幸福の理由


 男は、幸福な生活を送っていた。

 自分のレベルからすると、不相応な幸せといっていい。

 なぜこれほど幸せなのか、きっかけが思い出せない。

 ある時、突然に降って湧いたかのように思える。


 話は過去にのぼる。

 男は、悪魔と出会った。

 ガタガタ動く大きな石があったので、動かしてみると、煙とともに現れたのである。

 それはまったくの偶然だった。


 悪魔は言った。

「お前の願いを一つかなえてやろう。ただしお前の記憶を一つ頂く。本来は選ばせないのだが、助けてもらった礼として、その記憶はお前に選ばせてやろう」


 こうして男は幸せを手にし、そのことを忘れた。

 悪魔の記憶など持ち続けても、良いことはないからだ。

 あなたがもし今 幸せなら、その理由は考えない方が良い。

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