第37話 交錯する真実と想い
「癒しの泉を使えば——人を生き返らせることもできる」
その言葉が、私の胸の奥で響き続けている。 必ず、私は——あおいお兄ちゃんを生き返らせる。
山尾隆行から、お兄ちゃんが亡くなった真相を聞いた。
そして、癒しの泉の力が、人を蘇らせることすら可能だという話も——。
人への想いにより、泉が想い人の真実を過去を見せる。そこへ、もうひと押しを加えるだけ……。
幸いにも、お兄ちゃんはダンジョン内で亡くなっている。 想いの強さによって、エネルギーの抽出レベルが変わるらしい。
だけど、この想いは私だけのものじゃない。 あかねお姉ちゃんも、父さんも——みんなが、お兄ちゃんを生き返らせることを望んでいる。
きっと、私たちならできる。必ず——お兄ちゃんを取り戻す。
私たちは、25階層の癒しの泉まで辿り着いていた。
私たちは、カナタさんにすべてを打ち明けることにした。あの時、私たちは彼を欺き、無理に協力をさせていた——その事実からはもう逃げられない。
言葉を選びながら、一つずつ真実を語っていった。
自分たちの未熟さも、後悔も、すべて。
ただ、ひたすら真摯に謝った。
それでも、兄を生き返らせることへの協力を申し出てくれた。
しかし、結果的にカナタさんを欺いてしまったことへの後ろめたさが胸に残り、申し出られた協力を受けることはできなかった。
それでも華怜さんは諦めなかった。彼女は特に熱心に協力の意思を訴え、私たちを説得しようとした。
本当に、この二人には感謝をしきれない。
彼らのためにも、もっと前へ進む。そして、必ず兄を復活させる——その決意は、揺るぎないものとなった。
罪悪感と迷いの狭間で、私たちは別の選択をすることにした。
そこで、別のメンバーに協力を仰ぐことに決めた。
カナタさんの力を借りることなく、私たち自身の選んだ道を進むために——。
私は泉に腰まで浸かった。静かな水面に手を伸ばし、そっと指を沈める。
泉に込めるのは、ただ一つの強い意思——それは、人への想い。
お兄ちゃんに会いたい。生き返らせたい。この泉が、私の願いを受け止めてくれるのなら——その想いを伝えたい。
あかねお姉ちゃんも、お父さんも、そっと私の隣に立った。そして、静かに私の肩を抱手を添えながら、同じ想いを泉へと伝えていく。
それは、私だけの願いじゃない——家族みんなの願いなのだ。
……そして、泉は、いつも見ていた兄の笑顔を見せてくれた。
しかし——それだけではなかった。
泉が見せる兄の姿は、穏やかな微笑みから、やがて何かを伝えようとするように変化していく。 ゆっくりと——険しさが混じった表情へと移り変わった。
◇◆◇◆◇◆
「隆行、ここで見ていてくれ」
泉に入ったあおいが腰まで浸かるのを、俺はじっと見つめていた。彼は静かに目を閉じる。そして、ゆっくりと息をつきながら、手を泉の上へと広げた。
祈りではない——これは、彼の強い想いだ。ただ願うだけじゃなく、彼はその想いをエネルギーへと変え、泉へと送り込んでいる。
泉の表面が揺らぎ、淡い光が広がっていく。
それは静かに鼓動するように膨らみ、やがて俺たち全員を包み込んだ。
やがて光が収まると、そこは泉でもダンジョンでもなかった。
目の前に広がったのは、広々とした屋敷の一室——まるで王族の居室のような空間だった。
天井には精巧な装飾が施され、巨大なシャンデリアが静かに輝いている。 壁には金の縁で彩られた絵画が並び、深紅の絨毯が床いっぱいに敷かれていた。
豪奢な調度品が整然と並び、大きな窓からは柔らかな陽が差し込んでいる。
「なんだここは?」
「ここは、公爵の屋敷さ。泉が幻覚を俺たちに見せているんだ」
俺の問いに、すぐにあおいが反応した。
あおいは一点を見つめていた。微動だにせず、その視線の先には公爵と数名の人物—ただならぬ空気が張り詰めている。
部屋は静まり返っていた。しかし、それは穏やかな静寂ではない。まるで刃を突きつけられたかのような沈黙が、空気を重くしていた。
公爵の目の前にいる男は冷たく笑いながら、一歩前に踏み出した。低く、抑えた声で公爵に言い放つ。
「……娘と奥方の命が惜しいなら、余計な真似はしないことだ」
室内の空気がさらに重くなる。公爵は拳を握り締め、しかし何も言葉にしない。
そして、そのまま無抵抗に公爵は、男に殺された。
「エンチャントワールドの公爵の死…そのままだ…」
あおいが呟いた。
「ああ、そうだよ、京極あおい。お前も、この同じ運命を受け入れる時が来た。お前の家族——菜々花、あかね、慎吾、彩花の四人も、すでにここに連れてきた」
公爵を殺した男がこちらを向き、あおいに語り掛けた。
俺はとっさにあおいを見た。顔面は青白くなり、拳はぎゅっと固く握られていた。
次に、男を見たが、男の周りには人ひとりもいない。
人質を取ったセリフをしたにも関わらず、何も起きてはいない。
しかし、あおいの様子がおかしい…。
「何もないじゃないか、お前は何を言ってるんだ?」
俺は変化を求める為、俺は男に話掛けた。
「もういいんだ。隆行…。俺は死を受け入れる」
「はっ?」
何も取引なんて成立してない。にもかかわらず、あおいは死を受け入れると言い出し、俺は混乱した。
「ふざけるな、あおい!何を受け入れるっていうんだ? 何も決まっちゃいない!いいか、こんなのただの苔脅しだ!お前が死ぬ必要なんて、どこにもないんだよ!」
俺はあおいの肩を掴んだ。しかし、あおいは力なく俺に揺すられるがままだった。
しかし、目は俺をしっかり捉え…。
「記憶操作…。奴に乗っ取られた…」
記憶操作は、あおい固有のスキルだ。
相手に触れることが条件だが、記憶を作り替えることができる。
「乗っ取られた?奪われたってことか?」
「俺には、菜々花やあかねたちが人質とされたことがはっきりとわかる」
「何を言ってるんだ?記憶操作は触れられないと発動しないはずだろ? いや…仮に発動していたとしても、それが偽りの記憶だってことは、お前が誰よりも理解しているはずじゃないか」
「ああ、偽りの記憶だ。だが、悪意を持ってすれば、それは実現される。……まるで、公爵が辿った運命のように」
「悪意?実現?誰がそんなこと行うっていうんだよ…。それに家族が人質って…まるで公爵と同じ立場になっちまったかのように…って、えっ?そうなのか?」
「代わりに俺が人質になる…いや、贄となろう。隆行……逃げろ……逃げてくれっ!」
叫びながら、あおいは俺を突き飛ばした。
「それを行うのは、お前ら全員なんだよ!だから——頼む、逃げてくれっ!」
あおいの胸元に目をやった瞬間、眩い光が放たれた。何かが輝いている——いや、ブローチだ。見慣れたその装飾が、まるで生き物のように脈打ちながら光を放っている。ただの飾りのはずなのに、今は意思を持っているかのように鼓動し、まわりの空気を揺らしていた。
「逃げてくれっ!菜々花!」
俺は床に倒れ込みながら、あおいを見上げた。彼の瞳に宿る焦燥と恐怖——それは、ただの幻覚ではないと告げていた。
だが次の瞬間——視界がぐらつき、光が滲んだ。
「何これ……」
女性の声が響いた。俺のものではない。まるで、俺ではない誰かの意識が流れ込んできたかのような感覚。
再び、光が強くなる…その先には、あおいの妹、菜々花がこちらを見ていた……。
「何これ……これは山尾隆行が言っていた。兄の最期とは違う……」
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あとがき
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これを10回連打すると……。
「何これ……思ってたのとは違う……」
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