆
その時、空間の外から響いた声があった。
「……待たせたわね、カイ」
それは、ルシアの声。
白銀の鎧に身を包んだ彼女が、神界へと現れる。
そして、その手には――かつてリィナが持っていた魔導書、《魂記(ソウルログ)》。
「リィナが、残してくれた。あなたのために、神に抗う術を」
彼女の周囲に光の紋章が展開される。
それは古の神を封じる“聖印魔術”――禁じられた最上級術式。
「私も、あなたと共に戦う。たとえ相手が神でも、命を懸ける覚悟はある」
カイは頷いた。
「なら、共に行こう。――神を討つために」
◆
「最終戦闘シーケンス、起動。神格武装:降臨形態“ケイオス・コード”展開」
ゼロ・オーバーの体が変貌する。
その巨体は三対の翼を生やし、両腕は光剣に、背中から無数の神雷が展開される。
“神殺しすら殺す”兵器の形態――それは神が設計した、最終の終末装置。
「来い、管理者。これが、俺たちの――“ラグナロク(神の黄昏)”だ!!」
空間が震える。
命と魂、記憶と祈り、怒りと赦し――
すべてを賭けた戦いが、いま開幕する。
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