#4 「仲間が増える日」
2024 4/15 9:30
僕は今年初めての講義に参加した。
去年はなんとか単位の上限まで取れたけど、今年はどうだろう…?
とりあえず、留年とかは回避したいな。
いつのまにか、部室ができている。
場所は…2号館の3階、315号室。
これも忍さんが手配してくれたのか…。
扉を開けると、忍さんの他にもう1人いることに気がついた。
ちょっぴり和風なワンピースに身を包んだ小柄な女性は、僕の存在に気づくやいなや物凄い勢いで捲し立ててきた。
「おー、貴方が部長でござるか!おそらくしっかり者でござろう!名前は、えっと、えっと…エーゲツ、殿?」
…何で僕が部長ってことになってるんだろう?
あいつ、適当言って押し付けたな。
「え…あ…はい、僕が盈月ですけど…」
「此方、ついさっきこのサークルに入りもうした1年の深瀬澪(ふかせ みお)でござる!以後お見知りおきを〜!!」
「あ…よろしくお願いします」
何で僕の周りにはうるさい人しかいないんだろう…。
胃と耳が痛くなってきた。
「俺知らなかったんだが、サークルの結成って3人以上じゃないと認められないんだってな。リサーチ不足だったぜ…」
「それは要項をちゃんと見てくださいよ…」
それじゃ、スタートメンバーは僕と忍さんと澪さん…ってとこか。
確か、僕達2人だけだったときにこの世界とは違う裏世界?を調査したり攻略したりする探索者になってみようと奮起して登録をしたんだよな。
「早速で申し訳ないが、このサイトって知っているでござるか?」
「こ、これは…」
N.E.C.の公式サイトが澪さんのタブレットに写っている。
結構有名なんだ…。
「お?これは知ってて実際に使ってる反応でござるな〜?…ユーザーネームって教えてくれたりするでござるか?此方は【ミッドナイト朝比奈】でござるよー!」
「ぼ…僕は【望月】って名前でやってます…」
「俺は【つつじ】だ!」
あんまりこういうこと聞かないと思うのは僕だけか…?
それにしても澪さんのユーザーネーム、何か古傷を抉ってきそうな。
まぁ…人のネーミングセンスに口出しするのも野暮か。
「後でフレンド登録するでござるよー!」
「フレンドとかあるんだ」
「知らずに昨日の晩知ってる奴にDM送ったぜ…」
帰ったらお兄ちゃんのアカウントにも申請してみようかな。
頼れるし、大好きだし。
「知ってるなら話は早いでござるが、誰も入ってない裏世界の情報が何故か記載されてること、あるでござろう?」
「ああ、大分事細かにな」
「一体誰が書いてるんだろう…。ハッカーとかですかね?」
澪さんがふふんと鼻を鳴らした。
やっぱり何か知ってるし、関与してるのか?
「此方達はそういう場所を調べ上げて、ネットに情報をうpしてるんでござるよー!」
「な、なんだってー!?」
どうやって調べてるんだろう…。
やっぱり監視カメラみたいなのが裏世界のどこかに張り巡らされてて、それをハッキングしたりして情報を得ているんだろうか…?
「んま、一回実演してみるでござるよ!」
澪さんがふんふん、ふむふむ…なるへそ、と何かを呟いている。
数十秒経つといきなり、ぶんっと頭を上に振った。
「えーと、えーと…この建物の314号室に裏世界の入り口が出来てて…6級からでも攻略が可能で…結構広いみたい、でござる」
「すぐ隣か」
「す、凄い…」
もう出来てるってことは、なるべく早く行った方がいいのかな。
準備ができたら、早速向かおう。
314号室っていうと…ネットミームを専門に取り扱うサークルの【下北沢BBS】が部室として使っている部屋か。
中に入ると机に物が散らばっていて、ついさっきまで誰かがいたような痕跡が見受けられる。
活動で使うのかもしれない異様に大きな枕とかも椅子に置いてある。
入り口は…部屋の隅っこにある。
奥の方にどこかの景色が見える…。
僕は意を決して、裏世界に足を踏み入れる。
忍さんや澪さんも、後に続く。
…ここは、車の中?
運転席や助手席、後部座席に僕達が座っている。
窓の外には広大すぎる駐車場が広がっているようだ…。
真ん中に、大きな箱がある。
開けてみたら黒い液体で満たされていた。
これが、今回の武器庫?か。
僕達は前3回と同じように武器を取り出す。
澪さんは…取り出す気配がない。
まさかおとといのアンジュさんみたく拳で戦うのか…?
注意深くドアを開ける。
黄色い空に照らされたアスファルトが、鈍く光っている。
前方の奥の方に大きい建物がある気がするけど…。
横を見ると、ふんどし一丁のオークが立っている。
いい体付きだな…。
そうやって2度見3度見していたら、チラチラ見てただろと言わんばかりにオークが物凄い速度でこちらに向かってきた。
「出たな!喰らえ!」
忍さんがガトリング砲を発砲すると、数多の弾丸が宙を瞬時に駆け抜けオークに命中する。
無駄にエイムいいな…。
オークは一瞬たじろいだけど、すぐに立て直してパンチを繰り出そうとしている。
…僕もこんなおっさんに負けてはいられない。
「こ、攻撃が当たりませんようにっ!」
札を掲げると、たちまちそれがでかい枕に変わる。
僕達の胴体をカバーできているようだ。
オークの拳の威力がクッションによって吸収され分散し、前方に向かう効力を失う。
反動で大きく態勢を崩した。
「チャンスでござるな、行くでござるよっ!」
澪さんがスマホのライトを向けると、オークの体が塵になっていく。
…青色の、何かの玉を見つけた。
これは、何だろう?
「緑の玉なら昨日のDMで聞いたんだがなぁ」
「あ、それは魔力の補充ができる代物でござるな。使ったら札とか、弾丸の残量が補充されるでござるよ」
「あの、魔力ってなんですか?」
「えーと、…えーとぉ…それは…」
何て説明したらいいんだろう、ああこれを見せれば一発だ、と澪さんがスマホのボタンを押す。
すると空中に僕達の顔とN.E.C.のユーザーネーム、それに緑と青と赤色のバーと数値が書かれたインターフェースが表示された。
僕は…緑の数値が2人に比べて低いけど、青はちょっと高そうだ。
「これの青い部分が魔力でござるよ!」
「うーん、わかったようなわかってないような…」
「今の2人だったら攻撃ができる残量とだけ覚えておけば十分でござるよ」
それじゃ、緑は体力でも表しているんだろうか。
咄嗟のときに打たれ弱いのは嫌だな…。
じゃ、赤は必殺技ってことか?
まだ技も思い付いてないのに…?
「こういう裏世界にはクリア条件みたいなものが存在するでござるよ」
「ゲームみたいだな…」
「今回のって、分かったりしますか…?」
「んーと、今回の、裏世界…車に閉じ込められている部員を全員助けて最深部でボスを倒す、でござるよ!」
車…?
そういえば、スタート地点のものの他に、4台停まっている。
ここから近いものから、建物側に停車しているものまで。
どうにかして開けて、救助すればいいのか。
僕達はまず、1番手前の車を開けてみることにした。
物理的にどうやっても、開かない。
内側からロックがかかっているのか…?
それなら…。
「車の扉が、開きますようにっ!」
次の瞬間、ドアが吹っ飛んだ。
忍さんの顔に激突して、悶絶している。
ど、どうしよう…。
「し、忍さんの顔のダメージが、和らぎますように!」
そう叫んだ途端、忍さんの表情が元に戻った。
完全に消そうとしたらとてつもない量の札を消費しそうだったので、とりあえず緩和ぐらいの処置はしてやった。
「こ、ここは…syamisen氏行きつけのスーパーのジョンソン…?」
意識が朦朧としているようだ…。
1人目の部員をスタート地点の車に運んで、仕切り直し。
ちなみにsyamisen氏とは25動画での有名人のこと。
2台目の車の前に行くと、近くの台にグラスが置いてあった。
周りの環境でよく見えないけど、これはアイスティー?
…いや、多分それだけじゃない気がする。
「おお?飲み物が置いてあるなんて優しすぎるな、そんじゃ、早速ーー」
「ま、待ってください!」
「ん、どうした?飲みたいのか?」
「ち、違います…。具体的に何の作品かは伏せますが、ネットミームになった作品にこのアイスティーが出てくるんですよ。しかも、睡眠薬を盛られて!」
「な、なんだってー!?」
「一応、回収しておくでござるよ」
一瞬バレるかと思ったが、触れられないで助かった。
危ない危ない…。
ドアはアイスティーの入ったグラスを持ち上げると開錠した。
どういう仕組みだ…。
「枕が…でか…すぎ…」
こっちもあまり反応が多くない。
持って運んで、次の車へ。
3台目の車の横にも台が置かれている。
これは…ブラウニーだ。
しかも、これは老舗ブランドの晩餐会のココアを使ってる…!
こっちも持ち上げたらロックが開錠された。
中から意識がある部員が出てくる。
一瞬どっかで見たようなキメ顔をした後、スタート地点の車に向かって一目散に走っていった。
次は…4台目。
近づいただけで開錠された。
中から動ける部員が出てきた。
いや…出てきたけど、あれは正気か?
一声ゴリラみたいな声を上げて…僕に向かってくる!
何で僕なんだ…。
いい男なら忍さんの方がそれっぽいだろ!
とにかく逃げないと…。
捕まったら何されるか分からない!
…大分距離を離せた。
よし、ここで…。
「正気に戻りますようにっ!」
しまった、勢いあまって残りの札を全部…!
とりあえず、部員は正気を取り戻した。
最初の車の方に駆け抜けていく。
「すげぇ逃げ足だな…」
「自動車並みの速さは出ていたんじゃないでござるか?」
これで建物の中に入るとボス戦ってところか。
でも、その前に…。
「あ、盈月殿も春ヶ崎殿も魔力が空っぽでござるね」
「さっきから弾が出ないと思ったらそういうことか」
澪さんに教えてもらう通りに、玉を地面に叩きつける。
すると、札が50枚ぐらい手元に降ってきた。
…さっさと倒すか。
僕達は建物の扉を勢いよく開けた。
これは…有名スーパーチェーンのジョンソンの店内だ!
けど…商品が何もない。
中心に茶色の核みたいなものがあるだけだ。
…何か、飛んできて…。
しじみの中身だ、なんでこれだけ!?
当たったら痛そうだし、避けるか。
核がへたりこんだ隙に忍さんが攻撃する。
いい感じに当たってるな…。
「敵の体力、半分を切ったでござるよ!」
マイクも飛んできてる…!
これ、まさか超人気バーチャルシンガーの笹身タラの特注品!?
殺傷力が増してるな…うっ!?
まずい、当たった、回復しないと…!
「いたっ!みが…和らぎますように…!」
これである程度は回復できたかな。
その隙に忍さんがまた攻撃を加えて…。
核が、砕け散った。
タラのマイクを人数分回収すると、いつのまにかもとの314号室に戻っていた。
1人だけ妙に頭が冴えているけど、気にしない方向で。
もう夜になっている…。
早く帰らないと…。
「それじゃ、今日はこの辺で」
「お疲れ様でした」
「また明日、でござるよー!」
僕達は別々の方向へと歩みを進める。
それぞれの家に帰るために。
「おとーとっ、おとーとぉ!」
「うるさいってば…」
家に帰ると、お兄ちゃんが玄関で待っていた。
お姉ちゃんもひょっこり顔を出している。
「うわ、明らかに疲れてそうな顔…早くお風呂ってきなよ」
「お風呂は動詞なの?」
今日は…ボルシチ?
偶然とはいえ、家に帰ってからもネットミームか。
けど…美味しい。
裏世界から持ち帰ってきたブラウニーを切り分け、3人で食べる。
「お、おいしい…!」
「これ、晩餐会のブラウニーだよね!?うわ〜、嬉しいなぁ〜!」
ふわふわでしっとりで、優しい甘みだ。
なんでこんなものが裏世界に…?
多分明日も、裏世界の探索は免れないだろう。
でも、忍さんや澪さんのおかげで少しだけ気楽に考えられるようにはなった…のかもしれない。
【おまけ:動きたくない1人を動かす1人】
「さっさと動きなさい!掃除の邪魔です!」
「う…動きたく…ない…」
摩耶のキンキン声がとてもうるさい…。
俺…甘利京は自分の部屋で寝ていた。
毎日が休日というのは本当に素晴らしい。
だが、それを阻むものがいる。
それが、この摩耶という訳だ。
「ほら、起き上がりなさい!」
「足で…蹴るな…」
あんまり転がっていると武力行使をされるので、渋々起き上がる。
摩耶がポケットに手を当てる。
「おいで、もきゅさん!」
ぽよぽよと摩耶の顔の姿をした珍生物が這い出てくる。
ざっと3匹?ぐらい。
そいつらが、部屋に溜まった埃を食していく。
さも美味しそうに。
5分ぐらいで俺の部屋は輝きを取り戻した。
このまま怒られるのは勘弁だ。
何か…話題…そうだ。
「今日の…東京に…出たという…裏世界…見たか?」
「あぁ、えぬいーしーの。見ましたよ、それが何です?」
「もきゅ〜?」
あの裏世界は、俺からしても奇妙だった。
何故あんなに濃すぎる内容なのか。
しかも大方00年代のネタであった。
妙だ…。
「微妙に下劣じゃなかったですか?」
「そんなことは断じてない」
これに肯定してしまえば、俺が淫想厨とバレてしまうではないか。
微妙に八方塞がりな質問だったが、こればかりは摩耶が淫想を知らないことを祈るしかない。
「それで?甘利さん」
「何だ…?」
「これしきで某の説教から逃れられると思ったんですか?」
「な…なにを…」
「もきゅさん、取り囲みなさい!」
いつのまにか増えていた珍生物が、俺の周囲を囲んで覆う。
しまった、逃げられない…!
「じゃ、始めましょうか」
「よ、よせ…話せば…分かる…!」
「問答無用です!」
「うわあああああああああああああああああああああ!!」
摩耶の説教が終わる頃には、俺はすっかり気力を失っていた。
もう…何もしたくない…。
「起き上がりなさい!他の掃除も手伝ってもらいますからね!」
「…」
「返事は?」
「はい…」
どうやら俺はしばらく眠れそうにないらしい。
しばらく、付き合うことにした。
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…今回はネタを入れすぎた。
元ネタが何か当ててみてくれたら嬉しいなぁ…。
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